国内で市販されているインフルエンザ迅速診断キットの鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスに対する反応性について

平成25年5月23日現在
国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター

 

2013年3月31日に鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの人への感染例が初めて中国で報告された1), 2)。4月24日には、中国江蘇省帰りの患者が台湾にて発症し輸入感染例として世界で初めて報告された3)。世界保健機関(WHO)の集計によると、2013年5月16日現在、中国における感染者数は131人、死亡者数は32人となっている4)。現在、日本国内では、このウイルスへの感染者は確認されていない。日本では、4月16日頃から、全国74か所の地方衛生研究所および16か所の検疫所において、A(H7N9)ウイルスに対するPCR遺伝子診断の実施が可能になっている。しかし、臨床現場では、インフルエンザの診断のための検査としてインフルエンザウイルスのNP抗原を検出する迅速診断キットが多用されているため、国内で市販されているインフルエンザ迅速診断キットの鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスに対する反応性について以下の検討を行った。

 

対象

 2013年4月現在、国内で製造販売承認を受けて市販されている20種類のインフルエンザ迅速診断キットを対象とした。本検討では、検査結果を目視で確認できるキットのみを対象とし、専用リーダーが必要なキットおよび研究用試薬は対象として除外した。

 

方法

 以下のウイルス株について10倍階段希釈系列(PBSにて希釈)を作製し、対象検体として、各キットの添付抽出液に25μLを添加し、添付文書の記載事項に従い最大量のウイルス添加抽出液(量の記載がない場合は事前に添加する液滴量を測定)をキットに添加し、各キットの規定の時間内に複数の目視により、添付文書の記載事項に従い陽性・陰性を判定した(各希釈系列で2回測定)。

 

ウイルス株

 中国CDCより分与された株を発育鶏卵で増殖した鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス2株と陽性コントロールとしてパンデミック2009インフルエンザA(H1N1 )ウイルス1株を使用した。株名および各株のウイルスRNA濃度(M遺伝子)と50% egg infectious dose (EID50)値を以下に示した。

A/Anhui/1/2013(H7N9) : 9.0 x1010copies/mL, 10.1 log10 EID50 /mL
A/Shanghai/1/2013(H7N9) : 1.4 x 1010copies/mL, 10.0 log10 EID50 /mL
A/California/7/2009(H1N1) : 5.6 x109copies/mL, 8.2 log10 EID50 /mL

 

結果

 

 表. 各迅速診断キットの各ウイルス株に対する反応性

商品名(50音順) 製造販売元 反応時間
(分)
検出抗原 A/Anhui/1/2013 (H7N9) A/Shanghai/1/2013 (H7N9) A/California/7/2009 (H1N1pdm09)
9.0×1010copies/mL 1.4×1010copies/mL 5.6×109copies/mL
10-1 10-2 10-3 10-4 10-1 10-2 10-3 10-4 10-1 10-2 10-3 10-4
イムノエースFlu 株式会社 タウンズ 3-8 A ±
イムノファイン™ FLU 株式会社ニチレイバイオサイエンス 1-10 A
エスプライン® インフルエンザA&B-N 富士レビオ株式会社 15 A ±
キャピリア® Flu A+B 株式会社 タウンズ 15 A
クイックチェイサー® Flu A,B
(S タイプ)
株式会社 ミズホメディー 5-10 A ±
クイックナビ™-Flu デンカ生研株式会社 8 A
クイックナビ™Flu+RSV デンカ生研株式会社 8 A
QuickVue ラピッド SP influ DSファーマバイオメディカル株式会社 10 A
クリアビュー Influenza A/B アリーア メディカル株式会社 8 A
クリアライン® InfuluenzaA/B/(H1N1)2009 アリーア メディカル株式会社 10-15 A
H1pdm
スタットマーク™
FLU スティック-N
株式会社ニチレイバイオサイエンス 1-10 A
チェック Flu A・B ロート製薬株式会社 3-8 A
BD Flu エグザマン™ 日本ベクトン・ディッキンソン株式会社 15 A
ブライトポック®Flu 株式会社ニチレイバイオサイエンス 1-10 A
プライムチェック® FLU・RSV アルフレッサ ファーマ株式会社 5-10 A
プロラスト Flu 三菱化学メディエンス株式会社 10 A
ポクテム®S インフルエンザ シスメックス株式会社 8 A ±
ラピッドテスタ®
カラーFLU スティック
積水メディカル株式会社 2-10 A
ラピッドテスタ® FLUⅡ 積水メディカル株式会社 5-15 A
ラピッドテスタ® FLU・NEO 積水メディカル株式会社 15 A
                               
        2/2検出   ± 1/2検出   0/2検出  
             

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 国内で市販されている20種類のインフルエンザ迅速診断キットはいずれも鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスにも反応する事が示された(但し、H1pdm検出キットでの反応性は見られなかった)。ただし、各ウイルス株のNP抗原量は定量しておらず、各ウイルス株のウイルスRNA濃度もしくはEID50値とNP抗原量の相関性については分からないため、NP抗原量に対する定量的な検出感度については不明である。

  なお、各社の迅速診断キットで使用されている綿棒のサイズが異なるため、実際に臨床検体を用いた場合は、各社の迅速診断キットに添加される検体量が異なる事となり(実測では25〜80μLの範囲)、本検討結果で示された検出感度がそのまま各社の迅速診断キットの検出感度に反映するものではないという事に留意が必要である。

 

 本検討はあくまでも発育鶏卵で培養したウイルス液に対するインフルエンザ迅速診断キットの反応性について検討したものであり、実際に鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染患者から採取した検体を用いて検討したものではないため、臨床検体を用いた場合の同ウイルスのキットへの反応性を保証するものではない。

 迅速診断キットでは鼻腔拭い液、咽頭拭い液、鼻腔吸引液、鼻汁鼻かみ液(キットによって適用が異なる)が検体として利用可能であるが、現在、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染時の増殖部位に関する明確な知見が得られておらず、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスを検出するために、これら検体の使用が最適かどうかは明らかとなっていない。台湾では患者の咽頭スワブからはウイルスが検出されず、喀痰のみからウイルスが検出されたとの報告もあるが3)、中国においては、発症後の経過に応じてウイルス検出部位が咽頭や喀痰など多岐にわたるとの報告も多い。

 なお、迅速診断キットでは、仮に喀痰中にウイルスが存在したとしても、効率的に検出できるかどうかの検証はなされておらず、そもそも喀痰を迅速診断キットの検体として用いることは、製造販売承認の対象外である事に留意しなければならない。

 一般論ではあるが、発症早期の検体や検体採取方法が適切でない場合、あるいは検体採取部位の違いによっては、採取した検体中のウイルスNP抗原量が迅速診断キットで検出できるレベルに達せずに検出できない場合がある。迅速診断キットで陰性となった場合には、ただ単に検体からウイルスNP抗原が検出されなかったに過ぎず、必ずしもウイルス感染を否定するものではないことにも注意する必要がある。

 現時点では、平成25年5月2日付の厚労省健康局結核感染症課からの通知5) に基づき、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスへの感染が疑われる場合には、迅速診断キットによるウイルス診断に頼るのではなく、所轄の保健所を通して、全国の地方衛生研究所あるいは検疫所で核酸検査を必ず受ける必要がある。

 

引用文献

1) 中华人民共和国国家卫生和计划生育委员会. Available at : http://www.moh.gov.cn/mohwsyjbgs/s3578/201303/44f25bd6bed14cf082512d8b6258fb3d.shtml

2) World Health Organization (WHO). Human infection with influenza A(H7N9) virus in China. Available at : http://www.who.int/csr/don/2013_04_01/en/index.html

3) Taiwan CDC. Available at : http://www.cdc.gov.tw/english/info.aspx?treeid=BC2D4E89B154059B&nowtreeid=EE0A2987CFBA3222&tid=DCD2943FEE3FCB75

4) World Health Organization (WHO). Number of confirmed human cases of avian influenza A(H7N9) reported to WHO. Available at : http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/influenza_h7n9/Data_Reports/en/

5) 厚生労働省. Available at :  http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/dl/2013_0502_03.pdf

 


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