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感染症発生動向調査におけるチクングニア熱報告症例,2011~2014年

(IASR Vol. 36 p. 47-48: 2015年3月号)

チクングニア熱はトガウイルス科のチクングニアウイルスによる疾患で、デング熱と同様にネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介される。潜伏期は通常3~7日程度で、患者の多くは急性の発熱と関節痛で発症し、発疹を伴う場合もある。症状は数日~2週間程度続く。関節痛は数カ月持続することもあるが、通常は非致死性である。臨床症状からはデング熱との鑑別は難しく、実験室診断が必須である。ワクチンはなく対症療法のみが主となる。

チクングニア熱はアジア、アフリカで流行が報告されていたが、近年アメリカ大陸においても地域内流行が確認されたため(本号16ページ参照)、その分布域はデング熱とほぼ一致する(本号14ページ参照)。

本邦では、2011年2月に感染症法が改正され、チクングニア熱は全数把握の4類感染症として新たに追加された(IASR 32: 49, 2011参照)。診断した医師により届出がなされている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-42.htmlを参照)。また、同2011年2月に検疫感染症にも追加され、検疫所では流行地域から入国するデング熱・チクングニア熱が疑われる者に対して健康相談および検査を行っている(IASR 34: 68-69, 2013 & 35: 112-114, 2014)。なお、デング熱などと同様に、渡航先滞在中に感染・発症し治癒した症例は、届出対象となっていない。

感染症発生動向調査に報告されたチクングニア熱症例について報告する。2011年2月~2014年12月に報告されたチクングニア熱症例は50例(2015年2月12日現在)で、年間10数例だが増加傾向にある()。発症月別では、報告数も少なく発症日不明(5例)もあり、顕著な季節性は認められない()。すべてが国外で感染したと推定された輸入例で、推定感染地は東南アジアを中心としたアジア諸国が大半(80%;40 /50)を占めたのは、デング熱と同様であった()(IASR 33: 239-240, 2012 & 33: 240, 2012 & 33: 241, 2012 & 33: 335-336, 2012 & 34: 305-306, 2013および本号特集参照)。その他、近年初めて流行が確認されたオセアニア(本号16ページ参照)から4例や、カリブ海諸国・アメリカ大陸から6例であった。

チクングニア熱症例(50例)の年齢・性別は、男性は31例で、年齢は20代11例、30代7例、40代11例、50代2例で、すべて成人であった(範囲20~58歳)。女性は19例で、10代4例、20代8例、30代3例、40代2例、50代2例で、男性より若い年齢分布だった(範囲11~59歳)。

報告された臨床所見は、発熱45(90%)、筋肉痛および関節痛(関節の炎症・腫脹も含む)43(86%)、発疹28(56%)、全身倦怠感26(52%)の頻度が高く、その他に頭痛21(42%)などであった。神経症状が1例で報告されたが、劇症肝炎や届出時点での死亡例の報告はなかった。

2015年4月に告示される「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針」において、チクングニア熱もデング熱と同様にその対策の重要な軸として位置づけられている。デング熱とともにその動向に注視が必要である。

謝辞:感染症発生動向調査にご協力いただいている地方感染症情報センター、保健所、衛生研究所、医療機関に感謝申し上げます。

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 同 ウイルス第一部

 

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