国立感染症研究所

IASR-logo

急性C型肝炎 2006年4月~2020年10月

(IASR Vol.42 p1-2: 2021年1月号)

 

 急性C型肝炎は, フラビウイルス科ヘパシウイルス属のC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus: HCV)感染による急性肝炎である。

 HCV感染後15~160日(平均7週間)の潜伏期間を経て, 全身倦怠感, 感冒様症状, 食欲不振, 悪寒, 嘔吐などの症状で急性肝炎を発症したのち, 30-40%ではウイルスが検出されなくなり, 治癒するが, 残りの60-70%はHCVキャリアになり, 多くの場合, 急性肝炎からそのまま慢性肝炎へ移行する。HCVに感染しているものの症状がない無症候性キャリアはHCV感染者の20-30%を占めると考えられている。慢性肝炎から自然寛解する確率は約0.2%と非常に低く, 10-16%の症例は初感染から平均20年の経過で肝硬変に移行すると考えられ, 肝硬変に至った症例は年間5%以上と, 高率に肝細胞がんを発症するとされている。肝がん死亡総数は, 以前は年間3万人を超えたが, 2000年頃から減少傾向になっている(国立がん研究センター「がん登録統計」1958~2018年)。2000年以降HCVキャリア率の減少が報告されている(本号3ページ)。C型肝炎の診断は, 主にHCV抗体検査とHCV RNA定量検査を組み合わせて行われる。2014年からは, 効果や副作用に問題があったインターフェロンを用いずに, 直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antivirals: DAAs)を用いた治療が行われるようになり, 95%以上の症例において, 治療終了24週間後に血中よりHCV RNAが検出されない状態, すなわちsustained virological response(SVR)が得られるようになっている(本号5ページ)。

感染症発生動向調査に基づく届出

 C型肝炎の発生動向の把握は, 1987年に感染症サーベイランス事業(厚生労働省の予算事業)の対象に加えられ, 全国約500カ所の病院定点から月単位の報告による調査として開始された。その後1999年4月の感染症法施行により, 4類感染症の「急性ウイルス性肝炎」の一部として全数把握疾患となり, さらに2003年11月の感染症法の改正に伴い, 5類感染症の「ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)」に分類され, その発生動向が監視されている。届出対象は急性肝炎のみであり, 慢性肝炎や肝硬変, 肝がんは含まれない。急性C型肝炎と診断したすべての医師に, 診断後7日以内に保健所への届出が義務付けられている(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-02.html)。本報告では, 感染症法の下で, 届出票が改定された2006年4月~2020年10月に診断・届出された急性C型肝炎についてまとめる。期間中の「ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)」の届出のうちC型肝炎は516例(2020年11月10日現在)であった。急性C型肝炎と診断された年当たり届出数は23-58例(男性14-31例, 女性5-27例)である(図1)。

 性別・年齢分布:2006年4月~2020年10月に届出された516例は, 男性329例, 女性187例で, 男女比(男/女)は1.8であった。各年の男女比は2006年には0.7であったが, 2020年には3.6と, 経年的に上昇がみられた(図1)。年齢群別では, 男性は30代にピークがみられ, 女性は20~70代に多く, 明らかなピークがみられなかった。10代以下の小児や90代の高齢者の届出は少なかった(図1)。

 都道府県別届出状況:届出された516症例は, 東京都113例, 大阪府74例の順に届出数が多く, 23県は5例以下であった()。人口100万人当たりの報告数では, 岡山県, 和歌山県, 高知県の順に多かった。

 症状:516例の症状および所見(複数回答を含む)は, 肝機能異常が435例(84%), 全身倦怠感264例(51%), 黄疸177例(34%)である。劇症肝炎は4例(0.8%)であった。2006年4月~2020年10月における届出時点での死亡は1例であった。

 感染原因:516例の感染原因/感染経路は, 確定47, 推定450, 不明19であった。推定のうち, 209例に“不明”の記載があった。不明を除く288例で報告された感染原因/感染経路は複数回答を含め489(その他241例)あり, 性的接触120例(25%), 針等の鋭利なものの刺入(刺青, ピアス, カミソリ等)81例(17%), 静脈薬物使用22例(4.5%), 輸血/血液製剤20例(4.1%), 母子感染5例(1.0%)であった。516例の感染原因/経路(複数回答を含む)を, 2006年4月~2009年12月の前半と2010年1月~2020年10月の後半に分けると, 前半ではその他が57%を占めたが, 後半では性的接触が36%と増えたものの, その他が依然として41%を占めていた(図2)。

まとめ(今後の課題)

 最近, 数年間の急性C型肝炎の届出数は年間23-58例の範囲でほぼ横ばいで推移している。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ, 自覚症状がなく感染に気がついていない感染者もかなりいる可能性があり, 感染症発生動向調査への届出数が, 実際の感染者数を反映していない可能性が考えられている。特に自覚症状がなくても, 健康診断等の機会に, 肝炎の検査を受けたことのない人は検査を受け, 陽性ならば早期に受診することが強く推奨される。また, 医師においてもHCVによる急性ウイルス性肝炎患者を診察した際には, 感染症法に基づき, 速やかに(7日以内)に感染症発生動向調査に届出することが望まれる。感染症発生動向調査に集約される情報は予防対策等を検討する上で重要である。

 主に医療機器の使い回しを徹底的に排除したことや, 輸血や汚染された医療機器等を介して伝播していたHCVの感染リスクは, 輸血用血液のスクリーニング検査として感度の高い核酸増幅検査(nucleic acid amplification test: NAT)を導入したことで, 大きく減少した。一方, HCV抗体検査やHCV RNA定量検査による検査診断法も確立され, 慢性C型肝炎に移行してもHCVに対して有効なDAAを用いた治療により, 約95%の患者をSVRの状態にすることが可能となってきた。C型肝炎は「治る病気」になりつつある。

 世界保健機関(WHO)は2030年までにウイルス性肝炎の排除を目的にしている。日本においては, 多くの人が肝炎検査を「受検」し, 感染が疑われれば医療機関を「受診」し, 必要に応じて標準的な治療を「受療」し, さらには「受療」後も肝がんの発症リスクを考慮して定期受診等を支援する「フォローアップ」の4ステップを実施できる体制の確保や(本号6ページ), またその調整役としての「肝炎コーディネーター」の育成等(本号8ページ)を, 国, 自治体, 医療機関が協力して行う事で肝炎対策を推進している。一方, 約95%の症例でSVRを得られるようになったものの, SVR後の発がんの対策や(本号9ページ), 肝炎ウイルス感染者への偏見や差別による被害防止への効果的な方法等も, 解決していかなければならない問題である(本号11ページ)。

 なお, 2020年のノーベル生理学・医学賞にアメリカの国立衛生研究所などの研究者3人が選ばれた(本号12ページ)。3人は, C型肝炎ウイルスの発見によって多くの慢性肝炎の原因を明らかにし, 輸血などの際の検査ができるようにしたほか, 有効性の高い治療薬の開発に道を開いたことが評価された。 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version