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国立感染症研究所

平成26年7月30日版

 

2012年9月以降、中東地域に居住または渡航歴のある者を中心に中東呼吸器症候群(MERS)の患者が断続的に報告されており、医療施設や家族内等において限定的なヒト-ヒト感染が確認されていることから、接触者調査を実施し、適切な対策を実施することで感染拡大を防止することが重要である。また、高齢者や基礎疾患のある者に感染した場合、重症化する恐れもあることから、患者に対する適切な医療の提供も重要である。なお、一部の患者の感染原因としてラクダへの曝露が示唆されている。

本稿については、国内で探知された中東呼吸器症候群(MERS)の疑似症患者及び患者(確定例)(以下「症例」という。)等に対して、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第15条による積極的疫学調査を迅速に実施するよう努めることが必要であることから、暫定版として準備されたものである。なお、疫学状況の変化に伴い適宜見直しを行うこととする。

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(調査対象)
積極的疫学調査の対象となるのは、「疑似症患者」、「患者(確定例)」、及び「濃厚接触者」である。
「疑似症患者」及び「患者(確定例)」の定義については、届出基準を参照のこと。
「濃厚接触者」とは、症例が発病した日以降に接触した者のうち、次の範囲に該当するものである。
  1. 世帯内接触者 症例と同一住所に居住する者
  2. 医療関係者等 個人防護具を装着しなかった又は正しく着用しないなど、必要な感染予防策なしで、症例の診察、処置、搬送等に直接係わった医療関係者や搬送担当者
  3. 汚染物質の接触者 症例由来の体液、分泌物(痰など(汗を除く))などに、必要な感染予防策なしで接触した者等。
  4. その他の濃厚接触者 手で触れること又は対面で会話することが可能な距離(目安として2メートル)で、必要な感染予防策なしで、症例と接触があった者等。なお、症例とすれ違うといった軽度の接触のみでは対象とはならない。
濃厚接触者以外の接触者については、濃厚接触者の疫学調査結果を勘案し、必要に応じ、健康情報等を把握すること。
(調査内容)
症例について、基本情報・臨床情報・推定感染源・接触者等必要な情報を収集する。(添付1,2-1,2-2,2-3)
濃厚接触者に、最終曝露から14日間健康観察を実施する。(添付3)
濃厚接触者のうち、健康観察中に37.5℃以上の発熱、または急性呼吸器症状(上気道または下気道症状)がある者(検査対象者と呼称する)については、検査を実施し、その結果に応じて必要な調査と対応を行う。
(調査時の感染予防策)
積極的疫学調査の対応人員が症例及び検査対象者に対面調査を行う際は、手袋、サージカルマスクの着用と適切な手洗いを行うことが必要と考えられるが、現時点では、疫学的な知見に乏しい新興の呼吸器感染症への対応として、検体を採取する際にはゴーグル、ガウン、N95マスクの着用を追加することが望ましい。(PPE(感染防護服)着脱に関するトレーニングを定期的もしくは事前に積んでおくことが重要である。)
(参考)

現時点での医療施設における必要な感染予防策は、標準予防策及び飛沫予防策を適用することであるが、医療施設では患者の湿性生体物質(エアロゾル等)への曝露機会が多いこと等から、状況に応じて接触予防策と空気予防策を追加する必要があるとされている。

(濃厚接触者への対応)
濃厚接触者のうち、検査対象者に該当しない場合は、健康観察のみとする。この場合、当該濃厚接触者へのマスク着用、外出制限、検体採取等の対応は不要であり、当該濃厚接触者の家族、周囲の者(同僚等)に対しての対応も不要である。
検査対象者については、検査結果が判明するまでの間、感染伝播に十分に配慮する必要があり、本人の同意を得た上で、医療施設における個室対応などの対応も選択肢となりうる。なお、地方衛生研究所等のPCR検査で陽性とされた場合は、疑似症患者としての対応をとることとなる。
(とりまとめ)
濃厚接触者の健康情報については、複数の保健所が関与する場合、初発症例の届出受理保健所又は濃厚接触者の多くが居住する地域を所管する保健所が適宜とりまとめる。
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