国立感染症研究所

IASR-logo

Allele-specific RT-PCR薬剤耐性マーカー検出法にエスケープ変異を持ったA(H1N1)pdm2009分離株―愛知県

(IASR Vol. 38 p.108: 2017年5月号)

2016/17シーズンに分離されたA(H1N1)pdm2009(AH1pdm09)ウイルス株について, インフルエンザ診断マニュアル第3版1)に記載のallele-specific RT-PCR法にて薬剤耐性変異の検出を行ったところ, 薬剤感受性(275H)と薬剤耐性(275Y)の両方とも検出されない株A/Aichi/120/2016(Aichi120)が存在したので報告する。

 愛知県における2016/17シーズンのインフルエンザ流行入りは2016年第46週であり, 2017年第4週に流行のピークを迎えた。今シーズンの流行はAH3が主体でAH1pdm09の検出は少なく, 本格的な流行が始まる前の12月までに名古屋市を除く県内で9株をMDCK細胞により分離した。分離株は国立感染症研究所から配布されたインフルエンザウイルス同定キットを用いHA, HI法により型別した。Aichi120株(2016年10月31日採取, 咽頭ぬぐい液検体)が分離された患者は14歳男性, 38.6℃の発熱と上気道炎症状があり, ワクチン接種歴・抗インフルエンザ薬投与歴ともなし。ウイルス分離培養上清から抽出したRNAを用いて薬剤耐性変異のallele-specific RT-PCR検出を行ったところ, 275H・275Yとも検出されなかった。リアルタイムPCR反応液のアガロースゲル電気泳動を行った結果, Aichi120株由来RNAにおいてもNA遺伝子PCR増幅産物に一致するサイズ(約180bp)のバンドが確認されたため, プローブ領域の変異が強く疑われた。Aichi120株NA遺伝子全長の塩基配列を決定したところ, 823番目の塩基はC(275H)であり, プローブ領域に相当する831番目の塩基にGからAへの置換が存在した。プローブ領域の塩基置換が検査系に及ぼす影響を評価する目的で, Aichi120株およびプローブ領域に塩基置換がなく, allele-specific RT-PCR法にて275Hが検出された同シーズンの本県分離株(A/Aichi/178/2016; Aichi178)のNA遺伝子をクローニングし, リアルタイムPCR機器による検出とPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動による確認を行った。結果は, 分離株の場合と同様で, Aichi178株由来プラスミドではPCR増幅産物が確認でき, allele-specific RT-PCR法による275Hの検出ができたのに対し, Aichi120株由来プラスミドではPCR増幅産物は確認できたが, allele-specific RT-PCR法による275Hの検出はできなかった。同法においてはNA遺伝子の275番目のアミノ酸に相当する823番目の塩基の違い(C/T)を異なる蛍光色素で標識したプローブを用いて検出するため, Aichi120株プローブ領域内の塩基置換(G831A)が275H検出用プローブのアニーリングに影響したと考えられた。

県内で今シーズン分離されたAichi120株を含む9株のNA遺伝子系統樹解析の結果, 9株ともV13I, I34V, I314Mのアミノ酸置換を有するクレード6B.1に分類された。また, Aichi120株のNA遺伝子831番目の塩基置換は同義置換であり, 国立感染症研究所によるこの株の薬剤感受性試験の結果はオセルタミビル, ペラミビル, ザナミビル, ラニナミビルの4剤に対して感受性であった。

我々は以前, AH1pdm09ウイルスのHA遺伝子リアルタイムRT-PCR検出系においても, 同様にプローブ領域の塩基置換が検出感度を低下させることを報告した2)。遺伝子検出においてはプライマーやプローブ領域の塩基置換によって検出されない株があることを考慮しておかなければならない。

 

参考文献
  1. インフルエンザ診断マニュアル第3版
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Influenza2014.pdf
  2. Nakauchi, et al., J Virol Methods 171: 156-162, 2011

 

愛知県衛生研究所
 安井善宏 齋藤典子 尾内彩乃 松本昌門 皆川洋子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version