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長野県におけるA型肝炎の集団発生について

(IASR Vol. 39 p25-26: 2018年2月号)

2017(平成29)年6~7月に長野県内においてA型肝炎の患者発生が多数認められたため, その概要を報告する。

6月12日~7月26日の間に, 県内の複数の医療機関から, 当所を含め3カ所の保健所へA型肝炎患者7名の届出があった。患者7名(a~g)の概要はのとおりである。患者らは, 全身倦怠感や発熱, 食欲不振, 黄疸, 肝腫大, 肝機能障害等の症状がみられ, 患者gを除く6名は入院治療を要した。

届出を受理した保健所では患者らに対して喫食行動調査を実施した。その結果, 患者aは当所管内の飲食店Y(蕎麦店)の従業員であることが判明した。また, 患者a~c, gの4名は5月3日~6月4日の間に当所管内の飲食店Xを利用しており(患者aとbのみ同一グループ), さらに患者d~fの3名は6月3日に飲食店Yを利用していたことが判明した(3名とも別グループ)。

患者全員から得られた糞便検体について, 長野県環境保全研究所においてプライマーHAV-JCT-2F/HAV-JCT-1R-Aを用いてnested RT-PCR法によりA型肝炎ウイルス(HAV)遺伝子の検出を試みたところ, 7検体すべてからHAV遺伝子が検出された。また, 得られた増幅産物は, ダイレクトシークエンス法によりVP1/2A領域の塩基配列を決定し, NJ法により系統樹解析を実施した。その結果, 7検体すべてgenotype 1Aに分類され(図中のa~g), 99~100%の相同性を示した。

当所では, 飲食店XおよびYを原因施設とする食中毒が疑われたため, 両施設に対して調査を実施した。その結果, 両施設ともに, 届出のあった患者以外の利用者で有症者は確認されなかった。

また, 飲食店Xについては, 患者a~cの3名が共通してアサリ炒めを喫食していたため, 食材である中国産の殻付冷凍アサリ(患者らに提供されたものとは賞味期限は同じだが別日に納品されたもの) を検査したところ, 患者らと相同性の高い配列のHAV遺伝子が検出された(図中のAsari)。このため, アサリ炒めが原因食品として推定されたが, 調理の際に加熱不足等の不適切な工程は確認されなかった。さらに, 患者gはアサリ炒めを喫食していなかったため, 調理場においてアサリから他食材への二次汚染の可能性も考えられたが, 二次汚染を起こす具体的な場面は確認できなかった。また, 調理従事者の体調は良好であり, 検便を行ったところHAV遺伝子は検出されなかった。以上のことから, アサリが原因食品として考えられたものの, 1日平均30グループ程度が飲食店Xを利用している中で患者が4名(3グループ)のみであり, その喫食時期が1カ月にわたって不連続に3日しかないという状況もあったため, 食中毒の原因施設として特定するまでには至らなかった。

なお, 冷凍アサリの流通状況を確認するため, 仕入先や輸入業者へ遡り調査を実施した。その結果, 患者らに提供されたものと同一ロット(同一賞味期限)の冷凍アサリは21,850kg輸入され, 複数業者へ出荷されていたが, 同様の苦情や感染例は確認されなかった。

一方, 飲食店Yについては, 6月3日に320食の蕎麦が提供されており, 患者d~fはざるそばやもりそば, 天ぷら等を喫食していた。また, 患者aの同日の勤務状況を確認したところ, 発熱等の症状を呈しているなかで, 加熱工程後の食品に触れる作業(蕎麦の水さらしや盛り付け)を行っていたことが判明した。このことから, A型肝炎を発症した調理従事者(患者a)の手指を介し, ウイルスに汚染された食品の喫食によって患者d~fがウイルスに感染したと推定されたため, 飲食店Yを原因施設とする食中毒と断定し, 3日間の営業停止処分とした。

今回の一連の患者発生については, 患者の届出が複数の保健所にまたがっていたが, 保健所間での情報共有を円滑に行うことで, 原因施設や原因食品の究明を進めることができ, 一部の患者については原因施設の特定に至ることができた。また, A型肝炎は潜伏期間が2~7週間と長いことから, 患者から行動歴や喫食歴を十分に聞き取ることができず, 感染源や感染経路の究明に苦慮する場合が多い。このため, 保健所では, 正確な行動歴や喫食歴を調べる上で, 患者への説明を丁寧に行うことで聞き取り調査への理解, 協力を得ることが重要であると認識した。

謝辞:本事例に関して, 疫学調査等を実施いただいた上田保健所および松本保健所の職員の皆様, 関係各位に深謝いたします。

 

長野県佐久保健福祉事務所(佐久保健所)
 小林広記 和田由美 北野和子 黒岩和雄 小林良清
長野県環境保全研究所
 塚田竜介 小野諭子 中沢春幸

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