国立感染症研究所

アフリカ大陸以外の複数国で報告されているサル痘について
(第1報)

2022年5月24日時点

国立感染症研究所

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概要

  • 2022年5月以降、欧米を中心に、これまでサル痘の流行が報告されてきたアフリカ大陸の国々(以下、常在国)への渡航歴のないサル痘患者が相次いで報告されており、常在国外では前例のない流行となっている。世界的にサル痘に対するサーベイランス体制が十分整っていないことから、水面下で感染が広がっている可能性があり、今後も感染者の報告が続く可能性がある。
  • サル痘はヒトからヒトに容易に伝播するものではない。感染者の皮膚病変や近接した対面での呼吸器飛沫への一定時間以上の曝露、感染者が使用した寝具等の媒介物(fomite)により伝播する。現時点の一連の報告では、感染者にみられた病変の部位などから性的接触に伴う伝播があった可能性も示唆されているが、詳細な感染経路は調査中である。
  • サル痘は多くは自然軽快するが、小児や妊婦、免疫不全者で重症となる場合がある。
  • 5月24日現在、日本国内においてサル痘の報告はなく、大規模に市中に拡大する可能性は低く、日常生活における感染リスクは低い。ただし、今後国内でも感染者が出る可能性はあり、検査診断を含めた対応について整備しておく必要がある。
  • サル痘に類似する発疹等の症状がある場合は速やかに医療機関に相談することが望ましい。特に次のような者では、皮疹の出現を含む体調に注意を払うことが望ましい。
     ➢サル痘発生国への渡航歴があり、サル痘患者や常在国の動物との接触があった者
     ➢サル痘発生国への渡航歴がある者との濃厚接触(性的接触を含む)があった者
     ➢複数または不特定の者と性的接触のあった者
  • 諸外国では症例の探索、感染経路の調査が行われており、我が国では諸外国での知見を注視していくとともに、国内の発生状況を注視し、サーベイランス体制を強化する。患者発生時には積極的疫学調査により実態を速やかに明らかにする必要がある。また、適切に対応すれば感染拡大の封じ込めが可能な疾患であるので、注意喚起、早期の患者発見と対応が重要である。
  • 特定の集団や感染者、感染の疑いのある者等に対する差別や偏見は、人権の侵害につながるため、客観的な情報に基づき、先入観を排した判断と行動が推奨される。

 

サル痘について

 

  • サル痘は、サル痘ウイルス感染による急性発疹性疾患である。感染症法では4類感染症に位置付けられている。主にアフリカ中央部から西部にかけて発生しており、自然宿主はアフリカに生息するげっ歯類が疑われているが、現時点では不明である。稀に常在国外でも、常在国からの渡航者等に発生した事例がある。潜伏期間は5~21日(通常7~14日)とされる。症状は発熱と発疹を主体とし、多くは2~4週間で自然に回復するが、小児等で重症化、死亡した症例の報告もある。
    詳細については国立感染症研究所「サル痘とは」を参照のこと。

 

国外の状況

  • 2022年5月7日以降、欧米を中心とした各国からサル痘患者の報告が続いている。
    2022年5月7日に、英国は常在国であるナイジェリア渡航後のサル痘患者の発生を報告した。5月13日に、5月7日の症例と関係がなく、渡航歴がなく、また最近渡航歴がある人との接触もない2例の家族症例、そして5月15日に同じく渡航歴がなく、先に報告された例との疫学的関連性がない4例を報告した。(UKHSA 2022)。 その後、英国では計56例が報告されている(UKHSA, 2022)。また、ポルトガル、スペイン、ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、スウェーデン、オランダ、オーストリア、スイス、カナダ、米国、オーストラリア、イスラエルで確定症例の報告がある (ECDC, 2022a)ほか、疑い例を報告している国がある。
  • 常在国外での前例のない規模の流行である。
    サル痘は、西及び中央アフリカで流行が報告されてきた。過去半年では、カメルーン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、ナイジェリアで1,300例を超える報告があった(WHO AFRO, 2022)。これまで、常在国以外での報告は、米国、英国、イスラエル、シンガポールでの事例に限られていた。米国における動物を介した感染(Reynolds MG et al., 2006)を除いては、常在国からの輸入症例が大半であり、常在国以外でのヒトからヒトへの感染は、院内感染1例(Vaughan A et al., 2020)と家族内感染(UKHSA, 2021)に限られていた。今回の報告は、常在国外からの同一期間の一連の報告として、発生国数、症例数が前例のない規模となっている。
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  • 症例の多くは若年男性で、患者との直接的な接触による感染が疑われている。
    サル痘は、ヒトからヒトへの感染の場合、感染者の皮膚病変や近接した対面での呼吸器飛沫への一定時間以上の曝露、感染者が使用した寝具等の媒介物により伝播することが知られている。欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、今回報告された感染者の多くは若年男性であること、男性間で性交渉を行う者(MSM; Men who have sex with men)が多く含まれていること(ECDC, 2022b)、一部の症例では陰部病変を持っていたことから、性的接触での伝播も示唆されていること、セックスパートナー以外の濃厚接触があった者における継続的な伝播は報告されていないこと、性的な関係のネットワークで相互につながるコミュニティの一部にサル痘が持ち込まれた可能性を指摘している(ECDC, 2022a)。また、MSMの一部を含む複数のセックスパートナーを有する者におけるリスクは中程度、一方、そのほかの幅広い層の人々のリスクは低い、と評価している(ECDC, 2022a)。

  • 死亡例は報告されていない。
    アフリカの常在国以外で過去に報告されたサル痘事例において、死亡例は報告されていない。また、今回の発生についても、各国からの死亡例の報告はない。

  • 確定診断されている事例からは西アフリカ系統群が検出されている。
    確定診断されている事例からは、西アフリカ系統群に属するサル痘ウイルスが検出されている。西アフリカ系統群は、中央アフリカで主に流行するコンゴ盆地系統群と比較して、重症化しにくく、またヒトからヒトへの感染性が低いとされる。うち、ポルトガル(10例)と米国(1例)の計11例の全ゲノム解析が行われており、これらは非常に近縁であることから、単一の曝露源の存在が示唆されている(Isidro J et al., 2022) 。また、2018年に英国、イスラエル、シンガポール、ナイジェリアで解析されたウイルスと近縁であることがわかっている(Nextstrain. 2022)。当時検出されたウイルスから一定の変異がみられるが、加わった変異が今回の一連の報告の流行の動態に影響を与えているかは不明である。 

 

国内の状況

  • 感染症発生動向調査において、本邦でサル痘の症例が報告されたことはない。
    サル痘は、感染症法上で4類感染症に位置付けられており、患者もしくは無症状病原体保有者を診断した医師、感染死亡者及び感染死亡疑い者の死体を検案した医師は、ただちに最寄りの保健所への届出を行う必要がある。 現行の感染症発生動向調査で集計が開始された2003年以降、輸入例を含め本邦でサル痘の報告はない。厚生労働省は、2022年5月20日に地方自治体に対し、注意喚起と情報提供への協力依頼を行っている。

 

当面の推奨される対策

  • 早期の患者発見と積極的疫学調査
    サル痘は、早期の患者発見と接触者の追跡により、ヒトからヒトへの感染連鎖を断つことが可能な疾患である。注意喚起、医療機関への症状等の周知により、早期に患者発生を検知し、検知した際には積極的疫学調査を速やかに開始すべきである。サル痘に類似する発疹等の症状がある場合は速やかに医療機関に相談することが望ましい。特に以下の者は、皮疹の出現がないか等、体調に注意を払うことが重要である。
    1)21日以内に常在国に滞在歴のある者
    2)21日以内に常在国外のサル痘症例が報告されている国に滞在歴があり、滞在先で他者との濃厚接触(性的接触を含む。)があった者
    3)21日以内にサル痘常在国やサル痘症例が報告されている国に滞在歴がある者と日本国内において濃厚接触(性的接触を含む。)があった者
    4)複数または不特定の者と性的接触があった者
  • 感染者等への注意事項
    皮疹が完全に治癒し、落屑するまでの間は周囲のヒトや動物に感染させる可能性があるため、感染者はヒトやペットの哺乳類(特にげっ歯類)の動物との接触を避けるべきである。 接触者は、接触後21日間は、発症時には速やかにヒトやペットの哺乳類(特にげっ歯類)の動物との接触を避け、医療機関を受診することが求められる。また、小児や妊婦、免疫不全者との密な接触や、性的接触も避けるべきである。また、重症化リスクが想定される接触者には、痘そうワクチンの接種が個別にリスクとベネフィットを踏まえ考慮される。
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  • 差別や偏見への対策
    特定の集団や感染者、感染の疑いのある者等に対する差別や偏見は、人権の侵害につながる。さらに、受診行動を妨げ、感染拡大の抑制を遅らせる原因となる可能性がある。偏った情報や誤解は差別や偏見を生むため、客観的な情報に基づき、先入観を排した判断と行動が推奨される。

 

注意事項

  • 迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

参考文献

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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