国立感染症研究所

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大阪府におけるHIV/AIDSの現状と対策について

(IASR Vol. 35 p. 205-206: 2014年9月号)

1. HIV感染者・AIDS患者報告数
大阪府では、1988年に初めてHIV感染者、AIDS患者各1名ずつが見つかって以来、2013年末までに累積数でHIV感染者1,966名、AIDS患者635名が報告されている。

大阪府におけるHIV感染者・AIDS患者報告数の年次推移を図1に示す。HIV感染者数は2010年をピークに、その翌年、翌々年と減少傾向がみられ、特に2012年はピーク時の6割程度にまで減少した。しかしながら、2013年には再び2011年レベルに上昇しており、2012年の著しい減少を除けば2008年以降ほぼ横ばい状態ともいえる状況である。近年増加が続いていたAIDS患者数は、2010年以降わずかながら減少傾向に転じている。

2013年のHIV感染者/AIDS患者数は計226名で、その70%が日本人男性の同性間性的接触による感染であった。年齢別にみると、HIV感染者の90%が20代~40代で占められているのに対して、AIDS患者の年齢層は幅が広く、その約30%が50歳以上であった。検査の遅れによるAIDS発症者を減らすためには、中高齢者層への検査啓発の充実が求められている。

2. HIV検査体制
大阪府における公的なHIV等検査・相談は、政令市・中核市を含む府内15カ所の保健所(府保健所のうち4カ所は2012年よりHIV即日検査のみ実施)と14カ所の保健(福祉)センター、および特設検査所「chotCASTなんば(大阪検査相談・啓発支援センター)」が主にその役割を担っている。なかでも2008年に開設された「chotCASTなんば」は、火曜・木曜の夜間検査と、土曜・日曜の即日検査を実施する「検査・相談施設」と、啓発・支援等を行う「コミュニティセンター」が隣接し、その利便性と啓発効果の高さから検査件数・陽性数ともに府内の公的検査所のなかでは群を抜いており、大阪府におけるHIV対策の中核となっている(図2)。

大阪府立公衆衛生研究所では、府内の公的検査所(大阪市を除く)や一般医療機関等におけるHIVスクリーニング検査で陽性となった検体について確認検査を行っており、加えて20年以上にわたり府内数カ所の性感染症関連診療所と連携して診療所受診者におけるHIV感染疫学調査を実施してきた。その中で、診療所を訪れるMSM(男性と性交渉する男性)に多くHIV感染が見つかることがわかり、次に述べる「診療所を窓口とする検査キャンペーン」へとつながった。

3. MSM向け検査事業
本誌2010年8月号において、我々は「エイズ予防のための戦略研究・阪神圏の男性同性愛者を対象としたHIV抗体検査の普及強化プログラムの実施(http://www.jfap.or.jp/strategic_study/htmls/page09_2.html)」の一環としてMSMのHIV検査受検環境を改善する目的で行った、診療所を窓口とするMSM向けSTI検査キャンペーンについて報告した1)。戦略研究終了後、大阪府では、本検査キャンペーンにおけるHIV陽性率が保健所の無料匿名検査より6~10倍も高く、費用対効果の大きいMSM向け検査であることを評価し、2012年度より府の地域医療再生基金事業(2014年度で終了)として同キャンペーンがMASH大阪(注1)との協働で継続されることとなった。

本検査キャンペーンの特徴として、これまで受検者の自己負担額1,000円で行ってきたが、無料匿名が条件となる国庫補助を念頭に、本年度は自己負担額500円で実施している。内容については戦略研究時から逐次改良を重ねており、現在は3カ月程度の検査期間で年2回の実施とし、即日検査実施協力診療所を増やすことで受検者数のさらなる増加を図っている2)。また、費用についても内容を精査し極力スリム化することで、今後は自治体の経常事業としても導入可能な実施形態となるのではないかと思われる。

本検査キャンペーンが大阪府域自治体の経常事業として安定的に実施できるようになれば、MSMにおけるHIV感染者の早期発見・治療開始と、HIV感染拡大阻止の一助となることが期待される。

注1) MASH大阪:近畿地域でMSMのHIV感染対策に取り組む非営利活動団体
 
参考文献
  1. IASR 31: 228-229, 2010
  2. エイズ学会誌, 15(4): 386, 2013
大阪府立公衆衛生研究所感染症部ウイルス課
  森 治代 川畑拓也 小島洋子
大阪府健康医療部医療対策課
  永井仁美 田邉雅章 原田一浩 松本治子 溝端孝史 田中佐代子
 

 

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