国立感染症研究所

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風疹流行時における臨時の日曜日ワクチン外来開設の試み:2013年-東京

(IASR Vol. 36 p. 129-130: 2015年7月号)

国立研究開発法人 国立国際医療研究センターは、感染症についての先進的な医療の提供、研修や情報発信、提言を行う独立行政法人である1)。SARS流行の翌年2004年に設置された国際疾病センター(Disease Control and Prevention Center、以下DCC)は2012年に国際感染症センターと名称変更となり、現在、感染症内科・トラベルクリニック・国際感染症対策室の3部門で感染症の診療・教育・啓発・コミュニケーションを行っている。

2012~2013年に成人男性を中心とする風疹の再流行が起きた際には、通常の診療業務に加え一般および医療者の啓発活動を行い、また臨時で「日曜日風疹ワクチン外来」を開設して感受性者の多い成人男性の受診アクセス改善に取り組んだ。ワクチンで予防可能な感染症の流行・再流行への緊急対応として必要となる臨時でのワクチン外来の実施について紹介する。

経 緯
2013年1月に東京都健康安全研究センターから都内での風疹の流行が拡大傾向にあることについて注意喚起があり、DCCでも国際感染症対策室を中心に啓発セミナーの開催、ワクチン接種勧奨のためのポスター作成、学会でのチラシの配布等の啓発活動を開始した。2013年2月には生来健康な20代男性の風疹髄膜脳炎症例を経験し2)、感染拡大によって重症例が増えるリスクや、妊娠や出産時期の女性に拡大していく可能性についてDCC内でも問題意識が高まった。そして、医療機関として発症者を待つだけでなく、積極的に地域の流行を止めるためのアクションをすることが必要との結論に至った。感受性者の多い社会人の男性にワクチン接種機会を提供することを優先課題と判断し、トラベルクリニックのワクチン外来を拡大する形で日曜風疹ワクチン外来の準備を開始。病院の幹部の承認、医事課の協力を得て、6~8月の3カ月間、毎日曜日に外来を開設した。

日曜日風疹ワクチン外来の実績
日曜ワクチン外来を開設することについては、ホームページでのアナウンス3)、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを活用し、報道機関からの取材にも積極的に応じて広報活動を行った。外来は事前の予約者を優先しつつ、ニュースやクチコミをきっかけに当日受診を希望する人(予約外)にも対応をした。3カ月間の受診者は合計333名(男性241名、女性92名)で、30~39歳が56.1%、20~29歳が24.6%であった。風疹流行が大きく報道された6月の受診者が全体の7割で、6月末の国内のワクチン在庫不足報道の後には受診者の減少がみられた。ワクチン在庫不足に対しては、臨時に国内未承認MMRワクチン(商品名Priorix, グラクソスミスクライン社)を輸入して接種を継続することとした。未承認薬である上記ワクチンを使用するに当たっては、当院の薬事委員会で承認を受け、関東信越厚生局から薬監証明を取得し、ワクチンを入手した。また、国産MMRワクチンが接種中止に至った経緯や成人への副反応のデータが乏しいことなどから、同時に接種後の健康調査を実施し、結果を診療録に記載するなどの対策を行った。臨時のワクチン外来受診者333名のうち33.3%(111名)がMMRワクチンを接種した。

受診者の背景
日曜ワクチン外来の利用者の背景を知るため、ワクチン接種後の健康観察時間にアンケート調査への協力を依頼し、333人中286人(85.9%)から回答が得られた。ワクチン接種を受けようと思ったきっかけは「家族の勧め」(36.9%)、「結婚や妊娠の計画がある」(29%)、「ニュースを見て」(19%)の順であり、日曜外来をどのように知ったかについては「クチコミ」(48.6%)、「テレビや新聞記事」(25%)、インターネット検索(16%)となっていた。費用については回答者の87%が全額自己負担での接種であった4)

学びと課題
日曜日にワクチン接種が可能な医療機関は都市部においても限られており、社会人の感受性者群でのワクチン接種率の向上のためには、勤務時間内に受診するための職場環境の整備、巡回診療等での集団接種、休日外来で接種可能な医療機関の紹介等の準備が必要である。医療機関が臨時にワクチン外来を開設する際の課題としては大きく3点ある。1)休日に勤務シフトに入れる医療者の確保と代休の確保が必要となる。今回、マンパワー不足に対応するため外部の医師や看護師にもご協力をいただいた。2)院内の合意形成・連携のため、幹部会議への早期のはたらきかけ、臨時の会計に対応するための事務部門の協力が不可欠である。3)情報訴求対象にアクセスしてもらうためには、病院ホームページ掲載だけでは不足があり、多方面へのアナウンスを行う等の広報の努力が必要である。

8月末に臨時のワクチン接種外来を閉じるにあたっては、都内で日曜日に成人にも予防接種が可能な医療機関にあらかじめ相談をし、以後の日曜日の接種希望があった場合にはご紹介をさせていただくことについてのご了解をいただいた5)

今回、臨時でワクチン接種を行う体制や終了までのオペレーションの経験は、今後の新興感染症の備えとしての学びとなった。

 
 
参考文献
  1. 高度専門医療に関する研究等を行う国立研究開発法人に関する法律 (平成二十年十二月十九日法律第九十三号)第16条
  2. IASR 34: 102-103, 2013
  3. 「日曜日に風疹予防のワクチン接種を希望される方へ」国立国際医療研究センター
    http://www.ncgm.go.jp/topics/fusingairai_20130628.pdf
  4. 第88回日本感染症学会学術講演会 発表 「風疹の地域流行への対応としての日曜ワクチン外来の取り組みとその課題」2014年6月18日、福岡
  5. 国立国際医療研究センター「日曜日の外来終了と日曜に受診可能な医療機関の紹介について」
    http://www.ncgm.go.jp/topics/nitiyowakutinsyuryo_20130823.pdf


国立国際医療研究センター国際感染症センター
   堀 成美 大曲貴夫 金川修造 加藤康幸

 

 

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