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大阪府における風しん流行と先天性風しん症候群の発生動向

(IASR Vol. 36 p. 120-122: 2015年7月号)

大阪府における風しん流行
大阪府内で感染症サーベイランスシステム(NESID)に報告された風しん報告数は2008年24例、2009年12例、2010年9例と推移していたが、2011年から報告数が増加に転じた。2011年には前年の5.8倍となる53例、2012年、2013年にはそれぞれ408例、3,192例が報告される大きなアウトブレイクとなった。報告症例数は、その後2013年末から減少し、2014年には18例が報告されるのみとなった()。2011~2014年にかけて大阪府内で発生した風しん患者数は、同時期に全国で発生した風しん患者全体の21.0%にのぼった。この流行に伴い先天性風しん症候群(CRS)が相次いで発生し、2013年始めに1例、2013年後半に4例、2014年始めに1例と、東京都に次いで全国で2番目に多い6例が報告された。

2011~2014年の4年間に報告された患者3,671例のうち、2,693例(73.4%)は男性、978例(26.6%)は女性であり、患者の年齢中央値は、男性で33歳(範囲0–86歳)、女性25歳(範囲0–70歳)であった。男女別の年齢分布では、男性で20代(28.8%)、30代(33.8%)、および40代(20.2%)の割合が高かったが、女性では半数近く(44.1%)が20代であった。患者のワクチン接種歴は、なし(27.6%)、1回(5.1%)、2回(1.1%)および不明(66.2%)であり、なしまたは不明の割合が高かった。患者の年齢層と性別は、20~40代の男性が大部分を占め、全国的な傾向と同様に風しんワクチンの定期接種を受けていない世代の男性が流行の中心であった。

感染経路は、不明が2,854例(77.7%)と最も多かったが、次いで職場316例(8.6%)、家族274例(7.5%)、友人69例(1.9%)、学校32例(0.9%)、そのほか126例(3.4%)であった。

診断方法は、3,671例中1,132例(30.8%)が臨床診断、2,539例(69.2%)が検査診断であった。検査診断の内訳は、血清IgM抗体の検出が最も多く1,980例(77.9%)、次いでPCR法350例(13.8%)、ペア血清での抗体上昇180例(7.1%)、ウイルス分離同定24例(0.9%)、その他5例(0.2%)であった。

風しん対策と今後の課題
大阪府で実際に風しん対策が始まったのは2013年4月の大阪府を含む近畿地区の都道府県から、厚生労働省への「風しん対策についての要望」提出、同年5月からの大阪府内でのワクチン助成以降であった。2013年当初は、妊娠の可能性がある女性と妊婦の家族に対して麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)または風しんワクチン費用の助成が行われたが、現在大阪府では同様な条件の人を対象に無料で風しん抗体検査を行っており、抗体が不十分だった人にワクチン費用を助成している。

CRSへの対策としては、風しんに関する特定感染症予防指針が適用される以前から、2014年1月に行政と医療機関との連携強化が行われ、政令市を含む府内どの地域で発生した事例においてもCRSおよび先天性風しん感染(CRI)の検査、それらのフォローアップ検査を確実に行える体制が構築された。また、現在は出生時に見落とした可能性があるCRS児を見つけるために乳幼児健診時の入念な観察にも取り組んでいる。

一方で、風しんは不顕性感染も多く、また、臨床診断を含む医療機関からの届出を基盤としたサーベイランスでは風しん患者を検出することに限界もある。全国的にみても報告患者数の多い地域とCRSが報告された地域は必ずしも一致せず1)、実際の感染者数と報告数の間に乖離があると考えられる。風しん感染は一般的に症状が軽いため見落とされやすく、20~40代の男性では療養休暇を取得せずに仕事を続ける場合も多く、結果的に職場内で感染が拡大したと考えられる。また、この集団の風しん抗体保有率はいまだ低値であるため2)、ワクチン接種の必要性が高いが、全国統計に照らしても男性の未婚率は、30代ではおよそ40%、40代でも25%程度であり3)、現在行っている風しん抗体検査およびワクチン助成の対象者とならない男性の割合が高いことが予想される。このため、大阪府では、2020年の国内からの風しん排除に向けてCRS、CRIのみならず、成人を含めた風しん発生時のサーベイランス体制および発生時の対応強化を図っていくこととしている。

風しんの流行期にCRSの発生予防の観点に立てば、妊婦を中心においたこれまでの対策が有効であったと考えられるが、今後は風しん排除のために妊婦以外にも目を向けた対策が必要である。風しんワクチン接種により風しんやCRSが予防されることは科学的に証明されている4)。従って、風しん排除に向け、定期予防接種対象の乳幼児に加え、配偶者またはパートナーの有無、妊娠希望の有無にかかわらず、ワクチン未接種世代の成人へのワクチン接種をより積極的に行うことが、今後の流行予防に最も重要になると考えられる。

 

参考文献
  1. 風疹流行および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第二版(2013年9月30日), 国立感染症研究所
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/rubella-top/2145-rubella-related/3980-rubella-ra-2.html
  2. 2014年度感染症流行予測調査, 年齢/年齢群別風しん抗体保有状況
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/5502-rubella-yosoku-serum2014.html
  3. 平成22年国勢調査 人口等基本集計結果 結果の概要 配偶関係,年齢(5歳階級),男女別15歳以上人口の割合-全国(平成2年,12年,22年)
    http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/kihon1/pdf/gaiyou1.pdf
  4. Reef SE, Plotkin SA, Rubella vaccine, In: Vaccines, 6th Ed, Plotkin SA, Orsenstein WA, Offit PA (Eds), Saunders Elsevier, Philadelphia, PA, 2012, p.688-717

大阪府立公衆衛生研究所
   倉田貴子 上林大起 弓指孝博 加瀬哲男
感染症情報解析評価委員会
大阪府・大阪市・堺市・東大阪市・高槻市・豊中市・枚方市
   小林和夫 田邉雅章 木下 優 松本治子 安井良則 塩見正司 東野博彦 八木由奈
   吉田英樹 奥町彰礼 廣川秀徹 狭間礼子 入谷展弘 信田真里 谷本芳美 松浪 桂
大阪市立環境科学研究所
堺市衛生研究所
国立感染症研究所感染症疫学センター
   大石和徳 砂川富正
(本稿に関する連絡先:国立感染症研究所感染症疫学センター)

 

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