産婦人科医からみた2012、2013年の風疹流行の課題
(IASR Vol. 36 p. 122-123: 2015年7月号)
はじめに
2013年を中心に発生した風疹の流行により、45名の先天性風疹症候群(以下CRS)が報告された。今回の流行から問題点を学び、わが国での風疹流行によりCRSが発生しないようにしなければならない。前回の流行で発足した産婦人科相談窓口(2次施設)の現在、および今回の流行に関して産婦人科医からみた課題を検討する。
1.相談窓口(2次施設)
今回の流行から約10年前、2003~2004年にかけて発生した風疹の小流行の際、年間1~2例にとどまっていたCRSが年間10例と急増した。ただちに厚生労働省研究班が発足し、緊急提言をまとめた(https://idsc.niid.go.jp/disease/rubella/rec200408rev3.pdf )。その後、産婦人科診療ガイドライン産科編でも取り上げられ、風疹罹患(疑いを含む)妊娠女性への対応に関しては、全国の産婦人科医の間である程度統一された管理がなされている。現在の2次施設を表1に示す。しかし、今回のCRS症例がすべて2次施設で対応されてはいない。妊娠中に風疹罹患を疑われなかった例はもとより、ハイリスク症例が2次施設を受診することなく妊娠を中断した場合は把握されないし、妊娠を継続する場合は、妊娠中の特別な管理が必要なわけではなく、新生児がCRSと診断をされれば新生児科医師の管理となるので、相談の対象にならない可能性がある。従って、2次施設の主な役割は、1次施設がリスク判断に迷う例に対する評価とカウンセリングにあるといえる。
2.今回の流行の特徴
2008年から全数把握疾患となった風疹患者報告数は、2009年147人、2010年87人と順調に減少していたが、2011年に海外での感染例から集団感染が発生したのをきっかけに378人と再び増加し、その後全国的な流行となった。2013年14,344人のピークを中心に2011~2014年の報告患者数合計は17,429人にのぼり、今回の流行の中心は20~40代の男性と、20代の女性であった。妊娠出産する世代の周辺で風疹が流行したため、多くのCRSが発生した。
なぜそうなったのかは、過去の風疹予防接種施策にも課題があったといえる。表2に、2012年4月時点での年代別風疹予防接種機会について示す。定期接種の機会がなかった、あるいは移行措置で施策がなされたにもかかわらず結果的に低接種率に帰した年代と、風疹患者数の多い年齢とが見事に一致している。
3.風疹の排除のためにすべきこと
産婦人科診療ガイドラインにも記載のある妊婦管理であるが、金沢市の小児科医院で母親の母子健康手帳などから妊娠中の風疹抗体価と分娩後のワクチン接種の有無を165名に対し聞き取り調査した報告では、HI 16倍以下の20例のうち4例しか産後ワクチン接種を受けておらず、うち2例は同医院で子どもの予防接種の際に指摘され、ワクチン接種を受けた親であった。他に2例が低抗体価のまま次子を妊娠しており、抗体価測定自体を実施していない産科施設も存在するとのことであった。一般の方以上に産科医へのさらなる啓発が必要と指摘している1)。産婦人科医として、低抗体価の者への産後風疹ワクチン接種を徹底していかねばならない。なお、産褥早期風疹ワクチン接種では、HIが8倍未満の場合ほぼ全例で抗体が陽転し、8倍、16倍の者は次回妊娠時には半数程度の者が同程度の抗体価に復するが、接種直後はいったん抗体価が上昇していたことがわかっている2)。
20~40代の男性を中心とした年齢層における抗体陰性者をなくすためにワクチン接種を推奨すべきである。現時点では接種推奨にとどまるが、主として妊娠を希望する女性およびそのパートナーに対する抗体検査やワクチン接種の助成をしている自治体もある。
しかし、社会生活を営む以上、近くに妊娠する可能性のある年代の女性が必ずいるので、妊娠予定の有無によらず社会活動をしている構成員全員が風疹ワクチン接種などにより免疫を保有するべきである。全員が少なくとも1回はMRワクチン接種を確実に受けた状態にしなければ、ふたたび風疹が流行し、CRSが発生する可能性はゼロにはできない。
接種による効果を上げるためには、感受性者の検出はもとより、接種無償化(定期接種)、個別通知、接種の確認と未接種者への繰り返しの通知、休日や職場での接種機会の提供、接種率の低い都道府県の公表などの工夫が求められる。
4.CRSは予測できない
今回の流行で報告されたCRS 45例の公開情報(http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/rubella-top/700-idsc/5072-rubella-crs-20141008.html )によると、ワクチン接種歴あり9例、妊娠中風疹罹患なし4例、双方に該当する者が2例あった。提言のフローではキャッチできない、防げない症例が複数ある。その一部を示す。
・妊娠中に発疹と発熱を認め医療機関を受診したが風疹の診断に至らず、出生した児がCRSであった3)。
・第1子分娩後に風疹ワクチンを受けたが今回HI 8倍、妊娠中風疹症状なし、出生した児がCRSであった4)。
一方、流行期であっても風疹特異的IgMの陽性例でCRSを発症しなかった例は存在する。結局、妊娠早期にはっきり風疹と診断された例以外にCRSは予測できないことがわかる。風疹の排除こそが唯一の解決方法である。
- 渡部礼二, 外来小児科 14(4): 533-534, 2014
- 奥田美加, 他, 産婦人科の実際 62: 1123-1126, 2013
- 後藤孝匡, 他, 日本周産期・新生児医学会雑誌 50(2): 799, 2014
- 比嘉明日美,他, 日本周産期・新生児医学会雑誌 50(2): 800, 2014
横浜市立大学大学院医学研究科
生殖生育病態医学 平原史樹