国立感染症研究所

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焼肉店で発生した腸管出血性大腸菌O157食中毒事例について―川崎市

(IASR Vol. 35 p. 120-121: 2014年5月号)

 

2013年9月に焼肉店で腸管出血性大腸菌O157(VT2)による食中毒が発生したのでその概要を報告する。

2013年10月3日、川崎市内の医療機関から管轄の保健所に腸管出血性大腸菌 O157(以下、O157)感染症の届出が2件あった。さらに、市内の他の医療機関から10月7日と8日にO157感染症の届出が各1件あった。管轄の保健所による調査の結果、いずれも同一の焼肉店に関連した発症例であることが判明した。さらに2013年9月24~30日の当該店予約者のうち、4グループに発症者がいることも判明した。

保健所により、喫食者、発症者の家族および当該店従事者の便検体、食品69件、ふきとり92件の検体が採取され、川崎市健康安全研究所において検査を行った。その結果、喫食者3名、従事者3名、食品のうち、ホルモン(内臓肉)1検体、カルビ肉6検体よりO157(VT2)が分離された。その後の調査により患者数はさらに増加し、最終的には有症例29名、無症状病原体保有者4名が確認された。有症例のうち、消化器症状があり検便検査でO157が検出された確定例は20名で、検査確定はできなかったものの消化器症状を認めた疑い例は9名であった。

患者の主な症状は血便、下痢、腹痛で、12名が入院を要した。2名が溶血性尿毒症症候群(HUS)を合併したが、入院加療ののち回復した。

分離した菌株については、スクリーニングとしてIS-printing法による分子疫学解析を実施し、最終的にはパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE法)にて確認した。患者は、川崎市内だけでなく東京都、神奈川県、横浜市在住者でも発生しており、各衛生研究所にIS-printing法による遺伝子解析を依頼した。IS-printing法(図1)、PFGE法(図2)による分子疫学解析の結果、患者から分離された菌株およびホルモン以外のカルビ肉から分離された菌株の遺伝子パターンはすべて一致していた。

喫食調査をもとに喫食内容と発症の状況を解析した結果、O157が分離されたカルビ肉を含め、肉類の喫食には有意差を認めなかった()。一方、サラダ鉢の喫食でオッズ比が高く有意差を認めたため、肉以外の食品への交差汚染が原因となった可能性も示唆された。またO157が分離されたカルビ肉6検体は、入荷日、仕入先が異なっていたにもかかわらず、分離された菌株の遺伝子パターンは同一であった。これらの肉は店内で裁断されていたことから、当該焼肉店でのカルビ肉の衛生管理に問題があったことも、原因の1つと考えられた。

これらの状況から、当該焼肉店を原因とするO157による食中毒と断定し、管轄の保健所は10月8日より当該店を営業禁止とした。

保健所は店内における衛生管理の検証を行い、店舗清掃の徹底や調理器具保管方法、調理場設備の改善、従業員の衛生管理や健康管理の徹底などの指導を行い、21日より営業を再開させた。

本事例は、一店舗の焼肉店でありながら20名以上もの患者が発生し、2名がHUSを合併した大規模O157食中毒であった。疫学調査結果および分子疫学解析により、店内で裁断されたカルビ肉および他の食品の交差汚染が原因と考えられ、店舗の衛生管理に問題がある事例であった。営業者への指導を徹底し、再発防止に努めることが重要であると考えられた。

 

川崎市健康安全研究所 小嶋由香 湯澤栄子 窪村亜希子 佐藤弘康 岩瀬耕一 大嶋孝弘 丸山 絢 三﨑貴子  岡部信彦
川崎市川崎保健所 池田智宏 川辺千織 雨宮文明   
川崎市健康福祉局健康安全部健康危機管理担当 香川貴則 佐竹一弘 小泉祐子 平岡真理子 瀬戸成子   
東京都健康安全研究センター 齊木 大 小西典子   
神奈川県衛生研究所 古川一郎 佐多 辰   
横浜市衛生研究所 松本裕子

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