国立感染症研究所

国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について

2024年3月29日

国立感染症研究所
細菌第一部
実地疫学研究センター
感染症疫学センター
感染症危機管理研究センター

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※2024年7月1日に更新版を公表しました。最新情報はこちらをご覧下さい

 

背景

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)は、急激かつ劇的な病状の進行を特徴とする致命率の高い感染症である。STSSは、感染症法に基づく感染症発生動向調査において、5類全数把握疾患と定められている。届出に必要な要件は、ショック症状に加えて肝不全、腎不全、急性呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固症候群、軟部組織炎、全身性紅斑性発疹、中枢神経症状のうち2つ以上をともない、かつ通常無菌的な部位(血液など)等からβ溶血を示すレンサ球菌が検出されることであり、要件を満たすと診断された場合、届出対象となる。STSSの病原菌は、A群溶血性レンサ球菌(GAS:group A Streptococcus, Streptococcus pyogenes)の他、B群、C群、G群の溶血性レンサ球菌などがある。
GASによるSTSSの臨床症状、関連するサーベイランスについては2024年1月の病原微生物検出情報(IASR)速報記事を参照のことi

今般、日本において、GASによるSTSS症例およびGAS咽頭炎症例が増加しつつある。また、2010年代に英国で流行した病原性および伝播性が高いとされるS. pyogenes M1UK lineage(UK系統株)の集積が、2023年夏以降に日本国内でも確認されている。
2023年12月までの状況について2024年1月のIASR速報記事で報告したが、今回その後の国内の状況を更新するとともに、改めて国内の状況についてリスク評価を行った。

 

 

国外の侵襲性A群溶血性レンサ球菌感染症の発生動向

国内では感染症発生動向調査においてSTSSの患者数、死亡者数を集計しているが、国外では無菌的部位からのGASの検出のみを症例定義とした侵襲性A群溶血性レンサ球菌(iGAS:invasive Group A Streptococcus:)感染症を集計している国が多く、症例定義が異なることに注意が必要であるii。 また、米国はSTSSを集計しているものの、日本とは異なりA群溶血性レンサ球菌によるものだけを対象としているiii
2022年末から2023年初頭に英国、フランス、アイルランド、オランダ、スウェーデンで、特に10歳以下の小児でのiGAS感染症の増加が報告され、この際、GASのM1UK系統株の報告数も増加していることが報告されたiv。これらの国でのiGAS感染症の発生は2023年4月頃には落ち着いているが、それ以降の状況は国により異なっている。英国では2023年2月に平年並みになって以降、iGAS感染症および猩紅熱のサーベイランスに異常はみられなかったとしているv。一方で、スウェーデンでは2023年後半から再度iGAS感染症の報告数が増加しているが、70歳以上の高齢者の報告が多くなっているvi
米国ではiGAS感染症の中でさらにSTSSを個別に集計している。2022年12月に、欧州同様に小児でのiGAS感染症が増加し、米国疾病管理予防センター(CDC)が勧告を出したがそれ以降、iGAS感染症、STSSが増加しているという報告はない。GASによるSTSSのサーベイランスでは新型コロナウイルス感染症流行以前と比較するとやや多いものの、大きな流行の波は見られていないvii
カナダでは全国的な発生の報告はないものの、ブリティッシュコロンビア州では2023年12月以降20歳未満のiGAS感染症が増加していることを報告しており、同州では2016年以降iGAS感染症の報告数が増加傾向にあるとしているvii
オーストラリアではiGAS感染症がサーベイランス対象疾患となったのが2021年以降であるが、集計開始後徐々に報告数は増加している。2024年の報告数は3月21日時点で2023年の同時期と同程度となっているix
アルゼンチンでは2022年年末の報告数の増加は見られなかった一方で、2023年に小児を中心にiGAS感染症の症例数、死亡者数の報告が増加しており、解析された菌株の多くがM1(emm1)型株であり、そのうちM1UK系統株が9.1%であったとしているx

M1UK系統株は、それ以外のM1型株と比較して発赤毒素の産生量が約9倍多く、伝播性も高いとされているが、2022年から2023年にかけての欧州でのiGAS感染症の増加とM1UK系統株の増加の間に疫学的な関連性は見られなかったと報告されているxi。また、この時期の欧州各国からの報告においても、スペインからは関連がないと報告されているxii一方、ベルギー、ドイツ、アルゼンチンからの報告では関連が示唆されており、一致した見解は得られていないx,xiii,xiv,xv

 

 

国内のA群溶血性レンサ球菌感染症の発生動向(2024年3月25日時点)

1) 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発生動向

2024年第1週(1/1-7)から第11週(3/11-17)に診断され、感染症発生動向調査に届出されたSTSS症例は521例であり、血清群はA群が335例、B群が56例、C群が7例、G群が93例、その他/不明30例と、A群による届出が最も多かった。また、過去6年間(2018年-2023年)においてSTSS届出数全体に占めるA群による届出数の割合は30%から50%程度であったが、2024年は64%と割合が上昇した。

GASによるSTSS症例は、2023年全体で409例、2024年は第1週から第11週で335例の届出があった。
過去6年の各年第1週から第11週の届出数は平均77.5例(範囲:39-106)であったが、2024年は335例(2024年第1週-第11週)の届出があり、これまでで最も届出数が多かった。
335例の届出について、性別は、男性192例(57%)、女性143例(43%)、年齢内訳は、20歳未満13例、20代6例、30代22例、40代46例、50代44例、60代68例、70代76例、80代以上60例であった。うち届出時死亡例は77例であり、男性44例、女性33例、年齢内訳は、20歳未満0例、20代1例、30代5例、40代6例、50代11例、60代16例、70代20例、80代以上18例であった。50歳未満において、届出数に占める届出時の死亡数の割合は13.8%となり、以前(2018 年-2022年:9.1%-24.1%)と同様となった。

GASによるSTSS症例について、2023年7月以降、特に50歳未満を中心とした届出数の増加を報告したi。その後、GASによるSTSS症例の届出全体としても、11月に増加し、2024年1月(165例)に、ピークとなった。7月以降、50歳未満の届出数の増加が目立っていたが、11月以降、50歳以上の届出数も増加し、全届出に占める50歳以上の届出割合は以前(2018 年-2022年:76%-88%)と同様となった。
2024年3月25日現在、 GASによるSTSS症例の届出数は減少傾向(3/1-17: 60例)であるが、例年と比較し依然として多い状況である。なお、直近の届出は遅れて集計されるため注意が必要である。

 

2) A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の発生動向(小児科定点)

GAS咽頭炎の小児科定点当たり報告数は、2023年第33週(8/14-20)から増加し、第50週(12/11-17)にピーク(定点当たり報告数5.04)となった。これは過去6年の同時期と比較して、最も高い値であった。2024年第11週(3/11-17)の定点当たり報告数は4.48であり、引き続き高い報告数で推移しているxvi

 

国内のA群溶血性レンサ球菌の細菌学的動向

2024年3月15日までに国立感染症研究所に、2024年1月1日以降に発症したSTSS患者からの分離株が、38府県から126症例126株送付された。そのうち、GASは92症例 (73.0%) (表1)から、B群溶血性レンサ球菌は10症例 (7.9%)から、G群溶血性レンサ球菌は24症例 (19.0%)から分離された。
92症例から分離されたGAS 92株のうち、M1型株が、54株 (58.7%, 54/92)であり、うち43株 (79.6%)がM1UK系統株であった。
都道府県別にみたM1UK系統株の分離数(M1UK系統株/M1型株)は、千葉県が8株 (8/8)、神奈川県が7株 (7/7)、茨城県4株 (4/4)、埼玉県4株 (4/6)、長野県4株 (4/5)、栃木県3株 (3/3)、山形県2株 (2/2)、群馬県2株 (2/2)、鹿児島県2株 (2/2)、山梨県1株 (1/1)、富山県1株 (1/1)、島根県1株 (1/1)、愛媛県1株 (1/1)、福岡県1株 (1/3)、熊本県1株 (1/1)、大分県1株 (1/4)であった。宮城県 (0/1)、大阪府 (0/1)、長崎県 (0/1)からはM1UK系統株は分離されなかった(表、図)。
なお、菌株解析は、感染症発生動向調査に報告されたGASによるSTSS症例の一部の症例に行っているものであり、解釈には注意が必要である。

  

  

リスク評価

  • 2024年3月現在、GASによるSTSS症例の届出数は減少傾向にあるものの例年と比較し多い届出数で推移している。また、GAS咽頭炎の定点当たり報告数も2023年末よりは減少しているものの高い報告数で推移している。
  • M1型株におけるUK系統株は、関東地方及びその周辺地域を中心に検出数が増加し、その検出割合も以前の報告iより増加した。しかし、このGASによるSTSS症例届出数の増加、GAS咽頭炎の定点当たり報告数の増加、UK系統株との相互の関連は不明である。
  • 欧米で2022年末から2023年初頭に小児でのiGAS感染症の報告数の増加がみられたほか、2023年から2024年にかけて報告数の増加がみられる国もある。ただし、これらの国の中でも2023年以降は平年並みの報告数となった国もあれば、平年以上の報告数が持続している国、2023年末に報告数が増加した国などその状況はさまざまである。また、小児のみならず高齢者での感染者数が多く報告されている国もある。
  • 病原性および伝播性が高いとされるUK系統株とGASによるSTSS症例の増加との関連については、更なる知見の蓄積が必要である。引き続き国内での発生状況、疫学的特徴を把握する必要があり、積極的な菌株収集、疫学情報の収集が求められる。
  • 公衆衛生対応として、臨床医への適切な診断、治療、報告の推奨、医療機関や高齢者施設等における標準予防策の徹底、一般市民への感染予防策(手指衛生、咳エチケット、擦過傷などの創部の清潔な処置等)の啓発、有症状時の早期受診の推奨が必要と考えられるxvii,xviii,xix

 

 

表.国立感染症研究所 細菌第一部に送付された都道府県別のSTSS患者由来のA群レンサ球菌(GAS)の分離株数
  (2024年1月1日以降発症)(2024年3月25日現在)

  240329 STSS table1

 

 

 

 

 

240329 STSS figure1

図.国立感染症研究所 細菌第一部に送付されたSTSS患者由来の検体から分離された 都道府県別のM1UK系統株数
   (2024年1月1日以降発症)(2024年3月25日現在)

 

 

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

 

参考文献

i A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在), 速報掲載日2024/1/15, IASR Vol. 45 p29-31: 2024年2月号.

ii Kate M Miller, Theresa Lamagni, Thomas Cherian, Jeffrey W Cannon, Tom Parks, Richard A Adegbola, Janessa Pickering, Tim Barnett, Mark E Engel, Laurens Manning, Asha C Bowen, Jonathan R Carapetis, Hannah C Moore, Dylan D Barth, David C Kaslow, Chris A Van Beneden, on behalf of the SAVAC Burden of Disease Working Group, Standardization of Epidemiological Surveillance of Invasive Group A Streptococcal Infections, Open Forum Infectious Diseases, Volume 9, Issue Supplement_1, September 2022, Pages S31–S40, https://doi.org/10.1093/ofid/ofac281.

iii CDC, Streptococcal Toxic Shock Syndrome (STSS) (Streptococcus pyogenes) 2010 Case Definition, As of 27 March 2024. https://ndc.services.cdc.gov/case-definitions/streptococcal-toxic-shock-syndrome-2010/.

iv ECDC, Increase in Invasive Group A streptococcal infections among children in Europe, including fatalities, released 12 Dec 2022. https://www.ecdc.europa.eu/en/news-events/increase-invasive-group-streptococcal-infections-among-children-europe-including.

v UK Health Security Agency. Group A streptococcal infections: third update on seasonal activity in England, 2023 to 2024, Updated 29 February 2024. https://www.gov.uk/government/publications/group-a-streptococcal-infections-report-on-seasonal-activity-in-england-2023-to-2024/group-a-streptococcal-infections-third-update-on-seasonal-activity-in-england-2023-to-2024.

vi Folkhälsomyndigheten, Aktuell veckorapport om invasiva grupp-A streptokocker (iGAS), Published 22 Mar 2024. https://www.folkhalsomyndigheten.se/folkhalsorapportering-statistik/statistik-a-o/sjukdomsstatistik/invasiva-grupp-a-streptokocker-igas-veckorapporter/aktuell-veckorapport-om-invasiva-grupp-a-streptokocker-igas/.

vii CDC, Nationally Notifiable Infectious Diseases and Conditions, United States: Weekly Tables, As of 27 March 2024. https://wonder.cdc.gov/nndss/nndss_weekly_tables_menu.asp?comingfrom=202352&savedmode=&mmwr_year=2024&mmwr_week=112.

viii BC Centre for Disease Control, Infections from invasive group A streptococcal bacteria remain higher than usual among children in B.C., Published 18 January 2024. http://www.bccdc.ca/about/news-stories/stories/2024/invasive-group-a-streptococcal-infections-update.

ix Australian Government Department of Health and Aged Care, National Communicable Disease Surveillance Dashboard. Last refreshed on 27 March 2024. https://nindss.health.gov.au/pbi-dashboard/.

x Republica Argentina Ministerio de Salud, Boletín epidemiológico nacional N 695 SE 10 | 2024, As of 27 March 2024. https://bancos.salud.gob.ar/recurso/boletin-epidemiologico-nacional-n-695-se-10-2024.

xi ECDC, Communicable Disease Threats Report, Week 19, 7-13 May 2023. https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/communicable-disease-threats-report-week-19-2023.pdf.

xii Ramírez de Arellano, E., Saavedra-Lozano, J., Villalón, P., Jové-Blanco, A., Grandioso, D., Sotelo, J., Gamell, A., González-López, J. J., Cervantes, E., Gónzalez, M. J., Rello-Saltor, V., Esteva, C., Sanz-Santaeufemia, F., Yagüe, G., Manzanares, Á., Brañas, P., Ruiz de Gopegui, E., Carrasco-Colom, J., García, F., Cercenado, E., … Spanish PedGAS-Net/CIBERINFEC GAS Study Group (2024). Clinical, microbiological, and molecular characterization of pediatric invasive infections by Streptococcus pyogenes in Spain in a context of global outbreak. mSphere, e0072923. Advance online publication. https://doi.org/10.1128/msphere.00729-23.

xiii Rodriguez-Ruiz, J. P., Lin, Q., Lammens, C., Smeesters, P. R., van Kleef-van Koeveringe, S., Matheeussen, V., & Malhotra-Kumar, S. (2023). Increase in bloodstream infections caused by emm1 group A Streptococcus correlates with emergence of toxigenic M1UK, Belgium, May 2022 to August 2023. Euro surveillance : bulletin Europeen sur les maladies transmissibles = European communicable disease bulletin, 28(36), 2300422. https://doi.org/10.2807/1560-7917.ES.2023.28.36.2300422.

xiv Wolters, M., Berinson, B., Degel-Brossmann, N., Hoffmann, A., Bluszis, R., Aepfelbacher, M., Rohde, H., & Christner, M. (2024). Population of invasive group A streptococci isolates from a German tertiary care center is dominated by the hypertoxigenic virulent M1UK genotype. Infection, 52(2), 667–671. https://doi.org/10.1007/s15010-023-02137-1.

xv Republica Argentina Ministerio de Salud, Comunicación Epidemiológica- Actualización de la situación de S. pyogenes en Argentina, 6 de noviembre de 2023 – SE 45. https://bancos.salud.gob.ar/recurso/comunicacion-epidemiologica-actualizacion-de-la-situacion-de-s-pyogenes-en-argentina.

xvi 国立感染症研究所, A群溶血性レンサ球菌咽頭炎. https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1646-03strepta.html.

xvii厚生労働省, 複数国における猩紅熱と侵襲性A群溶血性レンサ球菌感染症の増加, Disease outbreak news 2022年12月15日, 厚生労働省検疫所FORTH. https://www.forth.go.jp/topics/20221218_00002.html.

xviii World Health Organization, Increase in invasive Group A streptococcal infections among children in Europe, including fatalities, 12 December 2022. https://www.who.int/europe/news/item/12-12-2022-increase-in-invasive-group-a-streptococcal-infections-among-children-in-europe--including-fatalities.

xix UK Health Security Agency, UK guidelines for the management of contacts of invasive group A streptococcus (iGAS) infection in community settings. https://assets.publishing.service.gov.uk/media/64071ec5d3bf7f25fa417a91/Management-of-contacts-of-invasive-group-a-streptococcus.pdf.

 

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