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兵庫県における急性脳炎・脳症患者からのウイルス検出状況―2012~2018年

(IASR Vol. 40 p97-99:2019年6月号)

兵庫県では病原体サーベイランス事業の一環として, インフルエンザや小児科定点において「兵庫県感染症発生動向調査実施要領」 に基づき対象疾病から病原体検出を行っているが, 従来より呼吸器疾患, 発疹症や脳症についても必要に応じて同様の検査を実施している。主要症状に加えて脳炎脳症の併発を疑う患者の検体を含めると, 毎年10~20例の検体が採取されている。今回, 2012~2018年の定点医療機関から搬入された, これらの検体について実施したウイルスの検出状況を報告する。

対象および方法 

2012年1月~2018年12月の7年間に, 病原体定点医療機関から提出される病原体個票に急性脳炎または脳症の記載があったのは100症例で, そのうちヘルペス脳炎疑い例は3例, インフルエンザ脳症は14例であった。けいれんや意識障害等の神経症状以外に, 肺炎や上気道炎等呼吸器症状のある患者は24例, 胃腸炎症状がある患者は18例, 発疹症状がある患者は9例であった。検体は髄液が最も多く81検体, 次いで咽頭ぬぐい液, 鼻腔ぬぐい液, 気管吸引液等呼吸器由来の検体が合わせて74検体, 便42検体, 尿31検体, 血液または血清28検体, 脳や肺等の臓器の一部が5検体で, 合計261検体であった。100症例の年齢は0~14歳で, 0歳が最も多く19例であり, 0~2歳が全体の51%を占めた。患者の症状と検体の種類に応じて検査項目を適宜変更しており, 呼吸器症状には主にインフルエンザウイルス, ライノウイルス, RSウイルス, ヒトメタニューモウイルス, ヒトボカウイルスを, 胃腸炎症状にはノロウイルス, ロタウイルス, サポウイルス, アストロウイルス, パレコウイルス, アデノウイルスを, 発疹症状にはヒトヘルペスウイルス6(HHV-6), ヒトヘルペスウイルス7(HHV-7), エンテロウイルス, パルボウイルスB19, 水痘帯状疱疹ウイルスを中心にPCR検査を実施した。 

ウイルス検出状況 

100例中38例(55検体)からウイルスが検出された()。HHV-6が10例, HHV-7が7例, インフルエンザウイルスが7例, ライノウイルスが5例, RSウイルスが3例, アデノウイルス, エンテロウイルス属, サイトメガロウイルス, EBウイルス, ヒトボカウイルスがそれぞれ2例, ノロウイルス, ロタウイルス, サポウイルス, パレコウイルス, パルボウイルスB19, 水痘帯状疱疹ウイルス, ヒトメタニューモウイルスがそれぞれ1例から検出された。10例からは複数の病原体が検出され, そのうち4例はHHV-6との重複感染で, 1例からはパルボウイルスB19, サポウイルス, HHV-6の3種類が検出された。ヘルペス脳炎疑いの3例中2例は髄液, 1例は咽頭ぬぐい液の検査を行ったが, 3例とも単純ヘルペスウイルスは検出されず, 咽頭ぬぐい液からサイトメガロウイルスが検出された。インフルエンザウイルス脳症14例中7例からインフルエンザウイルスが検出された。それらはすべて鼻腔ぬぐい液等呼吸器由来検体からの検出であった。 

検体別のウイルス検出状況をみると, 咽頭ぬぐい液等呼吸器由来検体の陽性率は45.9%(34/74), 便26.2%(11/42), 尿9.7%(3/31), 血液7.1%(2/28), 髄液6.2%(5/81)であった。髄液からはHHV-6が2例, パルボウイルスB19, エコーウイルス18型およびEBウイルスがそれぞれ1例から検出され, これらのウイルスは病因の可能性が高いと考えられた。咽頭ぬぐい液, 鼻腔ぬぐい液あるいは気管吸引液のみから検出されたHHV-6やHHV-7は潜伏感染の可能性もあることから脳症との関連性については慎重な判断を要するが, けいれん等の症状を考慮することで病因解明の一助となると考えられる。100例中67例で複数の検体が採取されたが, 異なる検体から同一のウイルスが検出されたのは, HHV-6(気管吸引液, 便, 血清), パルボウイルスB19(鼻腔ぬぐい液, 便, 尿, 髄液), アデノウイルス2型(鼻腔ぬぐい液, 便), コクサッキーウイルス(咽頭ぬぐい液, 便), 水痘帯状疱疹ウイルス(咽頭ぬぐい液, 便, 尿, 血清), サイトメガロウイルス(咽頭ぬぐい液, 尿)の6例(9.0%)で, 他の28例は単独の検体からの検出であった。脳炎の診断に最も有用な情報を得ることができる髄液での検出率は低いことから, 病因究明のためには多くの種類の検体を採取することが必要である。 

まとめ 

急性脳症では脳内でのウイルス増殖が認められないとされており1), 病原体の特定が難しいことが指摘されている。今回の調査でもウイルスが検出された38例中22例からインフルエンザウイルス, HHV-6, アデノウイルスやサイトメガロウイルス等脳症の原因となり得る2)多種のウイルスが検出されている。ただ, これらのウイルスが検出された検体の種類や採取時期等の様々な要因を考慮した原因ウイルスとしての評価が必要であり, そのためには個々の検出結果について臨床現場と情報を共有しながら病原体サーベイランスを継続することで, さらなる原因ウイルスの究明が可能になると思われる。 

謝辞:病原体サーベイランスにご協力いただいた医療機関, 県疾病対策課, 健康福祉事務所(保健所)の皆様に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 森島恒雄, ウイルス 59: 59-66,2009
  2. 片野春隆ら, IASR 28: 341-342,2007

 

兵庫県立健康科学研究所
 荻 美貴 高井伝仕 押部智宏 近平雅嗣

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