国立感染症研究所

複数国で報告されている小児の急性肝炎について
(第4報)

2022年7月4日

国立感染症研究所

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状況の評価

  • 報告のあった各国で、症例が著しく増加している兆候はないため、患者の周囲に容易に感染し急速に感染者が増加するような状況ではないと考えられる。
  • 小児の急性肝炎、便検体からのアデノウイルス40/41型の検出が増加している徴候はない。
  • 原因としてアデノウイルスの関与が疑われてはいるものの、複合的な要因、感染症以外の原因も含めて引き続き調査を進めている段階である。このような事例の原因究明には、症例を集め、分析することが重要であり、一定の時間を必要とすることに注意が必要である。
  • 諸外国で原因探索が行われており、これらの進捗から知見を得ながら、丁寧な調査・分析を進めていく必要がある。
  • 国内の発生状況については国立感染症研究所「国内における小児の原因不明の急性肝炎について(第1報)」を参照。

  

国外の状況(6月27日時点)

  • 現時点で、英国から262例の報告があるほか、全世界で少なくとも920例の症例が報告された。
    2022年4月15日に世界保健機関(WHO)より小児の急性重症肝炎患者の増加が報告されたのち、英国から6月21日時点で258例(UKHSA, 2022a)、英国を除く欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)の20カ国(オーストリア、ベルギー、ブルガリア、キプロス、デンマーク、フランス、ギリシャ、アイルランド、イスラエル、イタリア、ラトビア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、モルドバ、セルビア、スペイン、スウェーデン)から6月18日時点で187例の可能性例(ECDC, 2022)、米国から6月22日時点で10歳未満の症例305例の報告があった(CDC, 2022)。また、そのほかの地域では6月24日時点でアルゼンチン、ブラジル、カナダ、コロンビア、インドネシア、日本、モルディブ、メキシコ、パレスチナ、パナマ、カタール、シンガポールから報告があり、全世界で少なくとも920例の報告がある(WHO, 2022)。
  • 現時点で、世界で45例の肝移植症例、18例の死亡例の報告がある。米国で11例の死亡例が報告されているが、詳しい死因は調査中である。
    症例の転帰に関する情報は、引き続き収集されている。世界で45例の肝移植例及び18例の死亡例の報告があり(WHO, 2022)、このうち英国で12例の肝移植症例が報告されたが、英国内で死亡例は報告されていない(UKHSA, 2022b)。また、米国からは20例の肝移植症例と11例の死亡例の報告があるが、死因について調査中である(CDC, 2022)。 
  • 英国、米国でアデノウイルスが多くの症例から検出されているが、原因については各国で引き続き幅広く調査中である。
    英国で最も多く検出された病原体はアデノウイルス、次いでSARS-CoV-2であった。英国では241例に対してアデノウイルスの検査が実施され、    156例(64.7%)が陽性であった。アデノウイルスがこれらの症例で最も検出頻度の高いウイルスであることから、肝炎との関連が疑われている。また、SARS-CoV-2の検査は196例で実施され、34例(17.3%)から検出されているが、イングランドの症例では9.7%と英国全体と比較して低くなっている(UKHSA, 2022b)。米国では224例でアデノウイルスの検査が実施され、100例(45%)でアデノウイルスが陽性であり、うち13例にアデノウイルスの型の判定が実施され、41型が6例、C1型が1例から検出された。また、 36例の肝臓組織の病理学的検査では25例で急性肝炎の所見がみられたが、ウイルス封入体やウイルス粒子は確認されなかった(Cates J.ら, 2022)。現時点で、アデノウイルスに関連して、異常な免疫反応が起きた、通常より大きな流行が起きたことにより稀な合併症が多く見られるようになった、他の感染症の既感染もしくは重複感染による異常な免疫反応が起きた、など複数の可能性が指摘されている(UKHSA, 2022c)。引き続き、各国でウイルス以外も含めた複数の可能性について、調べられている。
  • 英国では、小児の肝炎やアデノウイルス40/41型感染症が以前と比較して増加している一方、米国ではいずれの増加もみられていない。
    英国では2021年と比較して、2022年は1-4歳で小児の肝炎の増加が報告されており、またCOVID-19流行以前と比較して、1-4歳の小児の糞便からのアデノウイルスの検出が増えていたとの報告がある(UKHSA, 2022b)。一方、米国内の救急外来の受診データ、臓器移植ネットワークなどから、小児の肝炎の発生状況及びアデノウイルス40/41型の糞便からの検出割合を、①2021年10月から2022年3月までと➁COVID-19流行以前で比較した報告では、原因不明の肝炎または肝移植に関連する小児の救急外来受診に変化は見られず、また0-4歳、5-9歳のいずれの年齢群でも、アデノウイルス40/41型の検出増加は見られなかった (Kambhampati AK.ら, 2022)。ただし、いずれの報告もCOVID-19流行による受診行動への影響を考慮していないこと、使用されている受診や検査のデータが各国の全ての地域を網羅していないことなどから、小児の肝炎やアデノウイルス感染症の流行を同じ条件で比較することはできない。今後も継続した調査が必要である。

 

用語解説

アデノウイルス:

アデノウイルス科マストアデノウイルス属に属するヒトアデノウイルス(human adenovirus: Ad)は, エンベロープを持たない2本鎖DNAウイルスであり, 物理化学的に比較的安定している。現在A-Gの7種に分類され, 100を超える型が存在している。アデノウイルスは, 急性上気道炎などの呼吸器疾患, 流行性角結膜炎 (epidemic keratoconjunctivitis, EKC)などの眼疾患, 感染性胃腸炎などの消化器疾患を起こす。また, 出血性膀胱炎, 尿道炎などの泌尿器疾患, さらに肝炎なども起こす。アデノウイルスの種によって流行状況や炎症反応が異なる(Nakamuraら, 2018)。
詳細は特集記事(IASR 42(4), 2021【特集】アデノウイルス感染症2008~2020年)を参照。

 

 

   参考文献

添付資料

 

関連項目

 

更新履歴

第4報 2022/7/04時点

第3報 2022/5/27時点

第2報 2022/5/10時点 注)第1報からタイトル変更

「複数国で報告されている小児の急性肝炎について」

第1報 2022/4/25時点

「欧米での小児重症急性肝炎の発生について」  

 

 

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