国立感染症研究所

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国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室

全国地方衛生研究所

流行株抗原性解析
 国立感染症研究所(感染研)では、国内で流行するインフルエンザウイルスの性状を把握し、インフルエンザ対策およびワクチン株選定に役立てるため、全国地方衛生研究所(地研)で分離・同定されたウイルス株総数の約10%を無作為に抽出し、解析を行っている。
 流行株とワクチン株の抗原性を比較する目的で、フェレット感染血清を用いた赤血球凝集阻止(HI)試験または中和試験による抗原性解析を実施した。

 現行の季節性インフルエンザワクチンは、ワクチン原株として選ばれたウイルスを鶏卵で継代して製造している。そのため、継代の間に、ウイルスが鶏卵に馴化することでアミノ酸置換が起こり、抗原性が変化(抗原変異)することがある。その結果、流行株とワクチン製造株の抗原性が一致しなくなる場合があり、世界的に問題となっている。

 抗原性解析試験:結果の見方

2018/2019シーズン抗原性解析結果 (データ更新日:2019年3月6日)NEW

A(H1N1)pdm09 : 2018年9月以降の国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析したほぼ全ての株において、WHOのワクチン推奨株であるA/ミシガン/45/2015(細胞分離株)、および国内のワクチン製造株で、A/ミシガン/45/2015と抗原的に類似しているA/シンガポール/GP1908/2015(ワクチン製造株)と抗原性が類似していた(図1)。

A(H3N2) : 2018年9月以降の国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析したほぼ全ての株において、A/シンガポール/IFNIMH-16-0019/ 2016の細胞分離株に対するフェレット感染血清とよく反応した。 

 一方で、国内ワクチン製造株であるA/シンガポール/IFNIMH-16-0019/ 2016 (IVR-186)に対するフェレット感染血清では、流行株の8割以上において反応性の低下が認められた。これは鶏卵での増殖能獲得(鶏卵馴化)に伴い、元株からの抗原性変化が生じたことに起因している。したがって、ワクチン抗原と流行株の抗原性相違が推定される(図2)。

  

 

遺伝子系統樹
 国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室が解析した季節性インフルエンザウイルスの遺伝子配列を用いて、HA遺伝子系統樹を作成した。国内外で流行しているウイルスと比較するため、各地方衛生研究所にて分離された株の遺伝子配列だけではなく、海外で分離された株の遺伝子配列も解析に加えている。なお、海外の研究機関で解析された遺伝子配列はインフルエンザウイルス遺伝子データベースGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data:http://platform.gisaid.org/epi3/frontend)から入手している。 
2018/2019シーズン系統樹(データ更新日:2019年3月6日)NEW

A(H1N1)pdm09:国内株はHA遺伝子系統樹上のクレード6B.1(共通アミノ酸置換:S84N, S162N, I216T)内の6B.1A(S74R, I164T, I295V)に属していた(図1)。

 さらにS183Pを含む複数の群[183P-1:N451T, 1%、183P-2:L233I, 26%、183P-4:N129D+A141E, 7%、183P-5:N260D, 37%、183P-6:T120A, 2%、183P-7:K302T+I404M, 12%]、およびT120A群 (9%)、L161I+I404M群 (5%)など複数の集団を形成した。各群の株に抗原性の違いは検出されていない。NAタンパク質にH275Y置換を有するオセルタミビル耐性株は散発的に検出されているが、耐性株の流行は確認されていない。

A(H3N2):国内株は全て、HA遺伝子系統樹上のサブクレード3C.2a(L3I+N144S+F159Y+K160T+Q311H+D489N、代表株:A/Hong Kong/4801/2014)に属していた(図2)。

 解析株のほとんどは3C.2a内のサブクレード3C.2a1(N171K+I406V+G484E、代表株:A/Singapore/INFIMH-16-0019/2016, 69%)、または3C.2a2(T131K+R142K+R261Q, 29%)に属し、1株のみ3C.2a3(N121K+S144K, 2%)に属した。3C.2a1はさらに、3C.2a1a(N121K+G479E+T135K+N122D)、3C.2a1b(N121K+K92R+H311Q)に分岐することが知られている。しかし今回の3C.2a1株は全て3C.2a1b内の3C.2a1b+135K (3C.2a1b+E62G+R142G+T135K, 15%)群、3C.2a1b+135N群 (3%)、あるいはE62G+T131K+V529I群 (51%)に属した。なお欧米では、3C.2aとは抗原性が異なる3C.3aウイルスの検出数が急増しており、国内でも流行状況の変化に注視する必要がある。

B (ビクトリア系統):海外を含めて今シーズンの流行株はHA遺伝子系統樹上のクレード1A(共通アミノ酸置換N75L, N165K, S172P、代表株:B/Brisbane/60/2008、B/Texas/02/2013)内の、N129D+I117V+V146Iを有する集団に属していた(図3)。

 クレード1A内に、抗原性変異を示すサブクレード1A.1[共通アミノ酸置換I180V+R498K+2アミノ酸欠損(162, 163)、代表株:A/Maryland/15/2016]および、K136E+3アミノ酸欠損(162〜164)群が検出されている。国内では、クレード1Aに属する株(1株:HAにアミノ酸欠損を持たない)とクレード1A.1に属する株(3株)が検出された。

B (山形系統):解析できた流行株はわずかだが、HA遺伝子系統樹上のクレード3(共通アミノ酸置換S150I, N165Y, N202S, S229D)内でB/Phuket/3073/2013株を代表とする群(共通アミノ酸置換N116K, K298E, E312K)内のL172Q+M251V群に属した(図4)。

  
 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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