国立感染症研究所

鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例の状況について

令和4年4月22日現在
国立感染症研究所

 

 

鳥インフルエンザウイルス

 

A(H5)亜型ウイルス:

 2020年から2022年3月にかけては、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)を引き起こすA(H5)亜型ウイルス(N7を除くN1〜N8 NA亜型)が世界各地の家禽や野鳥(以下、愛玩鳥等含む)に蔓延し、アフリカ17カ国、北米2カ国、アジア18カ国、欧州36カ国での発生が報告されている。それらのうち、A(H5N1)ウイルスがアフリカ14ヶ国、北米2カ国、アジア11カ国、欧州33カ国で、A(H5N2)ウイルスが台湾及び欧州3カ国で、A(H5N3)ウイルスが欧州6カ国で、A(H5N4)ウイルスが欧州4カ国で、A(H5N5)ウイルスがアジア2カ国と欧州15カ国で、A(H5N6)ウイルスがアジア3カ国で、A(H5N8)ウイルスがアフリカ3カ国、アジア14カ国、欧州30カ国で家禽または野鳥から検出された(各国の発生状況については添付資料1を参照)(2022年3月28日現在。数値はOIE-WAHISに基づく) (1)。これらのウイルスでヒト感染の報告があるのはHPAI のA(H5N1)、A(H5N6)、A(H5N8)ウイルスである。A(H5N1)ウイルスのヒト感染は、2003年以降、中東、アフリカ、アジア、欧州など19カ国で死亡456例を含む864例がこれまでに確認されている。2020年9月以降では2020年10月にラオスで1例、2021年6月にインドで初となる1例、2022年1月に英国で初となる1例のヒト感染が確認された(2022年3月1日現在)(2)。A(H5N6)ウイルスは2014年以降、主に中国などで74例のヒト感染が確認されている。2020年9月以降は、中国で50例(直近では2022年1月〜2月に広西チワン族自治区で2例、江蘇省で2例、四川省、福建省でそれぞれ1例)、ラオスでは初となる1例のヒト感染が2021年2月に確認された。また、A(H5N8)ウイルスでは初となる7例のヒト感染が2020年12月にロシアで確認された(2022年3月1日現在) (2)

 日本では2021年11月から2022年3月までの間に、全国の野鳥や家禽でA(H5N1)ウイルス又はA(H5N8)ウイルスによるHPAIが発生し、家禽では11県17例、野鳥では7道県59例が確認された(2022年3月28日現在) (3)(4)。またこの間、低病原性鳥インフルエンザ(LPAI)のA(H5N1)ウイルスがデンマーク、イタリアで、A(H5N2)ウイルスが英国、南アフリカ、オーストラリア、韓国で、A(H5N3)ウイルスが日本、韓国、アメリカ、フランス、イタリアで、A(H5N8)ウイルスが韓国で、それぞれ家禽または野鳥から検出されている(1)(4)

 

A(H7)亜型ウイルス:

 2013年3月にLPAI A(H7N9)ウイルスの初のヒト感染が中国で報告され、第5波(2016年10月〜2017年9月)以降は、家禽に対して高病原性を示すように変異したHPAI A(H7N9)ウイルスのヒト感染も報告されるようになり、2013年以降で1568例のヒト感染、616例の死亡例が確認されている。2019年3月に中国内モンゴル自治区で確認されたのを最後に、それ以降のヒト感染例は確認されていない(2021年9月8日現在)(2)(5)(6)。中国にて家禽へのワクチンが開始された2017年9月以降、家禽におけるA(H7N9)ウイルスの浸潤率の低下が認められた(7)。また2018年2月には、A(H7N9)ウイルスとは異なる系統であるA(H7N4)ウイルスのヒト感染が1例、初めて中国で確認された(2)。その他のA(H7)亜型ウイルスについては、2020年以降、HPAI A(H7N3)ウイルスがアメリカとメキシコで、HAPI A(H7N7)ウイルスがオーストラリアでそれぞれ家禽から、リトアニアでHPAI A(H7N7)ウイルスが野鳥から検出されている(1)また、LPAI A(H7N1)ウイルスとLPAI A(H7N7)ウイルスがイタリアで、LPAI A(H7N3)ウイルスがアメリカとメキシコで、LPAI A(H7N6)ウイルスがオーストラリアで、さらにLPAI A(H7 NA亜型不明)ウイルスが南アフリカで、家禽から検出されているが(1)、ヒト感染は確認されていない。

 

A(H9)亜型ウイルス:

鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスのヒト感染は、2020年10月以降、中国では46例(直近では2022年1月に安徽省で2例、江西省で1例)、2021年2月にカンボジアでは初となる1例のヒト感染が確認されている。これまでに報告された感染例のほとんどは軽症であるが、基礎疾患を有する患者で1例の死亡例が報告されている(2)(5)。これまでにエジプト、バングラデシュ、インド、セネガル、オマーンでもヒト感染が確認されており、1998年以降のヒト感染は97例となった(2)(5)。A(H9N2)ウイルスはアフリカ、アジア、中東の家禽の中で定着し、ウイルス感染した家禽との接触によりヒトに感染するが、接触歴がない感染例も散見されている。

 

その他亜型ウイルス:

中国江蘇省では2021年4月にA(H10N3)ウイルスのヒト感染が初めて確認された。41歳の男性患者は集中治療室に入院したものの回復している。明らかな鳥との接触例は認められなかったが、患者の居住地周辺の家禽からはA(H10N3)ウイルスが検出された(2)

 

世界各地の家禽や野鳥の間で様々な鳥インフルエンザが流行し、日本の周辺国では散発的なヒト感染も報告されている。ウイルス流行の拡大とともにヒト感染リスクは高まるため、引き続きこれらのウイルスを注視していく必要がある。

 

 

ブタインフルエンザウイルス

 ブタは鳥・ヒトインフルエンザウイルスの両方に感染するため、交雑宿主となって遺伝子再集合した 新たなウイルスを排出する可能性がある。ブタの間では様々な遺伝的背景を持つA(H1N1)A(H1N2)A(H3N2)ウイルスが循環し散発的なヒト感染も確認されている(8

 北米大陸では1990年代後半から、ブタの間で循環していたclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスが鳥・ヒトインフルエンザウイルスと遺伝子再集合したtriple reassortantウイルスと総称されるA(H1N1)、A(H1N2)、A(H3N2)ウイルスが循環していた(9。2009年にパンデミックを引き起こしたA(H1N1)pdm09ウイルスは、triple reassortantウイルスとユーラシア大陸のブタで流行していたEurasian avian-like swine系統のA(H1N1)ウイルスとの遺伝子再集合により出現したウイルスである (10)。その後、A(H1N1)pdm09ウイルスは、ブタに再侵入し、パンデミック以前から流行していたブタインフルエンザウイルスとの間で遺伝子再集合が世界各地で起こっておりブタインフルエンザウイルスの遺伝的背景は複雑化している(8

アメリカでは農業フェアでのブタとの接触等により、 2010年9月以降、A(H1N1)v、A(H1N2)v、 A(H3N2)vウイルス(ヒト感染したブタインフルエンザウイルスは “variant(v)virus”と総称される)のヒト感染がそれぞれ、18例、30例、434例と報告されている(2022年3月29日現在) (11。2020年9月以降、アメリカではA(H1N1)vウイルスが8例、A(H1N2)vウイルスが6例、A(H3N2)vウイルスが3例、A(H1)v(NA亜型不明)ウイルスが1例、カナダではA(H1N1)vウイルスが1例、A(H1N2)vウイルスが2例、A(H3N2)vウイルスが1例、また北米大陸以外ではA(H1N1)vウイルスがデンマーク、オランダでそれぞれ2例、中国で5例、A(H1N2)vウイルスがオーストリア、フランス、台湾でそれぞれ1例、A(H3N2) vウイルスがオーストラリアで1例のヒト感染が確認されている(2022年3月1日現在) (2)(5)

日本では1970年代後半からclassical-swine系統のA(H1N1)ウイルスがブタの間で循環しはじめ(12)その後ヒトA(H3N2)ウイルスと遺伝子再集合したA(H1N2)ウイルスも出現し(13)2009年以降はA(H1N1)pdm09ウイルスとの遺伝子再集合したA(H1N2)ウイルスやA(H3N2)ウイルスが流行している(14) (15)。日本でヒト感染の報告はまだないが、引き続きブタインフルエンザウイルスの発生状況を注視していく必要がある。

 

 

参考文献

(1) OIE. Avian Influenza.
(https://www.oie.int/en/disease/avian-influenza/)
(2) WHO. Global Influenza Programme. Monthly risk assessment summary.
(https://www.who.int/teams/global-influenza-programme/avian-influenza/monthly-risk-assessment-summary)
(3) 環境省 高病原性鳥インフルエンザに関する情報
(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/bird_flu/)
(4) 農林水産省 令和3年度高病原性鳥インフルエンザ国内発生事例について
(https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/index.html)
(5) WHO. Antigenic and genetic characteristics of zoonotic influenza A viruses and development of candidate vaccine viruses for pandemic preparedness. (https://cdn.who.int/media/docs/default-source/influenza/who-influenza-recommendations/vcm-southern-hemisphere-recommendation-2022/202110_zoonotic_vaccinevirusupdate.pdf?sfvrsn=8f87a5f1_11 )
(6) FAO, H7N9 situation update
(http://www.fao.org/ag/againfo/programmes/en/empres/H7N9/situation_update.html)
(7) Shi J, et al., Cell Host & Microbe 24(4),558-568.e7, 2018
(8) Ma W, Virus Res., doi: 10.1016/j.virusres.2020.198118, 2020
(9) Lorusso A et al., Curr Top Microbiol Immunol 370: 113-132, 2013
(10) Garten RJ et al., Science 325(5937): 197-201, 2009
(11) CDC. FluView Interactive
(https://www.cdc.gov/flu/weekly/fluviewinteractive.htm)
(12) Sugimura T, et al., Arch Virol 66: 271-274, 1980
(13) Nerome K, et al., J Gen Virol 64(Pt 12): 2611-2620, 1983
(14) Kobayashi M, et al., Emerg Infect Dis 19(12): 1972-1974, 2013
(15) Mine J, et al., J Virol 94(14):e02169-19, 2020

 

 

作成

感染症危機管理研究センター 影山 努, 竹前 喜洋, 百瀬 文隆, Doan Hai Yen、太田雅之、齋藤智也
インフルエンザ・呼吸器系ウイルスセンター 渡邉真治、長谷川秀樹 

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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