国立感染症研究所

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HIV-1 Nefの多様性・多型性

(IASR Vol. 38 p.186-187: 2017年9月号)

Nef(negative factor)は, 約27kDaの蛋白質でHIV-1遺伝子の3’側にコードされている。その名前が由来する通り, もともとウイルス増殖を抑制する因子として報告されたが, その後, 初代培養細胞や生体内ではむしろウイルス増殖を昂進させ, HIV-1病原性と関連することが明らかになった。Nefは宿主細胞のクラスリン依存性エンドサイトーシス系を乗っ取る形で, HLAクラスI分子の発現低下を起こしT細胞免疫系からの逃避を図る。同じく主要なウイルスレセプターであるCD4, CCR5, CXCR4の発現低下を起こしてウイルスの再感染を防ぐなどで, 生体内でのウイルス複製を昂進させる。また最近, ウイルス感染性を抑制する宿主蛋白質SERINC3/5の拮抗分子としてNefが働き, 結果としてウイルス粒子の感染性を増強させることが明らかにされた1,2)。このようにNefは多くの重要な機能を担うが, 一方で, HIV-1遺伝子の中で変異性が最も著しい領域である。Nefに蓄積する変異の多くが, 細胞傷害性T細胞(CTL)からの逃避に関わることが知られている3,4)。宿主免疫系からの選択圧のもとで, ウイルス複製に重要な機能がどのように維持(あるいは減弱化)されているか, それが個体の病態にどう影響するかを理解することは, HIV-1の病原性やHIV-1に対する免疫制御を考えるうえで重要と考えられる。

我々は, 薬剤治療なしにHIV-1を自身の免疫系で制御できている稀な感染者(エリートコントローラー)や, 急性感染期の感染者など, 合わせて144名より提供いただいた血漿ウイルスRNAよりnef領域をクローニングして, 遺伝子と遺伝子産物の多型性・多様性を評価し, 病態との関連を解析した。のちにコントローラーとなる感染者の急性期の検体(n=10)では, 免疫逃避に寄与するHLA発現低下機能が経時的に減弱化していた。感染から約1年経過後のNef配列を比較したところ, CTLエピトープ領域内に変異が蓄積しており, それらが組み合わさることで機能の減弱化を起こしていた5)。一方で, のちに病態が進行する感染者でも変異の蓄積は観察されたが, Nef機能は維持されたままであった。さらに, 5年以上にわたってエリートコントローラーである感染者から検体(n=45)を集め, Nefのさまざまな機能を解析したところ, 解析した多くのNef機能が病態進行者由来のNefに比較して減弱化していた。HLA発現低下機能だけでなく, ウイルス複製やウイルス粒子の感染性を増強する機能やCD4発現低下機能なども有意に低下していた。一方, エリートコントローラーと病態進行者に由来するnef遺伝子配列の系統樹解析では, 両者に特徴的なクラスターなどはみられなかった。興味深いことに, アミノ酸配列を検索してみると, エリートコントローラーに特徴的な9つのアミノ酸を見出すに至った。さらに, エリートコントローラー由来のNefでは, この特徴的な9つのアミノ酸残基の総和が, 解析した5つの機能のうち4つについて, Nef機能と逆相関することを見出した ()。これらの変異は, すべて感染者のHLAアリルに関連する遺伝子変異だったことから, エリートコントローラーに特有の免疫応答が変異蓄積と関連すると示唆された6)

こうした変異性の著しいウイルス遺伝子領域(nef)を多くの感染者からクローニングしてくることで, 自然界に存在するウイルス遺伝子ライブラリーを構成することができる7)。このライブラリーはナチュラルに存在する変異(遺伝子多型)を多く網羅できると期待されることから, 感染者のウイルス(Nef)に固有な機能や病態に関連するアミノ酸変異を特定することができるのではないかと考えた(これまでの研究では保存性の高い領域に部位特異的変異を導入して機能に与える影響を調べている研究が多いが, こうした変異は感染者ではほぼ見つからない)。実際, HIV-1 subtype BのNefライブラリーを用いて, HLA-Bの発現低下作用を調べてみると, Nefクローン間で3倍程度の機能差が認められた。Nef機能と, 各コドンのアミノ酸残基について相関を解析したところ, Nefの202番目のアミノ酸がコンセンサス(Tyr)か, 変異体 (Tyr以外)かによって, HLA-B発現低下作用が有意に異なることを見出した。部位特異的変異を導入することで, 202番目のアミノ酸変異でNef機能が大きく変わることが再確認された8)。さまざまなHIV-1サブタイプやレンチウイルス由来のNefライブラリーを作成して(感染者1人あたり1クローンで, 現在>400クローンに達している), ナチュラルに選択されるNef変異(多型性)と機能への影響(機能的多様性)および病態との関連性の解明に向けてさらに研究を進めている。

 

参考文献
  1. Rosa A, et al., Nature 526: 212-217, 2015
  2. Usami Y, et al., Nature 526: 218-223, 2015
  3. Brumme ZL, et al., PLoS Pathog 3: e94, 2007
  4. Ueno T, et al., J Immunol 180: 1107-1116, 2008
  5. Kuang XT, et al., J Virol 88: 10200-10213, 2014
  6. Mwimanzi P, et al., Retrovirology 10: 1, 2013
  7. Toyoda M, et al., J Virol 89: 9639-9652, 2015
  8. Mahiti M, et al., mBio 7(1): e01516-15, 2016
 
熊本大学エイズ学研究センター上野プロジェクト研究室 上野貴将

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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