国立感染症研究所

IASR-logo

東京都における先天性風しん症候群および先天性風しん感染児を対象とした風しんウイルス遺伝子検査

(IASR Vol. 36 p. 120: 2015年7月号)

はじめに
感染症発生動向調査による現在の集計方法が開始された1999年以降、東京都内における2012年までの先天性風しん症候群(congenital rubella syndrome: CRS)患者の報告は3件であった。しかし、2012年夏季から続いた全国的な風しんの流行に伴い、2013年には13件、2014年にも3件のCRS患者が報告された。

一方、CRS児の10~20%は生後1年を経ても風しんウイルス(rubella virus: RV)を排泄するという報告1,2 )があるが、国内において実施されたCRS児のウイルス排泄に関する研究報告は少ない。また、個々のCRS児や先天性風しん感染(congenital rubella infection: CRI)児に対し、ウイルスの排泄状況を踏まえた治療や生活指導を行うためには、それらの児を対象としたRVの継続的な検査が必要と考えられた。

このような背景から、東京都健康安全研究センターではCRS・CRI児におけるRV感染およびRV排泄期間の評価を目的に、CRS・CRI児を対象とするRV遺伝子検査を2013年9月~2015年3月まで実施した。本報告では、2013年1月以降に出生したCRS児のうち、RV遺伝子陰性確認までの追跡が可能であった12例について記述する。

実施方法
都内12の協力医療機関に入院または通院中のCRS・CRI児のうち、検査に同意が得られた児を対象に咽頭ぬぐい液を用いたRV遺伝子検査を行った。検査対象とする児は次の①、②いずれかの要件を満たす者とし、尿、血液の検査を希望する医療機関に対しては、それらを用いた検査も同時に実施した。

① 妊娠中に風しんに罹患した母から生まれたRV IgM抗体陽性の児
② 出生後、症状および抗体検査等からCRSと診断された児

RV遺伝子の検出は、国立感染症研究所による病原体検出マニュアルに従い、E1領域をターゲットとしたRT-PCRを用いて実施した。

RV遺伝子が検出されたCRS・CRI児については、生後3か月、6か月、9か月、12か月を目途に継続検査を実施し、RV排泄期間の評価を行った。原則として連続する2回の検査がRV遺伝子陰性となった時点で検査終了とし、最後に陽性が確認された月齢までをその症例のRV排泄期間とした。

結 果
RV感染の評価を目的とした初回検査用の検体採取が、生後6か月となった児が1例、生後3か月となった児が2例あったが、他の9例は生後2か月以内に検体採取が行われた。検査の結果、12例中11例がRV陽性となり、陰性であった1例についても確認のため実施した2回目の検査ではRV陽性となった。

継続検査においてRV陽性が確認された児は、生後2か月までが1例、3か月が4例(尿検体のみRV陽性となった1例を含む)、4か月が2例、5か月、7か月、8か月、11か月、13か月がそれぞれ1例であった。

なお、本調査の実施期間中CRIに該当する児の報告はなかった。

まとめ
1) CRS児におけるRV感染
検査を実施したCRS児全例からRV遺伝子が検出され(確認のため実施した2回目の検査でRV陽性となった1例を含む)、出生直後のCRS児はほぼ全例がRVに感染(排泄)しているものと推察された。

2) CRS児におけるRV排泄期間
 生後3か月時点でRVを排泄していると考えられるCRS児は、12例中11例(91.7%)で、生後6か月では4例(33.3%)、生後9か月で2例(16.7%)、生後12か月で1例(8.3%)であった。月齢とともにRV排泄率は低下し、確認されたRV排泄期間の最長は生後13か月であった。
 
3)対応策の必要性
   CRS児においては、出生直後から3カ月以内ではほぼ全例、その後は月齢とともにウイルス検出陽性の割合が低下していったため、この間の非感染児への感染防止対策の必要性が示唆された。
 
参考文献
  1. Cooper LZ, Krugman S, Arch Ophthal 77: 434-439, 1967
  2. Shewmon DA, et al., Pediatr Infect Dis J 1(5): 342-343, 1982


東京都健康安全研究センター
   微生物部 秋場哲哉 千葉隆司 長谷川道弥 甲斐明美 貞升健志
   健康危機管理情報課 阿保 満 林 志直

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version