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海外の風疹の状況と風疹ウイルス遺伝子型の動向

(IASR Vol. 36 p. 135-137: 2015年7月号)

海外の風疹の状況
2015年4月、世界保健機関(WHO)アメリカ地域における風疹の排除および先天性風疹症候群(CRS)の発症予防が他の地域に先駆けて認められた1)。アメリカ地域においては1971年の天然痘の根絶および1994年のポリオの根絶に引き続いての排除認定である。2003年にアメリカ地域は2010年を風疹およびCRSの排除年として定め、風疹含有ワクチン定期接種の導入と大規模な追加接種キャンペーンによる手厚いワクチン戦略とサーベイランスの強化によって急速に流行を制圧することに成功し、2009年のアルゼンチンでの遺伝子型2Bウイルスを最後に土着株による流行が途絶えたことが示されていた2)

WHO総会で採択されたGlobal Vaccine Action Plan 2012-2020において、WHO 6地域のうち少なくとも5地域で2020年までに風疹およびCRSの排除が目標として掲げられている。現時点でアメリカ地域の他に排除目標年を示しているのはヨーロッパ地域のみである(2015年までの排除)。この地域では2009年までにすべての国で風疹含有ワクチンの定期接種が実施されており、2003年から2011年の間に約97%の風疹患者数の減少を達成している。しかし、2011~2012年にルーマニア、2012~2014年にポーランドにおいて大規模な流行が発生した3,4)。それぞれの国の流行ピーク年の人口当たり風疹患者報告割合は、人口百万人当たり1,000例を超えており(2013年の日本の流行は人口百万人当たり112例)、排除への道筋が万全であるとは言いがたい。

報告されたデータ5-7)を基に風疹含有ワクチンが定期接種として導入された国の割合を地域ごとに示した(図1)。風疹含有ワクチン導入国は、2000年に194カ国中99カ国(51%)から、2012年には130カ国(67%)、2015年3月には141カ国(73%)へと増加している。しかし、アフリカ地域および南東アジア地域では導入が遅れている国が多い。日本と交流の深い西太平洋地域および南東アジア地域において2015年3月時点で未導入なのは、ベトナム、パプアニューギニア、バヌアツ(以上西太平洋地域)、インド、ミャンマー、インドネシア、北朝鮮、東ティモール(以上南東アジア地域)である。このうち、ベトナム、パプアニューギニア、インド(一部)、ミャンマーでは、2015年中に定期接種の導入が計画されている7)

風疹ウイルス遺伝子型の動向
病原体検出情報の集計によると、2011年以降日本で検出された風疹ウイルスの遺伝子型は1E、1Jおよび2Bの3種類に限定され(ワクチン関連株と考えられる遺伝子型1aを除く)、その中でも特に遺伝子型1Eおよび2Bウイルスがほとんどを占める(図2)。この傾向は世界的にも同様に認められる。WHO麻疹風疹実験室ネットワークでは、風疹ウイルス遺伝子配列のデータベースRubeNSを整備し、各国のNational Reference Laboratory等から収集した遺伝子配列情報を管理している。収集された情報は世界的な風疹ウイルスの追跡や風疹ウイルス土着株の排除状態の解析等のために用いられる。本データベースに登録されたウイルス株の遺伝子型情報(2015年6月10日時点)を基に、世界的な風疹ウイルスの分布状況を解析した。図3にWHOの6地域における年代別(2001~2005年、2006~2010年、2011~2015年6月)の各遺伝子型ウイルス報告割合を示した。各国ならびに各地域において報告数に大きな差があるため、必ずしも正確な分布状況を示していない可能性がある。風疹ウイルスの遺伝子型は現在13種類に分類されているが、2001年以降で発生報告があったのは11種類である。2001~2005年には11種類の遺伝子型ウイルスが報告されたが、2006~2010年には7種類、2011~2015年6月には5種類(1a, 1E, 1G, 1Jおよび2B)と、ウイルス遺伝子型が収束してきている。日本の近隣である西太平洋地域や南東アジア地域ではほとんどが遺伝子型1Eおよび2Bウイルスとなっている。特に遺伝子型2Bウイルスは2006年以降爆発的に全世界に拡散したことが分かる。中国においても2008~2009年に検出されたのは土着株である遺伝子型1Eウイルスがほとんどであったが8)、2014年においてWHOに報告されたウイルス(N=89)のうち56%が遺伝子型2Bウイルスになるなど、本遺伝子型ウイルスの浸潤が著しい9)。世界的に風疹ウイルスの遺伝子型が収束してきたことから、ウイルスの追跡のためには遺伝子型情報のみでは不十分であり、系統解析等の詳細な解析が重要となってきている。

日本は2020年度までに風疹の排除を達成することを目標に掲げている。そのためには国内の充実したサーベイランス体制の維持や、高いワクチン接種率を継続することが必要である。また、海外では、まだ十分に風疹対策がとられていない国々があることから、国内ならびに海外の風疹流行状況を常に把握して対策に生かすことが重要である。

 
参考文献
  1. PAHO/WHO, Elimination of rubella and congenital rubella syndrome in the Americas, Fact Sheet 2015
  2. Castillo-Solorzano C, et al., J Infect Dis 204 (suppl 2): S571-S578, 2011
  3. ECDC, Measles and rubella monitoring report, November, 2012, 2012
  4. ECDC, Measles and rubella monitoring report, January-December, 2013, 2014
  5. CDC, MMWR 59 (40): 1307-1310, 2010
  6. CDC, MMWR 62 (48): 983-986, 2013
  7. WHO, IVB Database, 3 March 2015: 2015
  8. Zhen Z, et al., J Clin Microbiol 50(2): 353-363, 2012
  9. WPRO, Measles-Rubella Bulletin 9 (1): 2015


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  ウイルス第三部 森 嘉生 坂田真史 竹田 誠

 

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