国立感染症研究所

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<速報>A型肝炎ウイルスによる家族内での集団感染事例―川崎市

(掲載日 2013/9/20)

 

2013年3~7月までの長期間にわたり、川崎市内の一家族内においてA型肝炎ウイルス(HAV)による集団感染が認められたので報告する。

同居家族は夫(39歳)、妻(45歳)、長男(5歳)の3名で、3月中旬に夫が発熱、嘔吐、黄疸を呈し医療機関を受診した。その際、HAV特異的IgM抗体の上昇が認められ、HAV感染症と診断された。同一時期に職場ならびに近親者での発症はみられず、原因となった食品は不明であった。夫の発症から2カ月後に、妻が発熱を訴え医療機関を受診した。その後、嘔吐、黄疸が出現し、1週間経過後も症状が改善しないため入院するに至った。本研究所にてPCR検査を実施したところ、発症から12日目に採取した妻の血清からHAV遺伝子が検出され、VP1/2A領域(498bp)のDNAシークエンス解析の結果、1A-1のクラスターに属することが確認された(図1)。また、長男は母親の入院期間中は保育園を休園していたが、その間も発症することなく無症候であった。しかし、母親の発症から1ヵ月後に採取した長男の糞便からもPCR検査でHAV遺伝子が検出され、ウイルスの排泄状況の確認ならびに保育園での集団生活に際する周囲への蔓延防止の観点から継続的な検査を行う必要があると判断した。2週間毎の再検査を行ったところ、2度目の検査でもHAVが検出され、継続してウイルスが排泄されていることが確認されたが、3度目の検査ではHAV陰性となり、本児が感染源となるリスクは回避された(図2)。

興味深いことに、男児から検出されたVP1/2A領域の遺伝子配列を解析したところ、初回の検査では母親から検出された遺伝子と100%一致していたものの、2度目の検査では、2A領域に6塩基の欠損が生じていた(図3)。

HAVは潜伏期間が長く、ウイルスの糞便への排泄期間も発症の前後2~3週間と長いため、家族など接触が密である集団内では発症リスクが高い傾向がある。また一般的に、成人では肝機能障害の症状が強く、劇症化することもあるが、小児では不顕性感染や軽症例であることが多いとされている。本事例でも男児の糞便検体から長期間のウイルス排泄が確認されたにもかかわらず、急性肝炎特有の症状は認められなかった。小児におけるHAV感染の報告は少なく、年齢による症状の重症化など、病態は依然として不明な点が多い。今回男児から検出された6塩基欠損の遺伝子についてその役割は不明であるが、少ない小児の貴重な感染事例として、より詳細な解析を行っていきたい。

 

参考文献
1) IASR, https://idsc.niid.go.jp/iasr/31/368/inx368-j.html

 

川崎市健康安全研究所
     中島閲子 石川真理子 松島勇紀 駒根綾子 清水英明 三崎貴子 岩瀬耕一 岡部信彦

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