国立感染症研究所

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RSウイルス感染における臨床所見の個体差

(IASR Vol. 35 p. 142-143: 2014年6月号)

RSウイルス(RSV)は、特に乳幼児において重症下気道感染を引き起こす呼吸器ウイルスとして重要である。また、成人においてもRSV再感染による気道過敏性亢進、重症下気道感染例も報告されている。しかし,RSVの初感染あるいは再感染時の臨床所見には同じ年齢においても個体差がみられることがある1)。本稿では、自験例として典型的なRSV細気管支炎で入院となった児の周辺で生じた集団感染例の一部にみられた臨床所見の個体差について紹介したい。

RSV細気管支炎症例(1歳7か月男児)の臨床経過
某年10月30日、RSV感染症と診断された1歳でアレルギー素因(喘鳴の既往)は特に知られていない幼児(感冒症状のみ)と接触。接触から3日目の11月2日より鼻汁、咳嗽あり。翌日39℃台の発熱。他院受診し、内服薬の処方を受けたが、症状改善せず、夜間呼吸苦があり睡眠困難。11月5日発熱が継続し、咳嗽の悪化、喘鳴あり当科受診、RSV細気管支炎の診断で入院となった。

既往歴
37週1日2,635gで出生。先天性股関節脱臼、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎。喘鳴の既往なし。集団保育なし

家族歴
両親花粉症、父方祖母に金属アレルギー、母方祖母にアレルギー性皮膚炎・膠原病疑い、母は気管支喘息(有症時加療のみ)

入院時バイタル所見
体温 37.7℃、SpO2 98%(室内酸素)、RR 32/min、HR 156/min

入院時検査
WBC 18,100/mm3、Neu 52.8%、Hb 12.5g/dl、Plt 3.4×105/mm3、AST 32 IU/ml、ALT 12 IU/ml、LDH 313 IU/l、UA 4.6 mg/dl、BUN 7.8 mg/dl、Cre 0.26  mg/dl、Na 138.6 mEq/l、K 3.9 mEq/l、Cl 104 mEq/l、血糖104 mg/dl、CRP 0.30 mg/dl

血液ガス(静脈・室内酸素下)pH7.38、pCO2 41 mmHg、HCO3- 23.4 mmol/l、BE -1.6 mmol/l

鼻汁迅速検査(免疫クロマト法)にてRSV陽性

胸部X線写真:肺野過膨張と軽度気管支影増強あり

入院後経過
入院後、酸素投与は必要としなかったが、喘鳴強くβ2刺激薬吸入への反応が良好であったため、気管支喘息の治療に準じてβ2刺激薬の定時吸入を行った。同時に、ロイコトリエン受容体拮抗薬、去痰薬内服で治療開始。乳幼児であり、細菌性下気道感染の合併も考慮し、SBT/ABPC点滴静注も併用した。入院3日目から吸入回数を減量可能、5日目には抗菌薬をSBT/ABPCからCDTR-PI内服に変更し、計7日間使用。6日目には上記症状が軽快したため退院とし、β2刺激薬は内服に変更して継続した。実際のところ、本症例はRSV感染による1歳の細気管支炎の診断で入院となった児であるが、喘鳴が強く、気管支喘息に準ずる治療が効果的であり、今後の反復喘鳴も危惧された。

初発例および接触者の状況
一方、入院例が発症前に接触した1歳のRSV感染児については、上気道症状のみに留まっていた。

また、入院症例の母親は、10月30日に上述した臨床症状が軽度の1歳児に同時に接触しており、11月2日に同時に鼻汁、咳出現し、その後発熱も数日続き、急性肺炎を発症したため、鼻汁迅速検査を行ったところ、RSV陽性であった。また、母親は、基礎疾患の喘息が悪化し、咳、痰が約3週間続いた。一方、父親には呼吸器症状はみられなかった(アレルギー素因はなし)。

考 察
これらの症例が示すように、小児においてはRSVに感染しても、個体により発症する症状は異なる。むしろ本症例においてのように、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎といったアレルギー素因がある児の場合は、気道過敏性亢進を有する可能性があり、今回のRSV感染が初回喘息発作の誘因となった可能性があると考えられる。特に乳幼児期には、気管支喘息発作とウイルス感染時の喘鳴の鑑別は難しく、近年欧米におけるconsensus reportにおいても、小児喘息のフェノタイプの一つとして、“Virus-induced asthma”という概念も提唱されている2)。本邦においても、乳幼児期の喘鳴性疾患では、86%の児でRSV以外のウイルスも含め、ウイルスが検出されていた3)。本症例は、アレルギー素因に加えβ2刺激薬吸入に反応があったこと、喘息の家族歴もあることよりRSV感染により気管支喘息初回発作である可能性も十分考えられ、その時の児の症状に適した治療を行うだけでなく、その後の反復喘鳴の有無に関して十分にフォローする必要がある。

また、近年各種ウイルスの迅速検査が可能となり、本症例もRSV陽性ではあったが、急性細気管支炎の診断は臨床診断であり、確定診断は不可能であるため、乳幼児においては気道異物や気道の先天異常も含めて、他の喘鳴性疾患の否定が必要である。さらに、RSVは何度も感染と発症を繰り返すために、家族内感染(家族内発端者からの二次感染)に対する注意は必要であり、幼児期にはほぼすべての児が一度は感染するといわれることを考えると、本事例において母親は再感染である可能性が高いと考えられる。アレルギー素因を持つ母親の重症化は、小児と同様に呼吸器慢性疾患(喘息など)を有する成人においてもRSVの再感染時には臨床所見の個体差が大きくなる場合があることを示していると考えられた。

 
参考文献
  1. Okayama Y, Front Microbiol 4: 252, 2013
  2. Bacharier LB, et al., Allergy 63(1): 5-34, 2008
  3. Fujitsuka A, et al., BMC Infect Dis 11: 168, 2011
国立病院機構福山医療センター小児科 菅井和子
 

 

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