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The topic of This Month Vol.35 No.8(No.414)

クリプトスポリジウム症およびジアルジア症 2014年7月現在

(IASR Vol. 35 p. 185-186: 2014年8月号)

クリプトスポリジウム症およびジアルジア症は、消化管寄生性原虫感染による疾患で、非血性の水様下痢等の症状を示し、糞便中に排出されるオーシストやシストを経口摂取することで伝播する(糞口感染)。感染症法においては全数把握の5類感染症で、医師には診断後7日以内の届出が義務付けられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-04.html, http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-08.html)。届出には検査診断(従来の鏡検による病原体検出に加え、2011年からは抗原検出あるいは遺伝子検出が追加された)が必要である(本号13ページ)。また、クリプトスポリジウムは特定病原体の四種病原体としての管理を要する。

クリプトスポリジウム症
クリプトスポリジウム症は、胞子虫類に属するCryptosporidium の感染に起因する。人には主にC. hominis (従来のC. parvum genotype I あるいはヒト型)が、哺乳類には主にC. parvum (従来のC. parvum genotype II あるいはウシ型)が感染するが、稀なC. meleagridis (トリ型)が集団感染事例から検出されたこともある(IASR29; 22-23, 2008)。糞便中に排出されるオーシスト(直径5μmの球形)(本号14ぺージ図1)は、塩素等の消毒薬に抵抗性である。水道、水泳プール、噴水等の水を介した水系集団感染は大規模になりやすく、厚生労働省では「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」(健水発第 0330005 号、平成 19 年 3 月 30 日; http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kikikanri/dl/ks-0330005.pdf)を定め、水道施設の整備〔水のろ過(急速ろ過、緩速ろ過、膜ろ過等)、紫外線照射〕、原水(河川水など)の検査、浄水処理の運転管理(ろ過池出口の水の濁度0.1度以下の徹底)、水源対策を講じることとされている(本号3ページ)。水や食品を介した感染経路以外にも、患者や動物との接触感染があり、性感染症、人獣共通感染症、日和見感染症としても報告されている。潜伏期間は6日(4~8日)で(本号6ページ)、水様下痢等の症状が10日間程度持続するが、効果的な治療薬はなく、健常者では脱水を防ぐ対症療法が基本である。免疫不全状態では、慢性、難治性、消耗性の下痢を引き起こし、免疫機能を回復させる治療が施されなければ時に致死的となる。日本では1996年の埼玉県越生町の水道水を介した集団感染がもっとも大規模な事例として知られており、地域住民の約7割の8,800人が発症した(IASR 17: 217-218, 1996; 埼玉県衛生部報告書、平成9年3月)。次いで雑居ビル(汚染された貯水槽)の蛇口水(IASR 15; 248-249, 1994)や水泳プールでの集団感染事例(IASR 26: 167-168, 168-169, 169-170&170-171, 2005)、牧場実習での感染事例(IASR 30: 319-321, 2009)等の報告がある。

感染症発生動向調査:クリプトスポリジウム症の患者届出は、前回特集(IASR 26: 165-166, 2005)以降、2006~2013年まで年10例程度であった(表1)。2014年6月には多数の小学生と同行者が体験学習で集団感染した事例が発生しており、原因の調査中である。

2006~2013年に診断された患者の感染要因は、ウシとの接触、海外渡航関連(直近の渡航歴があり、海外での飲食物摂取が疑われる場合)、男性間性的接触、食品由来であった(表2)。 ウシとの接触では、学生の農場実習において子ウシとの接触が原因と示唆された事例(本号4ページ)、自然体験学習(本号5ページ)などの集団感染が報告されていた。食品由来事例としては、2006年にウシの生肉(ユッケあるいは生レバー)に関連の集団感染があった(IASR 28: 88-89, 2007)。 

海外感染例の渡航先は、開発途上国が主であった。その中には、ジアルジアや赤痢アメーバなど他の病原体との重複感染も報告されていた(IASR 28; 298-299, 2007)。男性間の性的接触例では、HIVとの重複感染も報告されていた(本号8ページ)。2006~2013年に診断されたクリプトスポリジウム症患者は20代に多く、男性が多かった(図1)。

国内では2006年以降、大規模な水系集団感染はなかった。しかし海外では、飲料水、プール、噴水等による水系集団感染が2004~2010年の間に120件が報告され(本号10ページ)、特に2010年には欧州で最大規模の水系集団感染が報告されている(本号11ページ)。

ジアルジア症
ジアルジア症は、鞭毛虫類に属する消化管寄生性原虫Giardia の感染による。ヒトに感染するG. lamblia (あるいはG. duodenalisG. intestinalis、別名ランブル鞭毛虫)は、8つの遺伝子型(Assemblage A~H)に分類され、ヒトからはA、Bが検出される。ジアルジアのシスト(短径5~8 × 長径8~12μmのラグビーボール型)(本号15ぺージ図2)は、塩素消毒に抵抗性があるが、クリプトスポリジウムに比べて弱く、サイズが大きいことからろ過等で除去されやすく、ジアルジア対策としてクリプトスポリジウム対策が有効である(前述の対策指針参照)。治療にはメトロニダゾール(公知申請により2012年からジアルジア症への健康保険適用がなされた)が使われる。

感染症発生動向調査:ジアルジア症の届出は、2006~2013年の間に578例あった(表1)。2010年には近年の本邦で初めてジアルジアによる集団感染が報告された(本号7ページ)。感染要因は、海外渡航関連、性的接触、下水や糞便等への曝露であった(表3)。 海外感染例の渡航先は、開発途上国が主であった。性的接触は、男性間が多かった(71例のうち42例)。ジアルジア症の届出は、クリプトスポリジウム症と同様に20代に多く、男性が多かった(図2)。他の病原体との重複感染は26例(578例中の4.5%)報告されており、赤痢アメーバ、クリプトスポリジウム、チフス菌、パラチフス菌、赤痢菌、などであった。HIVとの重複感染も報告されていた(本号8ページ)。ジアルジア症が疑われる場合、他の病原体との重複感染を疑って検査することが重要と考えられた。

症状の多くは下痢であるが、腹部不快感などのみで下痢、軟便、粘液便等の症状の報告のなかった例が98例(578例中の17%)、無症状が13例(578例中の2.2%)あり、無症状病原体保有者(シストキャリア)の存在が指摘される。感染症法におけるジアルジア症の届出基準には無症状病原体保有者は含まれていないが、感染源としての注意が必要である。精査目的と思われる内視鏡検査が行われていた63例(578例中の11%)において、十二指腸液、胆汁、膵液等からのジアルジア検出が報告されていた。胆嚢炎様症状を呈する患者において、ジアルジアが稀に検出されることに注意を要すると考えられた(本号10ページ)。

クリプトスポリジウム、ジアルジア等の原虫類による感染症は、世界的には多くの患者が発生している。消化管寄生性原虫には、他にサイクロスポラ(本号12ページおよび15ページ図3)、イソスポラ、赤痢アメーバ等もあり、水源や動物などの感染源対策、手洗い、加熱などの感染予防対策はクリプトスポリジウム、ジアルジア対策と共通である。原因不明の下痢症に対しては、クリプトスポリジウム症やジアルジア症も鑑別診断に挙げての、糞便の検査が重要である。

 

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