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2011~2014年に分離されたA群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)の薬剤感受性について

(IASR Vol. 36 p. 152: 2015年8月号)

A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)は、小児の咽頭炎や皮膚炎の原因菌であり、高齢者に多くみられる致命率の高い劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因菌としても知られている。
 
2011~2014年に13都道府県(富山県・秋田県・新潟県・福島県・仙台市・東京都・神奈川県・大阪府・高知県・山口県・大分県・佐賀県・沖縄県)の医療機関で分離されたS. pyogenes 1,608株について、10種類の抗菌薬に対する薬剤感受性試験を実施したので、その結果を報告する。
 
薬剤感受性試験はドライプレート(栄研化学)を用いて、Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI)に準拠した微量液体希釈法にて実施した。供試薬剤は、アンピシリン(ABPC)、セファレキシン(CEX)、セフジトレン(CDTR)およびセフジニル(CFDN)のβ-ラクタム系抗菌薬4剤と、テトラサイクリン(TC)、クロラムフェニコール(CP)、エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、リンコマイシン(LCM)およびクリンダマイシン(CLDM)の合計10薬剤である。
 
薬剤感受性試験の結果、β-ラクタム系抗菌薬のMIC90はそれぞれABPC:0.03μg/ml、CFDN:0.008μg/ml、CEX:0.5μg/mlおよびCDTR:0.008μg/mlであり、すべての株が感受性であった(図1)。β-ラクタム系抗菌薬以外の6薬剤では、CPに対する耐性は認められなかったが、TC耐性(≧8μg/ml)は371株(23%)であり、これは、前回の調査(2007~2010年)の21%(IASR 33: 214-215, 2012)とほぼ変わらなかった。マクロライド系薬剤であるEMおよびCAM耐性(≧1μg/ml)はそれぞれ999株(61%)、997株(61%)であり、これらは前回の調査(45%)より16ポイント増加していた。また、リンコマイシン系薬剤であるLCMおよびCLDM耐性(≧1μg/ml)株はそれぞれ388株(24%)、392株(24%)であり、これらは前回(12%)に比べ倍増していた。
 
増加傾向がみられたEMのMIC値と主なT型の関係を図2に示した。T1型の9割は耐性であり、T4型の約7割が耐性であったが、64μg/ml以上の高度耐性株はいずれも3%以下であった。また、T12型およびT28型では、その6~7割が64μg/ml以上の高度耐性を示していた。

CLDMではT1型およびT4型の9割以上が感受性であるのに対し、T12型およびT28型の6~7割は耐性であった。なお、TB3264型のEMおよびCLDM耐性は6~8%であった。
 
S. pyogenes による咽頭炎の治療薬として用いられることの多いβ-ラクタム系抗菌薬に対して耐性のS. pyogenes は、現在のところ検出されていない。しかし、マクロライド系やリンコマイシン系抗菌薬に耐性のT1型、T4型、T12型およびT28型など、咽頭炎や劇症型感染症で多く分離される株で近年耐性株が増加している。そのため溶血性レンサ球菌感染症の治療において、抗菌薬の選択には注意が必要と考えられる。
 

東京都健康安全研究センター
  奥野ルミ 久保田寛顕 内谷友美 新開敬行 貞升健志
大分県衛生環境研究センター 佐々木麻里
山口県環境保健センター 矢端順子
大阪府立公衆衛生研究所 河原隆二
神奈川県衛生研究所 大屋日登美
富山県衛生研究所 増田千恵子
福島県衛生研究所 二本松久子
仙台市衛生研究所 松原弘明
高知県衛生研究所 金山知代
(衛生微生物技術協議会溶血性レンサ球菌レファレンスセンター ブロック支部)

 

 

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