国立感染症研究所

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2011/12シーズンのインフルエンザ予防接種状況および2012/13シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況-2012年度感染症流行予測調査より

(IASR Vol. 34 p. 334-336: 2013年11月号)

 

はじめに
感染症流行予測調査事業は厚生労働省健康局結核感染症課を実施主体とする予算事業であり、健康局長通知に基づいて、全国の都道府県と国立感染症研究所が協力して毎年度実施している。そのうちのインフルエンザ感受性調査は、毎年、インフルエンザの本格的な流行が始まる前にインフルエンザに対する国民の抗体保有状況を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起およびワクチン接種の検討、ならびに今後のインフルエンザ対策における資料とすることを目的として実施している。

対象と方法
2012年度の感受性調査は、北海道、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、山口県、愛媛県、高知県、佐賀県、熊本県、宮崎県の25都道府県から各198名、合計4,950名を対象として実施された(予防接種歴調査は上記都道府県に宮城県、香川県、福岡県を加えた28都道府県で実施された)。インフルエンザに対する抗体価の測定は、対象者から採取された血清を用い、調査を実施した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。採血時期は原則として2012年7~9月(インフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)とした。また、HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、このうち(1)~(3)は2012/13シーズンにおけるインフルエンザのワクチン株として選ばれたウイルス、(4)は2012/13シーズンのワクチン株とは異なる系統のB型インフルエンザウイルスであるが、前3シーズン(2009/10~2011/12シーズン)のワクチン株として選ばれたウイルスである。

(1)A/カリフォルニア/7/2009[A(H1N1)pdm09亜型]
(2)A/ビクトリア/361/2011[A(H3N2)亜型]
(3)B/ウィスコンシン/1/2010[B型(山形系統)]
(4)B/ブリスベン/60/2008[B型(ビクトリア系統)]

結果
1)2011/12シーズンにおけるインフルエンザ予防接種状況
2012年度の調査において2011/12シーズン(前シーズン)の予防接種状況について調査が行われ、7,822名の結果が得られた。図1には1回接種者、2回接種者、既接種者(回数不明)、未接種者、接種歴不明者の割合を年齢あるいは年齢群別に示した。接種歴が不明であった者はすべての年齢層で1割程度であり、他疾病の予防接種歴調査と比較して少なかった。接種歴不明者を除いた7,161名についてみると、1回以上の接種歴を有していたのは全体で56%〔1回接種者:31%、2回接種者:13%、既接種者(回数不明):12%〕であり、年齢あるいは年齢群別でもほとんどの年齢層で半数以上に1回以上の接種歴があった。特に2~12歳の多くの年齢および70歳以上群においては、接種歴不明者を除くと約7割の者に1回以上の接種歴があった。また、1~13歳は他の年齢層と比較して2回接種者の割合が高く、接種回数が明らかな者(1回および2回接種者)のみでみると、43~91%(平均77%)が2回接種者であった。

2)2012/13シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況
2012年度は合計で6,794名(B型の両系統は6,793名)の対象者について調査が実施された。対象者の年齢群別内訳は、0~4歳群:857名(B型の両系統は856名)、5~9歳群:539名、10~14歳群:605名、15~19歳群:540名、20~24歳群:534名、25~29歳群:592名、30~34歳群:521名、35~39歳群:532名、40~44歳群:492名、45~49歳群:385名、50~54歳群:373名、55~59歳群:316名、60~64歳群:284名、65~69歳群:116名、70歳以上群:108名であった。図2には調査株別の年齢群別インフルエンザ抗体保有状況を示した。なお、本稿における抗体保有率とは、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有率とした。

A(H1N1)pdm09亜型に対する抗体保有率は全体で51%と調査株中最も高かった。年齢群別にみると0~4歳群および50代後半以上の各年齢群は概ね20~30%、20代後半~50代前半の各年齢群は概ね40~50%であったのに対し、5~24歳の各年齢群では60%以上(60~80%)の抗体保有率を示した。また、A(H3N2)亜型についてもA(H1N1)pdm09亜型と同様に5~24歳の各年齢群の抗体保有率(51~54%)は他の年齢群より高い傾向がみられたが、年齢群間の差はそれほど顕著ではなく、0~4歳群は22%、それ以外の年齢群では概ね30~40%の抗体保有率であった。一方、B型についてみると、山形系統では20~24歳群(65%)の抗体保有率が最も高く、次いで25~29歳群(51%)、15~19歳群(48%)の順で高かった。それ以外の年齢群は40%未満の抗体保有率であり、特に10歳未満および50代後半以上の各年齢群では20%未満と低く、全体の抗体保有率は調査株中最も低い31%であった。また、ビクトリア系統では多くの年齢群で40%以上の抗体保有率であり、全体の抗体保有率はA型と同程度であったが、抗体保有率の年齢分布が異なり、35~39歳群(69%)が最も高く、次いで40~44歳群(60%)、30~34歳群(59%)の順であった。

3)インフルエンザ抗体保有状況の年度別比較
インフルエンザ抗体保有状況の過去4年度分の比較について図3に示した。A(H1N1)pdm09亜型は2009年度から4年続けて同じ調査株が用いられ、2009年度はほとんどの年齢群で20%未満(多くは10%未満)の抗体保有率であったが、2010年度はすべての年齢群で上昇し、特に5~24歳の各年齢群では40ポイント以上(40~62ポイント)の上昇がみられた。さらに2011年度もすべての年齢群で4~21ポイントの上昇がみられ、2012年度は多くの年齢群で2011年度と同等あるいは高い抗体保有率を示した。全体の抗体保有率も2009年度8%、2010年度40%、2011年度49%、2012年度51%と上昇した。A(H3N2)亜型については4年度で異なる3つの調査株が用いられていることから一概に比較することはできないが、2010年度と同じ調査株であった2011年度の抗体保有率は、すべての年齢群で前年度よりも3~18ポイントの上昇がみられた。一方、調査株が変更となった2012年度は2011年度と比較してすべての年齢群で抗体保有率の低下がみられた(-4~-17ポイント)。B型の山形系統は2009年度と2010年度、2011年度と2012年度でそれぞれ同じ調査株が用いられたが、前者における抗体保有率はA型でみられた傾向と異なり、すべての年齢群で前年度より低下していた(-11~-36ポイント)。また、後者についてはA型と同様の傾向を示し、2012年度の抗体保有率は多くの年齢群で2011年度より高かった(3~28ポイント)。ビクトリア系統については、2009~2012年度のすべてで同じ調査株であり、全体の抗体保有率でみると2009年度31%、2010年度33%、2011年度45%、2012年度47%と上昇傾向がみられ、特に2011年度は前年度と比較して多くの年齢群で10ポイント以上の上昇を示した。また、2011年度はあまり明らかではないが、それ以外の年度では35~39歳群に抗体保有率のピークが認められた。

考 察
インフルエンザの抗体保有率 に影響を及ぼす要因として、まずワクチン接種があげられるが、ワクチンによる抗体持続は半年程度とされていることから、調査結果(主に7~9月に採血した血清を使用)では前シーズンに受けたワクチン(主に前年10~12月に接種)の効果がみられない可能性がある。また、調査以前における調査株と抗原性が類似するインフルエンザウイルスの流行状況も要因の1つとしてあげられ、特に学校等の集団生活においてインフルエンザウイルスに曝露される頻度が高いと考えられる年齢層では、その影響は大きいことが推察される。

2012年度の調査においてA(H1N1)pdm09亜型に対する抗体保有率は、5~24歳の各年齢群で他の年齢群と比較して高く、年度別の推移ではほとんどの年齢群で2010年度以降上昇する傾向がみられた。2010年度および2011年度の抗体保有率の上昇は、それぞれ2009/10シーズンおよび2010/11シーズンにおける同亜型の流行による影響と考えられた。

しかし、2012年度の結果は、2011/12シーズンに同亜型による流行がほとんどみられなかったことを踏まえると、同じワクチン株が4シーズン(2009/10~2012/13シーズン)連続して用いられたことによる免疫増強効果により、抗体保有が持続していた可能性も考えられた。また、A(H3N2)亜型に対する抗体保有率が2010年度と比較して2011年度で高くなったのは、上記と同様に2010/11シーズンにおける同亜型の流行の影響と考えられ、2012年度はワクチン株の変更にともない、以前のワクチン株や流行株と抗原性が異なる調査株であったことから、抗体保有率が低下したと考えられた。一方、B型の山形系統で2012年度にみられた前年度からの上昇は、A型と同様に2011/12シーズンにおける同系統の流行が影響していると考えられた。また、ビクトリア系統については、2010/11~2011/12シーズンにおける流行ならびに2009/10~2011/12シーズンに同じワクチン株が連続して用いられた影響により、抗体保有率が年々上昇する傾向がみられたと考えられた。しかし、ビクトリア系統における抗体保有率の年齢分布は他と異なっており、これについては、それぞれの型・亜型(系統)による年齢別患者発生状況等と合わせた検討が必要である。

おわりに
今シーズン(2013/14シーズン)のワクチン株は、A(H1N1)pdm09亜型:A/カリフォルニア/7/2009(X-179A)以外は前シーズンから変更となり、A(H3N2)亜型はA/テキサス/50/2012(X-223)、B型は山形系統のB/マサチュセッツ/2/2012(BX-51B)が選定された。2013年度の本調査においては、この3株を含む4つの調査株に対する抗体価測定が実施されており、結果は速報としてWeb上(http://www.niid.go.jp/niid/ja/y-sokuhou/668-yosoku-rapid.html)に掲載予定である。調査の結果、抗体保有率が低い年齢層においてはワクチン接種等の早めの予防対策が望まれる。

最後に、本調査にご協力頂いた都道府県ならびに都道府県衛生研究所をはじめ、保健所、医療機関等、関係機関の皆様に深謝申し上げます。

 

国立感染症研究所感染症疫学センター    
  佐藤 弘 多屋馨子 大石和徳   
同 インフルエンザウイルス研究センター    
  岸田典子 徐紅 伊東玲子 土井輝子 佐藤彩 菅原裕美 小田切孝人 田代眞人
2012年度インフルエンザ感受性調査・予防接種歴調査実施都道府県    
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