国立感染症研究所

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A型肝炎:男性同性愛者でのアウトブレイクから非男性同性愛者への拡散, 2017年―オランダ

(IASR Vol. 39 p165-166: 2018年9月号)

男性同性愛者(Men who have sex with men: MSM)におけるA型肝炎のアウトブレイクがヨーロッパ内外で報告されている。これらから検出されたA型肝炎ウイルスは遺伝子配列の解析からVRD_521_2016(UK/Spain), RIVM-HAV16-090(EuroPride), V16_25801(Germany) の3つの独立したウイルス株(以下, 株と略す)であることが判明しており, すべて遺伝子型がIAであった。オランダでは, A型肝炎症例のウイルスについて, 遺伝子配列の解析が70%以上で行われている。本稿は, MSMでのアウトブレイクのインパクトや非MSMへの拡散について評価を行ったものである。

オランダではA型肝炎は全数届出対象疾患であり, 検査機関や医師からの届出後に地域保健サービス (regional Public Health Service: PHS) は基本属性, 患者情報(発症日, 症状, 入院)を収集し, 感染源調査(MSMの接触, 周囲の症例, 旅行歴の有無;これらがなければ喫食調査)を行っている。国レベルへはこれらのサーベイランス情報を匿名で国立公衆衛生環境研究所(National Institute for Public Health and the Environment: RIVM)へ報告している。また, すべての検査機関は, RIVMへ血清および/または便検体を送付し, A型肝炎ウイルスが陽性の場合には, RIVMは株のVP1/P2領域の遺伝子配列の解析を実施することとなっている。

2017年のRIVMへのA型肝炎の届出は374例(男性293例, 女性81例)であった。男性293人中174人(59%)がMSMであると報告しており, 109人が非MSM, 10人は不明であった。A型肝炎ウイルス遺伝子配列の解析は317例(84.8%)で実施された。18例は遺伝子情報が欠如していたが, 他の同一集団症例における解析結果を踏まえて特定の株による集団の一部として分析された。全体で243例がMSMで流行した株で, 92例がMSMで流行した株以外の株であった。

2017年は, ウイルスの遺伝子情報のあるMSMの全例である158例がMSMで流行した株に感染していたのに対し, 非MSMである男性症例の57%(55/96)がMSMで流行した株に感染しており, 女性の32%(23/ 73)もMSMで流行した株に感染していた。MSMで流行した株の内訳は, VRD_521_2016が54%(130例), RIVM-HAV16-090が38%(92例), V16_25801が9%(21例)であった。

MSMで流行した株が検出された症例の年齢中央値は35歳(範囲:2-78歳)に対し, MSMで流行していなかった株が検出された症例の年齢中央値は23歳(範囲:1-70歳)であった。小児ではMSMで流行した株が9例で検出されたが, 32例はMSMで流行していない株が検出された。

MSMで流行していない株による感染のうち, 36%以上はA型肝炎流行国で感染しており, MSMで流行している株による国外での感染はMSMおよび非MSMともに稀であった。このような状況から, MSMで流行している株による感染はオランダ国内, あるいは非流行国で感染したことが考えられ, 他のヨーロッパ諸国からの報告とも一致する。

A型肝炎のMSMでのアウトブレイクは接触による直接的な糞口感染が最も一般的であるが, 環境表面や食品汚染による感染も起こり得る。MSMの症例の22%(35/158)のみがA型肝炎患者との接触を認識していたことは, MSMの匿名および行きずりの性的接触が, 接触者への予防的措置にマイナスであるとの報告と一致する。また, 少なくともMSM症例中6例では発症前2カ月間に性的接触がなかった。このことは, MSMにおけるA型肝炎感染が, 必ずしも性的接触だけによるものではなく, ゲイ施設における汚染された環境からの感染を示唆する。

この数十年, ヨーロッパでは, A型肝炎ウイルスへの抗体保有者および感染者数の減少に伴い, A型肝炎ウイルス感染に対する感受性者が増加している。従って, MSMのような感染のリスク集団におけるアウトブレイクが発生すると, 非MSMへの伝播は容易である。2017年, A型肝炎患者243例中65%をMSMが占めたが, 残りの約3分の1が非MSMであった。MSMから非MSMへの感染の拡散は, 女性よりも男性に多く認められた。MSMであることを報告していない男性の存在も考えられるが, 子供の感染が少ないことからも, 成人の集まる場所での感染伝播の可能性が考えられる。例えば男性公衆トイレなどの環境を介した接触などは仮説となりうる。ただし, オランダのアウトブレイク症例は有症者で検査診断例のみの報告であるため, アウトブレイクの真の症例数よりも過小評価である。これは症状の軽い者や無症状病原体保有者が含まれていないためである。

 

(Euro Surveill. 2018; 23(23): pii=1800265)
(抄訳担当:感染研・竹田飛鳥, 八幡裕一郎, 砂川富正)

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