国立感染症研究所

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E型肝炎の輸入感染症例報告

(IASR Vol. 37 p. 35-36: 2016年2月号)

海外でE型肝炎に感染し、発症期に帰国した症例を報告する。患者は20代女性。黄熱ワクチン接種済み。2015年8月よりインド、アフリカ諸国を訪問し、再びインドを経て11月オーストラリアに入国。10月中旬より食欲低下、倦怠感、胃痛、嘔気、発疹を認めた。約3週間後、上記症状に加え38℃以上の発熱があり、オーストラリアの病院を受診し、肝炎血清診断を受けた。受診時、総ビリルビン量が5mg/dLあったことから顕性黄疸が出ていたと思われる。診断3日後に帰国。帰国時に発疹を除く症状の継続があり、りんくう総合医療センターに入院となった。その後、オーストラリアの受診病院よりE型肝炎IgM陽性の確認がとれたため、入院時血液よりE型肝炎の検出を行った。血清200μLよりRNAを抽出し(PSS)、Superscript III-one step RT-PCR system with Platinum Taq(Invitrogen)を用いてnested PCRを実施した。E型肝炎検査マニュアル(国立感染症研究所)に記載のプライマーを用いた。1stPCRでは陰性であったが、nested PCRにて増幅バンドを認めたため、配列を決定したところ、E型肝炎ウイルス(HEV) G1であった()。

E型肝炎は西日本での発生は少なく、ウイルス検査頻度は低い。今回の検査では、HEVの遺伝子を増幅することができ、BLAST検索でバングラデシュ検出株と最も高い相同性を示した。患者は約3カ月間インド、アフリカ諸国に滞在しており、E型肝炎の潜伏期(約6週間)から旅行期間中に感染・発症したことが想定されたが、HEV G1は発展途上国で最も蔓延している遺伝子型であり、感染国の特定はできなかった。A型肝炎およびE型肝炎は診断時に感染から期間が経過している場合が多く、便検体の方が望ましいと考えられるが、すでに採取されている血液検体を使用することで、迅速かつ採取の負担なく検査が実施できる。本症例では発疹も認められたことから、多くの感染症が疑われた疾患であったが、帰国前の検査によりE型肝炎への対応が迅速に行われた。

大阪府立公衆衛生研究所ウイルス課
  左近直美 弓指孝博
りんくう総合医療センター感染症内科
  藤岡 研 関 雅之 木下真孝
   三島伸介 入交重雄 倭 正也
国立感染症研究所ウイルス第二部
  石井孝司

 

 

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