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エイズワクチン開発の近況

(IASR Vol. 34 p. 262: 2013年9月号)

 

1981年に米国でエイズ症例の最初の報告がなされて以降30年あまり経過したが、グローバルなHIV感染の拡大は続いている。2012年のUNAIDS(http://www.unaids.org/en/)の発表では、世界のHIV感染者数は約 3,400万、年間新規感染者数は約250万と推定されており、HIV感染拡大の抑制は国際的重要課題である。HIV感染拡大抑制に向けて、啓発を含めた予防活動がまず重要であるが、症状潜伏期の感染者から非感染者への感染伝播を阻止することは容易ではない。近年、感染者の早期診断・早期抗HIV薬治療開始により感染拡大抑制に結びつける試みが進められており、さらに感染者数を減少させ、HIV撲滅に結びつけるためにも、予防エイズワクチン開発が切望されている。

これまで、有効な抗体誘導を目指す研究と有効なT細胞反応誘導を目指す研究が進められてきているが、前者については、特にウイルス粒子に結合してウイルス感染能を阻害する中和抗体の誘導を目指して研究が行われている。しかし、標的となるHIVのエンベロープ(Env)蛋白質の構造の特殊性から、不活化ウイルス粒子や精製Env蛋白等を用いた従来の方法での中和抗体誘導は困難であることが示されてきている。さらに標的の多様性も大きな問題となっており、新規手法の開発に向け基礎的研究が続けられている。一方、Env蛋白ワクチンにEnv 等を発現するカナリアポックスウイルスベクターワクチンを併用したエイズワクチン臨床試験RV144がタイで行われ、中和抗体誘導は認められなかったものの、一時的ではあるが対照群と比較して30%程度の感染頻度の低下を示す結果が2009年に報告されたことから、明確な中和能を示さない抗体反応の効果に関する研究も進められている。

一方、HIV感染症において、細胞傷害性T細胞(CTL)反応がウイルス複製抑制に中心的役割を担っていることから、より有効なCTL反応を誘導することを目指すワクチン開発研究も精力的に進められている。どのように抗原を体内に導入するかという問題とどのような抗原を体内に導入するかという問題、つまり、デリバリーシステムと抗原の最適化が重要となる。前者に関しては、各種ウイルスベクターを用いたワクチン開発が進展し、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、サイトメガロウイルスベクターおよびセンダイウイルス(SeV)ベクターを用いたワクチンは、動物エイズモデルで有効性を示した有数のワクチンデリバリーシステムとして、開発研究進展が期待されている。特に国立感染症研究所・東京大学医科学研究所等が共同で開発を進めてきたSeVベクターエイズワクチンについては、その臨床応用に向け、国際エイズワクチン推進構想(IAVI)主動の国際共同臨床試験プロジェクトが進展し、2013年よりルワンダ等にて、HIV Gag 抗原を発現するSeV ベクターを用いたエイズワクチンの臨床試験第1相が開始されている(http://www.businesswire.jp/news/jp/20130401005813/ja?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter)。臨床試験の推進により複数のデリバリーツールの有用性が確認できれば、それらの併用により最適化プロトコール確立へと進展しうる。さらに抗原最適化を進めることにより、感染拡大抑制効果を有するT細胞誘導エイズワクチン実用化に結びつくことが期待されている。

 

国立感染症研究所エイズ研究センター 俣野哲朗

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