IASR-logo

Webデータベースを用いたRSウイルスの流行情報の集積と公開

(IASR Vol. 35 p. 143-145: 2014年6月号)

背 景
RSウイルス(RSV)は、乳幼児に重篤な呼吸困難を起こす疾患として知られている。昨今、RSVの迅速診断キットが診療現場に広く浸透し診断が容易となり、特に小児科診療において臨床症状を把握し、経過を説明する上で大きく役立っている。そうした迅速診断の結果を、各医療機関からインターネットを利用し能動的に集積し、リアルタイムに集計することで流行状況の推移をWebサイトに表示し、診療現場に周知する試みが行われている。

方 法
この調査に参加する有志医師は、小児科医が多く参加するメーリングリスト(ML)にて募った。国内には、その大規模なMLとして「小児科医フリートークメーリングリスト」と「日本小児科医メーリングリストカンファレンス」があり、主にこの二つのMLにて自主的に報告する医師を募った。情報の主な項目としては、都道府県・市町村、診断日、性別、年月齢、診断キット、既往歴(低出生体重、パリビズマブ接種歴)、既往症(喘鳴、湿疹の有無、鶏卵白に対する特異IgE)である。このWebデータベースサイトはhttp://rsv.children.jpに存在し、名称を「RSV・オンラインサーベイ(RSV-OS)」とした。

集計結果は、各都道府県の報告数をまとめ定時に日・週集計メールが自動的に配信される。医家向けにはメール本文に症例を登録するWebページとそのログインアカウントが記載されている。

また、報告医師には個別にログインアカウントを設け、当該医師の症例のWeb集計や一覧表をダウンロードできる機能も付加した。検出内容を分析し、診療にすぐに役立つ情報を表示し、報告のモチベーションを維持する工夫をした。

結 果
本調査は2008年10月より開始し、2014年4月29日までに232名の医師から情報提供があり(都道府県別にみると最多は東京都の25名)、総報告数は8,877件であった。人口10万人当たりに換算すると、全国平均で0.18名となる。RSV-OSの報告の推移を、ゴールドスタンダードとして感染症週報(IDWR)に掲載された感染症サーベイランス(NESID)による情報と比較した()。2012年12月31日~2014年1月26日の間の、IDWRの報告数とRSV-OSの相関係数(R)は0.9063と算出された。

最近の情報、すなわち、インフルエンザのシーズン区分にならって2013年第36週~2014年第16週までに限定した分析を行うと、確定患者の報告は1,385件あり、2013年第50週でピークを迎えた()。代表性が均一ではないが、人口当たりでは三重県からの報告が最多であった。この期間の全登録者の年齢分布については年齢中央値が生後1歳4か月(0歳0か月~8歳9か月)であり、生後6か月未満が170例(12.3%)、6~12か月未満が223例(16.1%)であった。44例の入院例があり(3.2%)、入院例の年齢中央値は生後5か月(0歳0か月~3歳10か月)であった。転帰に関する情報は必ずしも十分ではないが、死亡に関する情報は無かった。パリビズマブが投与された例は14例(1.0%)であった。これら入院例における基礎疾患としては、低出生体重児が1例(7.1%)、喘鳴・咳嗽の既往が11例(78.6%)、加療を必要とする湿疹の既往が6例(42.9%)であった。

考 察
MLで報告医を募り自主的に検出状況を報告する調査手法は「MLインフルエンザ流行前線情報データベース(ML-flu)」でも行われてきた(http://ml-flu.children.jp/)。インフルエンザ迅速検査キットによる診断を基にした、ML-flu とNESIDにおけるインフルエンザとの相関係数は、2000/01~2004/05シーズンの分析では0.9384~0.9935と非常に高く、RSV-OSについても、2012/13~2013/14シーズンの分析では0.9063と、ML-flu と比較するとやや低いものの高い相関を示した。

NESID上のRSV感染症の届出基準では診断は臨床症状のみでは不可であり、検査が必須となっていることから、臨床現場で病原体診断を行う場合に繁用されるRSV迅速診断による抗原検査の保険適用範囲の変動が大きな影響を与えていることは想像に難くない。以前の抗原検査の保険適用は「入院中の患者」のみであったが、2011年10月以後、「入院中の患者」に加えて、「乳児」、「パリビズマブ製剤の適用となる患者」が新たに追加された。すなわち、NESIDにおけるRSV感染症は、当初、入院が必要な重症者を中心とした検出数の推移を反映していたことに対し、保険適用範囲拡大により、検査対象が重症者から軽症者へ、報告実施機関も病院から外来診療所へと移っていった可能性があり、NESID情報の分析が必要である。RSV-OSでは当初から主に外来診療所からの報告が中心であった。RSV抗原検査の適用拡大前として2008年10月1日~2011年9月30日、拡大後として2011年10月1日~2014年4月29日までの本調査における各患者の年齢中央値について比較すると、前者が1歳5か月、後者が1歳2か月となり、年齢中央値の変化がほぼ観察されない。NESIDでは、2012年以降に多くのRSV患者が報告されるようになり、真の流行か、あるいはサーベイランスの方法変更によるバイアスの影響か、臨床および公衆衛生上の重要なポイントであったが、この期間のRSV-OSとの高い相関性を考慮すると、NESID上における急激な患者増加傾向は、主に外来受診者が中心ではなかったかと推察され、重症患者数増加では必ずしもなかったかもしれない。2013/14シーズンの入院例に関する分析では、生後6か月未満、喘息・咳嗽の既往、アレルギー素因に関連していると考えられる湿疹の既往者は高い発症率を示しており、臨床上の重要な注意すべき所見であると考えられた。

発生動向のみならず、他院を含めた年齢や臨床症状などの分析が能動的に実施される本調査は、RSV感染症の早期診断や、流行に臨床家が気づく機会を作り、診療現場において有益であると考えている。

本研究は、厚生労働省科学研究費補助金〔新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「災害後の感染症情報の把握に有効なサーベイランスのあり方に関する研究(平成24年度)」(代表:松井珠乃)〕の助成を一部受けて行われた。

謝辞:ご助言をいただいた八幡裕一郎先生(国立感染症研究所感染症疫学センター)に心より感謝申し上げます。

西藤小児科こどもの呼吸器・アレルギークリニック  西藤成雄
国立感染症研究所感染症疫学センター  砂川富正
たからぎ医院 宝樹真理
日本大学医学部社会医学系医療管理学分野  根東義明

 

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan