国立感染症研究所

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代々木公園を中心とした都内のデング熱国内感染事例発生について

(IASR Vol. 36 p. 37-38: 2015年3月号)

2014(平成26)年8月に、海外渡航歴がなく都内の公園等で蚊に刺された方からデング熱患者が発生し、最終的に都内で108人の患者が報告されるに至った。この概要について、平成26年12月24日に発表した「東京都蚊媒介感染症対策会議報告書」の内容を中心に1)、報告する。

初発患者の発生
2014(平成26)年8月25日、海外渡航歴のない埼玉県在住の10代女性について、さいたま市内の医療機関からさいたま市に対し、デング熱が疑われる患者発生の情報提供があり、26日、患者の検体を国立感染症研究所で検査したところ、デングウイルス遺伝子陽性の結果であった(本号3ページ)。

都は、当該患者が都立代々木公園(以下、代々木公園とする)で学校の課外活動中に蚊に刺されたと話しているとの情報を受け、26日夜から翌朝にかけて同公園内10カ所に蚊の捕集トラップを設置し、デングウイルスの保有状況を調査した。また、都内の保健所と連携し、同じ学校に通う学生について、発症者がいないかどうか調査を行った結果、さらに2人(都内在住1人、埼玉県在住1人)がデング熱を発症していること、3人の共通点として代々木公園渋谷門付近で蚊に刺されていたという情報を確認した。

代々木公園で緊急に行った蚊のウイルス保有調査の結果はすべて陰性であったものの、3人とも海外渡航歴がなく、代々木公園で蚊に刺された記憶があることから、都は28日に、代々木公園を推定感染地とするデング熱の国内感染患者の発生について報道発表を行った。

その後の患者発生状況
代々木公園を推定感染地とする報道発表以降、代々木公園やその周辺に訪問歴のある患者の届出が相次ぎ、都内のみならず、夏休み等を利用して代々木公園を訪れていた他道府県等の患者の発生も報告された。その後さらに、海外渡航歴がなく、代々木公園やその周辺への訪問歴もない患者が報告され、都内では、新宿中央公園、明治神宮外苑、外濠公園、上野恩賜公園などが感染地である可能性があると考えられた。患者の検査結果からは、いずれも代々木公園で感染した患者と同型のウイルスであることが確認され、代々木公園以外にも媒介蚊の生息地が複数に拡がっていることが推測された。

都内の医療機関から届出のあった患者の状況
都内医療機関から届出のあった患者の年齢は4 歳~77 歳、中央値は28 歳、性別は男性60.2%、女性39.8%であった(図1)。

発生届によると8 月下旬~9 月上旬が発症日のピークと推定された(図2)。

代々木公園周辺を推定感染地とする患者発生状況をみると、8月上旬を推定感染日とする患者が複数発生していた。代々木公園に訪問歴のある患者の約8割は、代々木公園を推定感染地とする患者発生公表日(8月28日)以前に感染しており、初発患者関連以外の患者発生が公表された9月1日以降は、それ以前と比べ感染者は減少していた。

各保健所で実施された積極的疫学調査において、家族間、職場など明らかに繋がりがある二次感染が起きたと考えられる事例は確認されなかった。

8月中旬には代々木公園以外の場所での感染が推定される患者が発生しており、媒介蚊が生息する場所が複数の箇所に拡がっていたといえる。また9月以降、推定感染地不明の患者が増加しており、患者を介した二次感染も疑われたが、推定感染地を患者1人のみの蚊の刺咬歴や行動歴から判断するのは困難な場合が多く、関係保健所からの総合的な情報集約が重要と考えられた。

代々木公園における蚊の対策
最初の患者3人は、同じ学校に在学中であり、調査の結果、3人とも渋谷門付近で学校の課外活動中に蚊に刺された記憶があり、感染地と推定されたため、8月28日、公園管理者により渋谷門を中心とした半径75mの範囲に蚊の駆除のための薬剤散布が行われた。

代々木公園を推定感染地とする患者発生公表の翌日には、さらに代々木公園への訪問歴のある患者報告が複数あったが、患者の行動歴などの情報からは、感染した可能性の高い場所の推定ができないことから、利用者への注意喚起とともに、蚊の発生を抑制するため、雨水マス清掃や池の水抜き等が実施された()。

都は、9月3日に公園内10カ所の蚊を採集し、デングウイルスの保有状況調査を行ったところ、4カ所からウイルスが確認されたことから、利用者の安全確保を期するため、公園北側A地区を9月4日~10月末まで閉鎖した(公園内地図を参照)。

以後、蚊のウイルス保有調査地点を20カ所に拡大し、週1回調査を行った。最初にウイルスが確認された後の調査では、2回続けて陽性の結果であったが、その後の9月25日以降の調査では、ウイルスの保有は確認されなかった(図3)。

まとめ
今後益々グローバル化が進み、海外との人の往来が増える中、海外で流行する感染症が日本に持ち込まれることを避けることはできず、来年以降も蚊の発生シーズンにデング熱等の国内感染患者が発生する可能性は否定できない。

2020年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されるが、同大会は夏季に開催されることを考慮し、関係機関と都民が一体となって蚊の発生抑制を含めた総合的な対策に取り組むことにより、東京からデング熱をはじめとした蚊が媒介する感染症のリスクを減らしていくことが必要である。


参考文献
  1. 東京都福祉保健局, 「東京都蚊媒介感染症対策会議報告書」, 2014
    http://www.metro.tokyo.jp/INET/KONDAN/2014/12/DATA/40oco101.pdf

東京都健康安全研究センター 関 なおみ

 

 

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