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6歳未満児におけるインフルエンザワクチンの有効性:2013/14~2015/16シーズンのまとめ(厚生労働省研究班報告として)

(IASR Vol. 38 p.223-224: 2017年11月号)

背 景

インフルエンザワクチンの有効性研究に関する最近の考え方は, 「複数シーズンにわたり, 統一的な疫学手法で継続的に有効性をモニタリングする」というものである。欧米諸国で採用されている手法は, 症例・対照研究の亜型であるtest-negative designである。検査確定インフルエンザを結果指標としながらも, 受診行動に起因するバイアスを制御できるという利点がある1,2)

厚生労働省研究班(研究代表者・廣田良夫)では, test-negative designにより, 6歳未満児におけるインフルエンザワクチンの有効性を継続的にモニタリングしている。本稿では, 調査開始以降3シーズン(2013/14~2015/16シーズン)のまとめを, 2016(平成28)年度分担研究報告書から抜粋して述べる3)。なお, 2013/14シーズンと2014/15シーズンの結果は昨年のIASRで報告しているが4), その後3シーズンの結果をまとめるにあたり, 解析段階におけるデータの取り扱いを統一した3)。そのため, IASR既報告分とはワクチン有効率の推定値が若干異なっていることをご了承いただきたい。

方 法

デザインは症例・対照研究(test-negative design)である。2013/14シーズンは予備調査として大阪府(4施設)で実施し, 2014/15シーズンと2015/16シーズンは大阪府と福岡県(9施設)で実施した。研究期間は, 各地域におけるインフルエンザ流行期である。

対象者の適格基準は下記の通りである。
① 研究期間に, インフルエンザ様疾患(ILI:38.0℃以上の発熱 plus[咳, 咽頭痛, 鼻汁 and/or呼吸困難感])で参加施設を受診した小児
② 受診時の年齢が6歳未満
③ 38.0℃以上の発熱出現後, 6時間~7日以内の受診

その他, 調査シーズン9月1日の時点で月齢6か月未満の者などを除外した。

本研究のsource population(研究対象者を生み出す集団)から研究対象者(病原診断の検査結果を有する者)を選定する過程で, 選択バイアス(selection bias)が生じることを回避するため1,2), 「受診児が本研究の基準を満たす場合, 連続して協力依頼, 連続して登録, 登録者全員に病原診断」という系統的な手順をとった()。登録時, 対象者の個人特性(含:インフルエンザワクチン接種歴)に関する情報収集とともに, 全例から鼻汁を吸引し, real-time RT-PCR法でインフルエンザウイルス陽性の者を症例, 陰性の者を対照とした。条件付き多重ロジスティック回帰モデルにより, 検査確定インフルエンザに対するワクチン接種の調整オッズ比(OR)を算出し, ワクチン有効率は(1-OR)×100%で推定した。

結 果

に, インフルエンザワクチン接種のORを示す。すべてのシーズンにおいて, 1回接種と2回接種の調整ORは1を下回っており, ワクチンが有効であることを示していた。2回接種の調整ORは0.40~0.50, すなわち有効率は50~60%であり, いずれも統計学的に有意であった。

2回接種の有効率を各シーズンの主流行株別にみると, 2013/14シーズンはA(H1N1)pdm型に対して56%, 2014/15シーズンはA(H3N2)型に対して50%, 2015/16シーズンはA(H1N1)pdm型に対して65%であり, いずれも統計学的に有意であった。

考 察

6歳未満児におけるインフルエンザワクチンの2回接種は, いずれのシーズンも有意な発病予防効果を示した。2014/15シーズンの有効率が最も低かったが, 当該シーズンの主流行株であったA(H3N2)型の抗原性は, 国内ワクチンのA(H3N2)株から大きく乖離していたと報告されている5)。一方, 2013/14シーズンおよび2015/16シーズンの主流行株であったA(H1N1)pdm型は, ワクチン株と良好に合致していた6,7)。シーズンごとの有効率の違いは, ワクチン株と流行株の合致度を反映していると考えられた。

 

参考文献
  1. 福島若葉, Pharma Medica 33: 47-51, 2015
  2. Fukushima W, et al., Vaccine 35: 4796-4800, 2017
  3. 福島若葉ら, 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究 平成28年度総括・分担研究報告書, pp30-44, 2017
  4. 福島若葉, IASR 37: 230-231, 2016
  5. 国立感染症研究所, IASR 36: 199-201, 2015
  6. 国立感染症研究所, IASR 35: 251-253, 2014
  7. 国立感染症研究所, IASR 37: 211-213, 2016

 

厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究
定点モニタリング分科会長:福島若葉(大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学)
共同研究者:森川佐依子, 藤岡雅司, 松下 享, 久保田恵巳, 武知哲久,
      高崎好生, 進藤静生, 山下祐二, 横山隆人, 清松由美, 廣井 聡,
      中田恵子, 前田章子, 伊藤一弥, 大藤さとこ, 加瀬哲男, 廣田良夫

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