国立感染症研究所

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パチンコ店Aで発生した結核集団感染

(IASR Vol. 38 p241-242: 2017年12月号)

パチンコ店Aを中心とする患者の概要

2011年に茨城県古河保健所管内の患者1(以下, 番号は患者登録順)が喀痰塗抹G7号の肺結核として登録された。患者1は主にパチンコの収入で生活しており, 栃木県県南健康福祉センター管内にあるパチンコ店Aにほぼ毎日通っていた。古河保健所管内で2011年以降に登録された結核患者のうち, パチンコ店Aを利用していた者は計14名であったことにより, 菌株が残っていた7名についてVNTR(縦列反復配列多型)解析JATA15を実施したところ, 6名の遺伝子型が一致した。

また, 古河保健所から隣接する栃木県県南健康福祉センターに問い合わせたところ, 同センター管内にもパチンコ店Aを利用していた結核患者が計13名確認された。菌株についてVNTR解析JATA15を実施したところ, 2013年までに登録となった3名の遺伝子型別は, 古河保健所管内の遺伝子型である古河クラスターと類似する野木クラスターであった。さらに, 2014年から登録となったパチンコ店Aを利用した患者4名の遺伝子型は北京型(モダン型)で一致した。他の6名の遺伝子解析は実施していない。なお, 栃木県においては2014年よりVNTR解析の方法が変更となり, 野木クラスターと北京型が同一であるか否かは不明である。

以上より, 古河保健所はパチンコ店Aを起点とする結核集団感染であると判断し, 茨城県保健予防課に報告した。さらに, これら以外にもパチンコ店Aを利用している結核患者がいたため, 同保健所管内における集団感染像に関する評価を行った。

接触者調査およびパチンコ店Aを利用していない結核患者の概要

古河クラスターにおける患者1の家族および職場同僚の接触者調査を実施し, 肺結核患者4名, 潜在性結核患者2名が登録された。患者4の家族の接触者調査を実施し, 潜在性結核感染症2名が登録された。患者11の家族および職場の同僚の接触者調査を実施し, 潜在性結核感染症1名が登録された。患者として登録されたこれらの接触者のうち3名は, パチンコ店Aを利用していることが判明し, いずれも潜在性結核感染症患者であった。

古河保健所管内において, 2015年度に登録されたパチンコ店Aの利用のない結核患者5名について, VNTR解析を実施したところ, 1名は古河クラスターと遺伝子型別が一致した。この患者は, 他のパチンコ店に勤務していたことが判明した。また, 栃木県県南健康福祉センターからの情報によると, 同管内において2013年に登録されていた, パチンコ店Aの利用のない結核患者1名について, 遺伝子解析で古河クラスターと類似する野木クラスターと遺伝子型別が一致していた。

結核感染のリスク評価

2016年3月11日付で, 2011年7月から同時点までの本事例に関する感染リスクの評価が行われた。その時点で茨城県古河保健所管内および栃木県県南健康福祉センター管内の結核登録患者のうち, パチンコ店Aを利用したことがあると判明した結核患者は30名であった。

そのうち喀痰等の検体から結核菌が検出された者は24名であった。その中で, 古河保健所および県南健康福祉センター管内地域の居住者であり, かつパチンコ店Aを利用していた者で, 喀痰検体から結核菌が検出され, その結核菌のVNTR解析による型別が古河クラスターまたは野木クラスター, あるいは北京型と判定された者は13名であり, これらをパチンコ店Aにおける確実な集団感染症例と判断した。また, VNTR検査が実施できなかったが喀痰等の検体から結核菌が検出された者は10名であり, パチンコ店Aにおける集団感染の可能性症例と判断した。なお, 遺伝子型が古河クラスターと一致しなかった1名については, 異なる場所での感染と考えられる。

次に, パチンコ店Aを利用したことがあり, 喀痰等の検体から結核菌が検出されなかったが, 臨床的な症状および胸部X線検査所見から肺結核と矛盾しないと診断された者は3名であり, これらの者についてもパチンコ店Aにおける集団感染の疑いがあると考える。なおこれ以外に, パチンコ店Aを利用した患者の接触者調査で潜在性結核患者と判明した3名についても, 自らがパチンコ店Aを利用していたが, その感染源がパチンコ店Aであるのか接触した結核患者であるのかは不明である。

以上を合わせて, パチンコ店Aにおける集団感染が確実, 可能性または疑いがある結核症例は, 2016年3月時点で計26名であった。登録時期は, 2011年8月に初発患者1が登録された後, 2012年に7名, 2013年に5名, 2014年に11名, 2015年に2名であった。多くはパチンコ店の固定客であり, そのつど3~4時間程度利用していた。

パチンコ店Aでは, 約700台のうち7割が稼働し, 3サイクルの利用回転があり, 利用者は固定客のみであり, 週の半分程度利用していたと仮定すると, 約2,940人と考えられた。2011~2015年の5年間において利用者のうち26名が結核に罹患したとすると, 年間罹患率は26/5/2,940*100,000=177(/10万人)となる。この値は, 茨城県の2014年の年間罹患率の13.3(/10万人)をはるかに上回り, 結核の起こる期待値をはるかに超えている。パチンコ店利用者を一般住民と比較する場合に未知の交絡因子が存在するとしても, この大きな違いはパチンコ店Aにおける結核集団感染を支持するものである。

また, パチンコ店Aを利用していた患者の接触者調査により, 潜在性結核5名を含む9名の結核患者が登録された。さらに, パチンコ店Aを利用したことがない結核患者2名(古河クラスターおよび野木クラスター)については, パチンコ店Aを利用していた患者と同一の遺伝子型が判明しており, パチンコ店Aを利用した患者からの直接または間接的な感染の可能性が指摘されている。

その後の状況

さらに, 2016年6月以降の古河保健所管内のパチンコ店A関連の患者として, 2016年3月, 4月, 5月にそれぞれ1名(計3名)のVNTRが一致する患者が確認されている。これらを合わせて, 合計40名の結核患者について, パチンコ店Aと関連する結核感染の集団に含まれる可能性が考えられた。結核患者の数十名規模の集団感染は, 施設内の入居者に関しては時に認められるが, 不特定の者が利用する施設に関するものとしては大規模であった。なお, 2016年5月を最後に, このパチンコ店に直接関連する新たな患者の発生は認められていないが, 結核の潜伏期間2年間を考慮すると, 2018年5月頃までは新たな患者の発生の可能性があり, 的確な対応が必要である。また, 当保健所管内では, パチンコ店の利用がない1名が2016年12月に, およびそれぞれ別のパチンコ店を利用していた2名が2017年4月, 6月に相次いで登録され, 検出された菌株はパチンコ店A事例と同一のVNTRであった。これらの患者においてはパチンコ店における集団感染事例との関連が明らかではないが, 一つの施設に関連して発生していた感染が地域へ拡大した可能性を示唆するものであり, 警戒を強めている。

 

茨城県土浦保健所 緒方 剛(前古河保健所)
茨城県古河保健所 中村洋心 海老原佳之 山口純代
元茨城県古河保健所 今井寿美江
結核予防会結核研究所 伊藤邦彦

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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