国立感染症研究所

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インフルエンザ抗体保有状況 -2017年度速報第1報- (2017年12月27日現在)
 

はじめに
 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は、毎年、インフルエンザの本格的な流行が始まる前に、インフルエンザに対する国民の抗体保有状況(免疫状況)を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起等を目的として実施している。
 わが国におけるインフルエンザワクチンは、従来、A(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型、B型(ビクトリア系統あるいは山形系統)の3つのインフルエンザウイルスをワクチン株とした3価ワクチンが用いられてきた。しかし、近年はB型の二系統が同シーズンに流行する傾向が世界的にみられており、わが国においては2015/16シーズンからB型の二系統を含む4価ワクチンの使用が開始された。本感受性調査では今シーズン(2017/18シーズン)のワクチン株に用いられた4つのインフルエンザウイルスについて抗体保有状況の検討を行った。
 

1. 調査対象および方法
 2017年度の調査は、22都道府県から各198名、合計4,356名を対象として実施された。インフルエンザウイルスに対する抗体価の測定は、健常者から採取された血液(血清)を用いて、調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、各ウイルスの卵増殖株を由来としたHA抗原を測定抗原とした。また、採血時期は原則として2017年7~9月(例年のインフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)とした。
a)A/Singapore(シンガポール)/GP1908/2015 [A(H1N1)pdm09亜型]
b)A/Hong Kong(香港)/4801/2014 [A(H3N2)亜型]
c)B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]
d)B/Texas(テキサス)/2/2013 [B型(ビクトリア系統)]
 なお、本速報では抗体保有率として、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上について示した。
 

2. 調査結果
 2017年12月27日現在、北海道、山形県、福島県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、福井県、長野県、静岡県、三重県、京都府、愛媛県、高知県、佐賀県、宮崎県の19都道府県から合計5,276名の結果が報告された。5歳ごとの年齢群別対象者数は、0-4歳群:624名、5-9歳群:406名、10-14歳群:450名、15-19歳群:492名、20-24歳群:405名、25-29歳群:477名、30-34歳群:430名、35-39歳群:388名、40-44歳群:328名、45-49歳群:307名、50-54歳群:355名、55-59歳群:254名、60-64歳群:207名、65-69歳群:107名、70歳以上群:46名であった。
 

【年齢群別抗体保有状況】
A/Singapore/GP1908/2015 [A(H1N1)pdm09亜型]
:図1上段
 本調査株に対する抗体保有率は10~24歳の各年齢群で60%以上を示し、その他の年齢群と比較して高かった。また、5-9歳群および25~34歳の各年齢群は概ね40~50%の抗体保有率であったが、それ以外の年齢群は40%未満であり、とくに0-4歳群および65歳以上の各年齢群は20%未満の低い抗体保有率であった。

A/Hong Kong/4801/2014 [A(H3N2)亜型]:図1下段
 本調査株に対する抗体保有率は5~19歳の各年齢群で70%以上を示し、その他の年齢群と比較して高かった。しかし、それ以外の多くの年齢群も60%以上の抗体保有率であり、40%未満の低い抗体保有率を示した年齢群はみられなかった。

B/Phuket/3073/2013 [B型(山形系統)]:図2上段
 本調査株に対する抗体保有率は15~34歳の各年齢群で60%以上を示し、その他の年齢群と比較して高かった。また、10-14歳群および35~59歳の各年齢群は40%前後の抗体保有率であったが、0-4歳群および65歳以上の各年齢群は20%未満の低い抗体保有率であった。

B/Texas/2/2013 [B型(ビクトリア系統)]:図2下段
 本調査株に対する抗体保有率はほとんどの年齢群で40%未満であり、とくに0-4歳群および65歳以上の各年齢群では20%未満の低い抗体保有率であった。
 


図1


図2

コメント
 病原微生物検出情報におけるインフルエンザウイルス分離・検出状況(2017年12月7日現在報告数)によると、今シーズンは2017年第36~49週(9月3日~12月9日)にAH1pdm09亜型192例、AH3亜型116例、B型92例(山形系統83例、ビクトリア系統7例、系統不明2例)の検出報告があり、現時点ではAH1pdm09亜型の分離・検出報告数が多い。また、感染症発生動向調査による2017年第50週のインフルエンザ定点あたり患者報告数(2017年12月20日現在速報値)は7.4であり、都道府県別でもすべてが1.0を超えていることから、本感受性調査で抗体保有率が低かった年齢層においてはとくに注意が必要である。


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