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海外のヒトパルボウイルスB19の疫学的状況―文献レビュー

(IASR Vol. 37 p. 11-12: 2016年1月号)

はじめに
ヒトパルボウイルスB19(以下PVB19)感染は、主に小児期において、特徴的な皮疹を呈する伝染性紅斑の原因となることが知られているが、他にも成人に感染することで関節炎、貧血などの様々な臨床症状を呈することがある。また、妊娠中の感染により、流産や死産、胎児水腫の原因の一つとなり得るため、妊婦や乳児における感染状況の把握は重要となる。

国内では、PVB19感染症のうち代表的な症状である伝染性紅斑については、感染症発生動向調査の小児科定点把握疾患としてのサーベイランスが行われている。各国の状況について、電子メールを介して、欧米、アジア・オセアニア地域の6カ国の主要保健機関に問い合わせを行ったが、常時のサーベイランスとして情報を収集している国はなく、近年の有用なサーベイランス報告はないとの回答であったため、発生動向に関するデータは乏しいと考えられた。

本稿においては、妊婦や乳児を中心とした、近年の海外におけるPVB19の疫学的状況について文献的なまとめを行う。

欧 州
フィンランド:1992~1993年にかけて伝染性紅斑の流行を認めた。その際に小児に接する機会の多い職業に従事している妊婦の、妊娠初期の抗体保有状況および、出産後の保存臍帯における抗体保有状況を調査し、抗体が陽転化した割合を調査したところ、デイケア(託児所)従事者が他職種に比べてリスクが2倍以上と、PVB19感染リスクが高いことが示された1)

フランス:マルセイユの公立病院で調査したところ、2012年にPVB19感染の増加を認めた。1,885人の患者に対し、1,735件の血清検査(IgG抗体、IgM抗体)、443件の遺伝子検査(PCR)を行い、53例がPVB19陽性となった。2002~2011年の平均と比較し71%の増加となった2)

英国:スコットランド・エディンバラ地域では2012~2013年にかけてPVB19感染の増加を認めた。123例の感染者を認め、そのうち33例が妊婦、76例が非妊婦、14例が男性であった。1例以外の妊婦が不顕性感染であった。PVB19曝露後に検査を行った妊婦のうち18%(26/141)に感染を認め、また、抗体を持たない妊婦のうちPVB19曝露後に再検査を行い陽転化した妊婦が7%(7/104)に認められた。妊娠初期(妊娠11週以前)に急性PVB19感染を認めた妊婦のうち25%(3/12)で胎児死亡を認めた。一方、妊娠12週以降に急性PVB19感染を認めた妊婦はすべて出産成功であった3)

英国:北アイルランドでは2003~2011年までに6度のPVB19感染の流行を認めた。ICD10の記録によると、この間に2,739人の胎児死亡を認めたが、PVB19感染が疑われ検査されたのは143例(5%)にすぎなかった。また、皮疹患者との接触があり、抗体が陰性であった妊婦は147例で、90例についてはフォローアップが不十分であった。情報のあった60例のうち、職業曝露のあった症例は31/60(51.6%)であり、大半は教師や託児所勤務であった。42例の妊婦が検査診断でPVB19感染が判明したが、皮疹などの伝染性紅斑の症状を認めた妊婦はそのうちの18%であった。検査診断で感染が判明した妊婦はすべて健常児を出産している。また、不顕性感染が判明した妊婦22例のうち6例でPVB19による胎児死亡を認めた。今回の結果は、妊娠中にPVB19関連による胎児死亡が一般的であるにもかかわらずフォローアップが不十分であることを意味している4)

中 東
イスラエル:イスラエル国内2カ所の検査施設の結果に基づき、抗PVB19 IgG抗体の免疫保有状況および急性感染時の血清学的パターンを評価した。1,008件の血清検体のうち、IgG抗体保有率は61.4%であり、年齢調整後のIgG抗体保有率は58.2%であった。抗体保有率は年齢と関連しており、10歳以下では25.7%、20歳以上では70%であった。性別や人種による有意差はみられなかったが、2008~2013年における5,663件の検体のうち、IgM抗体により感染が特定された急性感染は、4.1%(234例)であった。感染者数が多い年は2008年と2011~2012年にかけてであり、各年6月にIgM抗体陽性者数のピークを認めた5)

イラン:PVB19感染は、時に麻疹や風疹[a1]と誤報告されることがある。2013年12月~2015年1月までに麻疹、風疹様症状を呈した15歳以下の子どもから、583件の血清を収集し、PVB19の感染をIgG抗体、IgM抗体、PCRで評価した。583件のうち、112件(19.2%)でIgM抗体が陽性となり、110件(18.8%)でIgG抗体が陽性であった。また、63件(10.8%)で遺伝子が検出された。IgG抗体は年齢上昇に伴い、検出される割合が多くなり、6歳以下では7.1%、6~11歳では18~39%、11~14歳では28~91%であった。すべての遺伝子型は系統樹解析ではNS1-VPu1との重複領域のある1型であった。今後イランからの麻疹風疹排除のためには、検査診断によりPVB19感染の紛れ込みによる誤報告を防ぐことが重要となる6)

アフリカ
スーダン:2008~2009年までにKhartoum州の産前クリニックを受診した500人の女性について、PVB19のIgG抗体およびIgM抗体の保有状況を調査した。IgG抗体は61.4%が保有しており、IgM抗体は1検体のみ陽性であった。PVB19のDNAは検出できなかった。IgG抗体保有状況は複数回妊娠と有意に関連が認められた7)

ガボン:ガボン国内のPVB19について、生後3、9、15および30か月の乳児162例においてIgG抗体保有状況を調査した。結果は1.2%、2.5%、3.1%、9.3%であり、抗体陽性率は1,000人年当たり38.2人(95%信頼区間:18.8-57.6)であった8)

おわりに
文献検索を行ったところ、近年における各国からのPVB19関連の疫学的報告については、母子関連感染症としての内容が大半を占めていた。特に、今まで報告の少ない中東やアフリカ地域からの妊婦の抗体保有状況の報告や、欧州からの職業曝露による妊婦の感染リスクおよび胎児水腫に伴う流産死産の状況に関する報告が多く見受けられた。また、近年の米国やアジア地域でのPVB19に関する疫学的報告はほとんどみられなかった。

 
参考文献
  1. Riipinen A, et al., Occup Environ Med 71: 836-841, 2014
  2. Aherfi S, et al., Clin Microbiol Infect 20: 176- 181, 2014
  3. Al Shukri I, et al., Clin Microbiol Infect 21: 193-196, 2015
  4. Watt AP, et al., J Med Microbiol 62: 86-92, 2013
  5. Mor O, et al., Epidemiol Infect 144: 207-214, 2016
  6. Rezaei F, et al., J Med Virol, 2015
  7. Adam O, et al., Epidemiol Infect 143: 242-248, 2015
  8. Gabor JJ, et al., Am J Trop Med Hyg 93: 407-409, 2015

国立感染症研究所
  感染症疫学センター 小林祐介 砂川富正

 

 

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