国立感染症研究所

小児科領域におけるRSウイルス感染症

IASR-logo

小児科領域におけるRSウイルス感染症

(IASR Vol. 35 p. 141-142: 2014年6月号)

小児科におけるRSV感染症の位置づけ
RSウイルス(RSV)は乳幼児でのウイルス性下気道感染症の中で最も頻度の高い原因ウイルスである。米国のコホート調査では流行期における細気管支炎あるいは肺炎の半数以上がRSVによるものであった。RSVによる乳幼児重症下気道感染症による死亡率は先進国では高いわけではないが、入院費用等を勘案すると医療経済的にも大きな問題である。ほとんどすべての児が2歳までに罹患するとされており、多くの場合、初感染時には上気道炎で終息するが、1歳未満での初感染では時に喘鳴、湿性咳嗽、呼吸困難などを伴う細気管支炎や肺炎を惹起する1)。重症化のリスク因子として早産児、循環器・呼吸器疾患、免疫不全などが知られているが、入院を必要とした細気管支炎の3/4はこのようなリスクのない児であることも報告されている2)。また、重症細気管支炎で入院した児の半数が反復性喘鳴を来たすことが複数の観察研究で報告されている。小児期のRSV感染症の診療にあたる医師の立場からは、①重症RSV下気道感染症の予防、②重症RSV下気道感染症に関連する因子の同定、③RSV細気管支炎後の反復性喘鳴・喘息発症の機序解明とその予防、などが重要な課題である。

RSV感染症の予防
RSV感染症は感染者の咳やくしゃみなどを介する飛沫感染ならびに感染者との直接的・間接的接触感染を介して伝染する。空気感染(飛沫核感染)はないと考えられている。感染児あるいは感染の疑いのある児に接する時には、上着、エプロン、マスクなどを着用する。石鹸を使っての流水での手洗いや、アルコールでの手指の消毒も効果がある。食器類、おもちゃ、ベッドの手すり、ドアノブなどの接触源を塩素系消毒剤やアルコールなどでこまめに消毒する。これらの基本的な手技により感染の機会をかなり減らせることがわかっている。

1950年代からRSVに対して能動免疫を誘導するワクチンの作製が試みられてきたが、現在まで有効なワクチンは作られていない。現時点でのRSV感染予防はRSVのF蛋白に対するモノクローナル抗体であるパリビズマブによる受動免疫の付与である。2014年5月現在でのパリビズマブ投与の適用は、在胎期間28週以下の早産で12か月齢以下の新生児および乳児、在胎期間29~35週の早産で6か月齢以下の新生児および乳児、過去6カ月以内に気管支肺異形成症(BPD)の治療を受けたことのある新生児・乳児・幼児、24か月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患の新生児・乳児・幼児、24か月齢以下の免疫不全やダウン症候群の新生児・乳児・幼児である。これらの児に対して流行開始から流行終了までの期間(通常9月~翌年3月まで)の月1回の筋肉内注射が保険で認められている。海外の研究ではパリビズマブ投与群はプラセボ群(パリビズマブ非投与群)に比して早産児でのRSV感染による入院頻度をおよそ80%減少させ、明らかな効果を示している3)

RSV感染症の重症度に関連する遺伝因子
先に述べたように、早産児、循環器・呼吸器疾患、免疫不全などのリスク因子を持たない児も細気管支炎を発症する。RSVに対する免疫応答、特に感染初期に稼働する自然免疫に関与する分子の遺伝的な個体差はRSV感染症の重症化に関与する可能性があると考えられる。Toll-like receptor (TLR) 4はRSVのF蛋白を認識し、感染早期の炎症やTh1型の獲得免疫応答を誘導する。TLR4の遺伝子多型はRSVの重症化に関連することが海外の研究で明らかにされているが、この遺伝子多型は日本人には見出されない。我々はTLR4のコレセプターであるCD14の遺伝子多型を検討した。すると、日本人小児において血清可溶性CD14(sCD14)量と有意に関係するCD14 (-550)C/TのCC型は、RSV細気管支炎の発症と有意に関係していた4)In vitroにおける検討ではsCD14はTLR4を介したTNF-αの産生を増強することから、CD14 (-550) CC型をもつ個体は他の遺伝子多型をもつ個体に比べRSV感染により炎症反応が強く誘導され、RSV細気管支炎を発症しやすいことが推察された。また、炎症反応に深く関連する活性酸素の処理に重要な酵素のひとつであるグルタチオンSトランスフェラーゼGSTP1のIle105Valの多型を解析したところ、V/V型でRSV細気管支炎発症率が高いことがわかった。V/V型のGSTP1はその活性が低いことが知られていることからGSTP1105にValをホモで有する個体は炎症反応が強く、細気管支炎になりやすいことが示唆された。TNF-α阻害薬や抗酸化薬の投与によりRSV感染マウスの気道炎症は高度に抑制されることから、TNF-αと活性酸素はRSV感染による気道炎症にきわめて重要な役割を担っていると考えられる。また、RSVによる気道炎症の強さは組織に浸潤してくる白血球の数によっても規定されることが知られており、白血球の遊走に関与するケモカインの遺伝子多型は重症度に関連する可能性がある。我々の研究でもIL-17やRANTES(CCL5)の遺伝子多型はRSV細気管支炎感受性に関連していた5)。以上から炎症を規定する分子の遺伝子多型がRSV感染の重症度に関連し、ハイリスク児の同定に有用な可能性が示唆される。 

RSV感染症と反復性喘鳴
RSV感染症が乳幼児期の喘鳴および小児気管支喘息の発症に与える影響については、現在まで複数のコホート研究で検討されている。米国のMartinezらは、出生コホート研究で、3歳までのRSVによる下気道感染症への罹患歴は他のウイルスによる下気道感染症と異なり、5~6歳までの1年間の3回以上の喘鳴と強い相関があることを見出している6)。北欧のSigursらは、1歳未満の乳児で入院を要したRSV細気管支炎患者とアトピー素因、喘息の家族歴、環境因子などに差がない対象群について、13歳までの気道アレルギーや、吸入アレルゲンに対するIgE抗体の存在を比較解析し、RSV細気管支炎患者では7歳半および13歳の時点での喘息、アレルギー性鼻結膜炎の頻度が対照群に比して有意に高値であり、吸入アレルゲンに対するIgE抗体の陽性率がRSV細気管支炎群で有意に高いことを報告している7)。パリビズマブによる介入は、未熟児、慢性肺疾患児、先天性心疾患児のRSV下気道感染による入院率を減少させるだけでなく、2年間の追跡において反復性喘鳴の発現率を有意に減少させることが、海外、日本において報告されている8,9)。しかしながらパリビズマブをRSV感染後の喘息発症予防に一律に用いることは医療経済上も現実的ではない。  

RSV細気管支炎後の反復性喘鳴・喘息の予測として、ECP(eosinophilc cationic protein)やRANTESなどが報告されている。これらのマーカーは好酸球性炎症のマーカーでもあり、好酸球炎症を抑制する薬物によるRSV細気管支炎後の喘息発症予防が試みられている。Lehtinenらは、入院治療を要するライノウイルス(RV)あるいはRSV陽性の喘鳴を伴う下気道感染乳幼児に対して短期間のプレドニゾロンの内服をさせ、その後の1年間にわたる反復性喘鳴の有無に対する効果について検討を行った。その結果、RVによる初回喘鳴を呈した児でのプレドニゾロンの投与は、その後の反復性喘鳴を有意に抑制したのに対し、RSV細気管支炎に対するステロイドの投与は、反復性喘鳴に対する予防効果はなく、早期介入とはならないことが示唆された10)。一方、韓国と日本の共同研究では、200名の2歳未満のRSV細気管支炎児への3カ月間のロイコトリエン受容体拮抗薬モンテルカストの投与により、1年後の血清EDN (eosinophil-derived neurotoxin)は対照群より有意に低値であり、発症1年以内の反復性喘鳴の頻度も有意に低かった11)。追加研究が必要だが、ロイコトリエン受容体拮抗薬によるRSV細気管支炎後の喘息発症予防が期待される。

 

参考文献

  1. Glezen WP, et al., Am J Dis Child 140: 543-546, 1986
  2. Wang EE, et al., J Pediatr 126: 212-219, 1995
  3. The IMpact-RSV Study Group, Pediatrics 102:531-537, 1998
  4. Inoue Y, et al., J Infect Dis 195: 1618-1624, 2007
  5. Hattori S, et al., Jap J Infect Dis 64: 242-245, 2011
  6. Martinez FD, et al., N Engl J Med 332: 133-138, 1995
  7. Sigurs N, et al., Am J Respir Crit Care Med 171: 137-141, 2005
  8. Simoes EA, et al., J Pediatr 151: 34-42, 2007
  9. Yoshihara S, et al., Pediatrics 132: 811-818, 2013
  10. Lehtinen P, et al., J Allergy Clin Immunol 119: 570-575, 2007
  11. Kim CK, et al., J Pediatr 156: 749-754, 2010
千葉大学大学院医学研究院小児病態学 下条直樹
 

 

最終更新日 2016年7月01日(金曜)17:20

参照数: 24417

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version