国立感染症研究所

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2012年度麻疹抗体保有状況および予防接種状況
-2012年度感染症流行予測調査(中間報告)

(IASR Vol. 34 p. 25-28: 2013年2月号)

 

はじめに
感染症流行予測調査における麻疹感受性調査(抗体保有状況調査、予防接種状況調査)は1978年度に開始され、1996年度以降は抗体価測定方法が従来の赤血球凝集抑制法からゼラチン粒子凝集(particle agglutination:PA)法に変更となり、現在に至っている。

麻疹に対する定期予防接種は1978年に開始され、従来は幼児期に1回のみであったが、2006年6月より「1回目の接種で免疫が獲得できなかった者への免疫賦与」、「1回目の接種後、年数の経過により免疫が減衰した者に対する免疫増強」、「1回目の接種機会を逃した者に再度の接種機会を与えること」を目的とした2回接種(第1期:1歳児、第2期:年度内に6歳になる者)が開始された。また、2008年度からは第3期(年度内に13歳になる者)および第4期(同18歳になる者)が5年間の期限付きで定期接種に導入された。2012年度は第3期および第4期が実施される最終年度であるが、2012年度末時点で1990~2006年度生まれの者は定期接種として2回の接種機会があった年齢層となる。

調査対象
2012年度麻疹感受性調査は北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、新潟県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、山口県、香川県、高知県、福岡県、佐賀県、宮崎県、沖縄県の23都道府県で実施され、抗体価の測定は各都道府県衛生研究所において行われた。また、予防接種状況調査については上記に富山県、熊本県を加えた25都道府県で実施された。2013年1月15日現在、6,860名の抗体価および7,510名の予防接種歴が報告された。なお、本調査の実施要領における抗体価測定対象者の採血時期は7~9月としているが、この時期に採血されていた者は5,985名(87%)であった。

麻疹含有ワクチン接種状況
麻疹含有ワクチン(麻疹単抗原ワクチン、麻疹風疹混合ワクチン、麻疹おたふくかぜ風疹混合ワクチン)の接種状況について図1(上段:接種歴不明者を含まない、下段:接種歴不明者を含む)に示した。なお、本調査結果は一調査時点における接種状況であり、厚生労働省で実施している年度単位の接種率調査の結果とは異なる。

全体の接種状況の割合をみると、麻疹含有ワクチンの1回接種者は32%、2回接種者は15%、接種は受けたが回数不明であった者は3%、未接種者は7%、接種歴不明者は42%であり、接種歴不明者の割合は年齢の上昇に伴い増加した。接種歴不明者を除く接種状況について年齢別にみると、1回以上接種者(1回・2回・回数不明接種者)は0歳で4%であったが、第1期の対象年齢である1歳で79%と急増した(※調査時点では未接種の者が含まれる)。2歳以上の1回以上接種率は、麻疹が定期接種に導入された1978年生まれの者が含まれる30~34歳群まで90%以上であり、特に2~21歳は95%以上の高い接種率であった。一方、2012年度末時点で2回の接種機会があった年齢層のうち、本調査までに第2~4期の接種期間が確実に終了した年齢層(第2期:7~11歳、第3期:14~16歳、第4期:19~21歳)における2回接種率をみると、第2期終了者では7~9歳および11歳が60%以上(65~72%、10歳は57%)であり、第3期終了者では14~16歳が60%以上(61~68%)であった。しかし、第4期終了者の2回接種率は26~44%と低く、各実施年度における第4期接種率の低さが大きな要因と考えられた。

麻疹PA抗体保有状況
年齢別あるいは年齢群別の麻疹PA抗体保有状況を図2に示した。PA法により抗体陽性と判定される抗体価1:16以上について年齢別にみると、0~5カ月齢では移行抗体と考えられる抗体保有者が73%存在していたが、移行抗体が減衰する6~11カ月齢では9%の抗体保有率であった。その後、第1期対象年齢である1歳で67%となり、2歳以上ではすべての年齢および年齢群で95%以上の抗体保有率を示した。一方、発症予防の目安とされるPA抗体価1:128以上(少なくとも1:128以上であり、できれば1:256 以上が望ましい)の抗体保有率についてみると、2~3歳、6~7歳、9~10歳、13~22歳、24歳、30~54歳の各年齢群は90%以上であった。本調査までに第2~4期の接種期間が確実に終了した年齢層のうち90%未満の抗体保有率であったのは、8歳と11歳(87%)のみであった。

麻疹PA抗体保有状況の年度別比較
2012年度と第2期の接種が開始された2006年度の麻疹PA抗体保有状況の比較を図3に示した。PA抗体価1:16以上の抗体保有率についてみると、2006年度は95%を下回っていた年齢層が20歳未満で多く認められたが、2012年度は0~1歳を除くすべての年齢層で95%以上を示した。成人層においては両年度でほとんど差はみられず、97%以上の高い抗体保有率であった。また、PA抗体価1:128以上の抗体保有率について20歳未満で比較すると、2006年度は2~4歳、6歳、11歳のみが90%以上であったのに対し、2012年度は2~3歳、6~7歳、9~10歳、13~19歳と、多くの年齢層が90%以上を示し、第2~4期における2回接種の効果により高い抗体価が維持されていることが考えられた。

まとめ
2012年度調査の結果から、麻疹含有ワクチンの2回接種率向上に伴い、抗体陰性者(PA抗体価1:16未満)の減少ならびに発症予防の目安とされる抗体保有者(PA抗体価1:128 以上)の増加が認められ、2歳以上のすべての年齢あるいは年齢群で抗体保有率95%以上が達成された。

麻疹排除達成・維持に向けては、今後も2回の定期接種率95%以上を目標とし、発症予防に十分な抗体を保有していない者、定期接種の期間が終了した者で2回接種が完了していない者、特に発症した場合に本人の重症化のリスクのみならず周りへの影響が大きい医療、福祉、教育機関に勤務する者あるいは実習などで関わる学生においては、「麻しんに関する特定感染症予防指針(2012年12月14日改正)」(本号19ページ参照)に記載されているように、必要とされる2回の予防接種の実施が重要と考えられた。

 

国立感染症研究所感染症情報センター
佐藤 弘 多屋馨子
2012年度麻疹感受性調査および予防接種状況調査実施都道府県:北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、新潟県、富山県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、山口県、香川県、高知県、福岡県、佐賀県、熊本県、宮崎県、沖縄県

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