国立感染症研究所

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当院を受診したデング熱の国内症例の概要

(IASR Vol. 36 p. 38-39: 2015年3月号)

2014年8月26日に約70年ぶりに東京都内で感染したと考えられるデング熱症例が確認され1)、その後2カ月余りで累計160名に及ぶ国内感染例が報告された2)。患者の多くは東京都渋谷区の代々木公園およびその周辺への訪問歴があり、実際に代々木公園において採集された蚊からデングウイルスが検出された。当院でも代々木公園および新宿中央公園周辺などの訪問後の発熱、およびウイルス検査が実施できないことを理由に近隣医療機関から紹介受診した患者が散見された。当科においてデング熱と診断した症例を提示する。

症例1:47歳女性 最近1カ月以内の海外渡航歴なし
2014年8月18日、23日に犬の散歩で代々木公園を訪問した。蚊に刺された記憶はないが、24日より40℃の発熱と頭痛を認め、25日に近医を受診した。対症療法にて経過観察されていたが改善を認めないため、29日に当院総合診療科を受診した。来院時体温39.6℃、体幹および下肢に点状紅斑を認めた。デング熱の国内発生が報じられた直後であったため、デング熱を積極的に疑い、迅速診断キットの結果、NS1抗原陽性、IgM抗体陽性によりデング熱と診断し、同日入院となった。

来院時検査所見:WBC 1,600/μl、RBC 451万/μl、Hb 14.6g/dl、Ht 41.7%、Plt 27,000/μl、GOT 136 U/l、GPT 41 U/l、LDH 614 U/l、γGTP 29 U/l、CRP 0.71mg/dl

入院時より、輸液による水分管理、発熱に対しアセトアミノフェンを使用した。国立感染症研究所の検査により1型デングウイルスを検出した。第8病日に解熱し第11病日に退院した。肝酵素の上昇を認めたため、外来でフォローアップを行った。

症例2:46歳男性 最近1カ月以内の海外渡航歴なし
代々木公園の傍らに在住しており、ほぼ毎日公園に散歩に行っていた。2014年8月31日より全身倦怠感、夜間になり38℃台の発熱が出現した。9月1日に39℃台となったため、近医を受診した。血液検査で血小板減少などの異常所見はなく、インフルエンザ迅速診断キットも陰性であった。その後も高熱が持続するため9月4日に当院総合診療科を受診した。来院時体温37.8℃、躯幹を中心とした紅斑様皮疹および筋肉痛を認めたが、他に症状および所見はなかった。迅速診断キットの結果、NS1抗原陽性でデング熱と診断した。

来院時検査所見:WBC 1,800/μl、RBC 506万/μl、 Hb 15.4g/dl、Ht 44.7%、Plt 164,000/μl、GOT 25 U/l、 GPT 28 U/l、LDH 192 U/l、γGTP 93 U/l、CRP 0.22mg/dl

発熱なく全身状態良好なため、防蚊対策の徹底を指示して外来にて経過観察とし、第6病日に解熱した。肝機能の改善を認めるまで外来で経過観察とした。

症例3:24歳女性 最近1カ月以内の海外渡航歴なし
2014年8月22日に代々木公園の向かいの親戚の自宅屋上で蚊に刺された記憶があった。8月28日より40℃台の発熱が出現し、持続するため近医を受診したところ、夏かぜと診断され抗菌薬を処方された。その後9月2日頃まで高熱が持続し、下痢、嘔吐もみられたため、当院感染症科を受診した。来院時体温36.2℃、下肢を中心とした丘疹を認めた。迅速診断キットの結果、NS1抗原陰性、IgM抗体陽性、IgG抗体陰性よりデング熱と診断した。全身状態は良好なため外来にて経過観察とした。

来院時検査所見:WBC 2,500/μl、RBC 557万/μl、 Hb 17.2g/dl、Ht 47.8%、Plt 52,000/μl、GOT 82 U/l、 GPT 42 U/l、LDH 413 U/l、γGTP 21 U/l、CRP 0.27mg/dl

今年も夏季になるとデング熱の国内発生が起こる可能性は考えられる。一般的にデング熱患者の検査所見は白血球減少と血小板減少が特徴的であるが、病初期にはみられないこともあり、特徴的な発疹も通常は有熱後期から解熱期にみられる3)。特に感染対策上最も重要な時期は患者の血液中にウイルスが存在する病初期であるため、感染拡大を防ぐためにも早期に適切な診断を行えることが望ましく、迅速検査キットなどが一般医療機関でも使用できるような環境整備が急務である。

 
参考文献
  1. 厚生労働省結核感染症課:デング熱の国内感染症例について(第一報)、2014年8月27日
  2. 厚生労働省結核感染症課:デング熱の国内感染症例について(第三十八報)、2014年10月31日
  3. Mizuno Y, et al., Travel Med Infect Dis 10: 86-91, 2012

東京医科大学病院
  感染症科 水野泰孝 小林勇人 福島慎二 中村 造
  総合診療科 鈴木 亮 赤石 雄
  渡航者医療センター 濱田篤郎

 

 

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