国立感染症研究所

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ロタウイルス感染症の臨床

(IASR Vol. 40 p209-210:2019年12月号)

臨床的特徴

ロタウイルスは糞便を介して経口感染し, 小腸上皮細胞で増殖する。通常48時間未満の潜伏期間を経て, 軽微な発熱, 嘔吐で発症し, 24~48時間後から最長14日間(通常3~7日間)の水様性下痢を伴う1-4)

時に脱水症やけいれん, 脳炎・脳症などの重篤な合併症がみられることがある。ロタウイルス胃腸炎との関連が示唆された合併症をに示す5)。わが国における急性脳炎・脳症の調査(2007~2016年)によると, 5歳未満児1,893例の原因病原体はインフルエンザ(18.6%), HHV-6/7(9.7%)に続き, ロタウイルス(4%)は3番目に多かった6)。他の調査(2009~2011年)では, ロタウイルス関連の急性脳炎・脳症症例は年間44例と推定され, 後遺症および死亡の頻度はそれぞれ25.9%, 12.1%であった7)。合併症の一つである胃腸炎関連けいれんは, 急性胃腸炎の発症から1~6日(平均2.3日)に生じ, 30秒から3分間の全身性けいれんが1~7回群発する特徴を有する。通常, 発熱や脱水, 電解質異常を伴わない。カルバマゼピンが有効であり, 予後良好である8)

乳幼児はロタウイルス感染症の罹患リスクが高いが, 重症例は生後6か月~2歳児の初感染時に多い。終生免疫は得られずに反復感染するが, 再感染ごとに臨床症状は徐々に軽症化する。免疫不全宿主は重症化および遷延化のリスク因子である1-4)

検査所見

通常, 血液検査所見に異常を認めないが, 重症度により血清電解質異常, BUN上昇, 低血糖, 代謝性アシドーシスなどを伴うことがある。臨床現場での病原診断は, 便の迅速抗原検査を用いることが多く, 検査の感度・特異度は高い3,4)

治 療

ロタウイルス感染症に特異的な治療はなく, 合併症に対する対症療法を行う1-4)。中等度以下の脱水を伴う急性ウイルス性胃腸炎の初期治療として経口補水液による経口補水療法が, また重度の脱水では経静脈輸液療法を優先することが推奨されている。脱水の補正後はミルクや年齢相応の食事を早期に開始しても良い。整腸薬プロバイオティクスは下痢の期間を短縮する可能性がある9)

予 防

ロタウイルスワクチン

接種後の腸重積症発症の懸念から, 初回接種は生後14週6日までに行うことが推奨されている。しかし, 新生児集中治療室(NICU)に長期入院した早産児などにおいて, 入院中の接種における院内感染上の安全性および退院後に接種を開始した場合の安全性が課題となっている。早産児はロタウイルス感染症の重症化リスクが高いため10,11), 接種機会を逃さないよう対応策の検討が必要とされる。なお, ワクチンの一般的事項, 有効性, 安全性は他項を参照していただきたい。

ワクチン以外の予防策

ロタウイルスが感染伝播する期間は, 発症2日前~発症後10日後までであり, 20分未満のウイルス曝露で感染が成立すると言われている1)。また, ロタウイルスは環境中で安定しており, 数週間~数カ月間生存し続ける可能性が示唆されている1,2,4)。したがって, 流水による手洗いの徹底やオムツなどの適切な処理, 次亜塩素酸ナトリウムによる環境消毒, 患者の隔離が感染拡大防止の基本となるが, 実際には完全な感染予防は困難である9)

症例提示 (実際の症例をベースにした架空の例)

以下に臨床現場で遭遇するロタウイルス胃腸炎の典型例を提示する。

【症例】1歳2か月 女児

【主訴】嘔吐, 水様性下痢, 意識障害

【現病歴】20XX年2月, 受診の2日前に微熱および数回の嘔吐, 前日から10回以上の酸臭を伴う白色水様下痢を認め, 経口摂取も不良となったため受診した

【周産期歴・既往歴】特記事項なし

【予防接種歴】ロタウイルスワクチン未接種

【入院時現症】体重8.4kg(10%減少), 意識レベル 痛み刺激で開眼, 体温38℃台, 脈拍数188回/分, 収縮期血圧70mmHg(触診法), 呼吸数45回/分, SpO2 92%(room air), 末梢性チアノーゼ, 毛細血管再充満時間4秒, 皮膚・粘膜乾燥, ツルゴール低下, 眼周囲陥凹, 胸部異常所見なし, 腹部腸蠕動音亢進, 髄膜刺激症状なし

【検査所見】

・血液検査:WBC 14,000/μL(Neu88.1%, Lym10.5 %), Hb 15.1g/dL, CRP 1.2mg/dL, ALT 50IU/L, BUN 26mg/dL, Cr 0.8mg/dL, Na 150mEq/L, Cl 112mEq/ L, 血糖 188mg/dL, pH 7.222, pCO2 31.1mmHg, HCO3 -12.3mEq/L

・尿検査:比重>1.030, ケトン体 (3+)

・便検査:潜血(3+), 膿球(-), ロタウイルス迅速抗原検査 (+)

・血液培養:陰性

・便培養:病原細菌の検出なし

【臨床経過】来院時, 意識障害および低血圧性ショックを認め, 救急外来で輸液蘇生(細胞外液ボーラス投与を3回), 酸素投与を行った結果, 意識レベルは改善し, ショックから離脱した。ロタウイルス胃腸炎および循環血液量減少性ショックの加療目的で入院とし, 経静脈輸液療法を開始した。以後, 水様性下痢は持続していたものの経口摂取は良好となり, 入院4日目に後遺症なく軽快退院となった。

まとめ

ロタウイルス感染症は, 外来受診や入院, 重篤な合併症により身体的, 時間的, 経済的な疾病負担が大きい。さらに, 感染力は非常に強く, 家族内や集団生活施設内, 病院内において, しばしば患者から周囲の者への感染伝播も問題となっている。ロタウイルスワクチンの定期接種化により, これらの負担軽減が期待される。

 

参考文献
  1. Center for Disease Control and Prevention: Chapter 19; Rotavirus. "The Pink Book 13th ed." CDC, Atlanta, 311-324, 2015
  2. Committee on Infectious Diseases, American Acad-emy of Pediatrics: Rota-virus. Red Book 2018-2021: Report of the Committee on Infectious Diseases 31st ed, Kimberlin DW, et al., ed. Amer Academy of Pediatrics, Itasca, 700-704, 2018
  3. O'Ryan MG, Matson DO: Clinical manifestations and diagnosis of rotavirus infection. Edwards MS, ed. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc.
    https://www.uptodate.com(2019年11月21日アクセス)
  4. Prasad P, Fedorowicz Z: Rotavirus Gastro enteritis. Last updated [2018 Dec 03]. DynaMed.
    http://www.DynamicMedical.com(2019年11月21日アクセス)
  5. 津川毅ら, ロタウイルス胃腸炎. 臨床と微生物, 40(2), 149-154, 2013
  6. 奥野英雄ら, 臨床とウイルス, 45(5), 220-229, 2017
  7. Kawamura Y, Brain Dev 36(7): 601-607, 2014
  8. Uemura N, et al., Brain Dev 24(8): 745-749, 2002
  9. 小児急性胃腸炎診療ガイドライン ワーキンググループ:小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017年版. 日本小児救急医学会診療ガイドライン作成委員会編, 東京, 1-40, 2017
  10. Sharma R, et al., Pediatr Infect Dis J 21(12): 1099-1105, 2002
  11. Newman RD, et al., Pediatrics 103(1): E3, 1999
 
 
川崎医科大学小児科学教室
 田中孝明 中野貴司

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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