国立感染症研究所

ムーコル症について

平成22年11月22日作成
平成30年3月9日更新
真菌部 

<ムーコル症(接合菌症)とは>
 ムーコル目の真菌による感染症の総称であり、かつては接合菌症と呼ばれていたが、系統分類の再構築により現在はムーコル症と呼ばれる傾向にある。本症の頻度はそれほど高くはないが、剖検症例における分離頻度はクリプトコックス症に次いで4番目に多い。
 多数の属の菌種がムーコル目として一括りに分類されており、原因真菌としては、Rhizopus oryzae、Rhizopus microsporus、Rhizopus stolonifer、Mucor circinelloides、Cunninghamella bertholletiae、Apophysomyces elagans、Saksenaea vasiformis、Absidia corymbifera、Rhizomucor pusillusなどが知られている1

<病態・病型>
 日和見型深在性真菌症の一つである。発症には宿主要因が強く関係し、重篤な免疫不全の存在下で発症する。危険因子は、長期間の好中球減少、ステロイド投与、リンパ球減少、骨髄移植、コントロール不良の糖尿病などがある。輸血後の鉄過剰に対する除鉄剤であるデフェロキサミンの投与中にも発症しやすい。また、近年は、新規アゾール系薬であるボリコナゾール投与中のブレークスルー感染症としての報告も増えている2
 環境中に浮遊する真菌を吸いこむことによる経気道的感染が主な経路と考えられている。また、消化管からの感染経路も推測されており、食事に含まれる同菌の摂取による感染症の可能性も示唆されているが3、未だ一般的な考えではない。
 最多の病型は、鼻脳型で、副鼻腔から感染が始まり、眼窩や口蓋を巻き込み、脳へと波及する。その他、肺型、皮膚型、消化管型がある。また、極めてまれな病型として、各種病型から続発する播種性ムーコル症がある。  まれに外傷などに続発する限局性の皮膚型ムーコル症を除けば、急性に進行し、最も予後不良な真菌症であり、大多数は致死的転機をたどる。

<診断および治療>
 特徴的な臨床症状に乏しく、また、実用化された血清診断がないため、確定診断には病理組織学的検査・真菌学的検査が必要である。検体は、各病型に応じて、鼻腔分泌物・掻把組織片・副鼻腔吸引物(鼻脳型)、喀痰・肺組織片(肺型)などを用いる。ただし、適切な検体を得ることは容易ではなく、診断確定は困難であることが多い。
 治療は化学療法と同時に病巣の切除あるいはデブリドマンを行う。化学療法としては、本邦で使用可能な抗真菌薬のうち、アゾール系抗真菌薬やキャンディン系抗真菌薬は無効であり、AMPH-B(脂質製剤も含む)が第一選択となる。本邦未承認のアゾール系薬であるポサコナゾールも有効性の報告がある4。また、ワクチンのような有効な予防法は存在しないが、発症には宿主要因が大きく寄与するため、基礎疾患の管理が重要な要素となっている5

参考文献
1. Kontoyiannis DP, Lewis RE. 259-Agents of Mucormycosis and Entomophthoramycosis. In: Mandel GL, Bennet JE, Dolin R ed. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed. pp3257-70, 2010.
2.深在性真菌症のガイドライン作成委員会編. 深在性真菌症の診断治療ガイドライン2014.
3.Lo OS, Law WL. Ileocolonic mucormycosis in adult immunocompromised patients: a surgeon's perspective. World J Gastroenterol. 2010 Mar 7;16(9):1165-70.
4.Tobon AM, Arango M, Fernandez D, Restrepo A. Mucormycosis (zygomycosis) in a heart-kidney transplant recipient: recovery after posaconazole therapy. Clin Infect Dis. 2003 Jun 1;36(11):1488-91.
5.
http://www.nlm.nih.gov/medlineplus/ency/article/000649.htm

 
 

 

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