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WHO西太平洋地域における風疹排除の進展と現在の取り組み

(IASR Vol. 39 p44-46: 2018年3月号)

I.背景

東アジア, 東南アジア, オセアニアにある28の国と9の地区からなるWHO西太平洋地域(WPR)は, WHO西太平洋地域委員会(WPRC)の決議により, 2003年から麻疹の地域排除事業を進めている。WPRCはまた, WHO加盟国に, 麻疹排除事業を利用して, 風疹対策と先天性風疹症候群(以下, CRS)の予防をも進めるよう勧告してきた(2003年, 2010年, 2012年)1-3)。具体的には, (1)麻疹排除事業の進展より接種率の上昇しつつある麻疹の予防接種に使用するワクチンを風疹含有ワクチン(MR, MMRなど)に置き換えること, (2)麻疹の報告システムに, 同様の臨床症状(発熱と発疹)を呈する風疹も加えた, 共通のサーベイランスシステムで麻疹と同様, 風疹も報告すること, (3)麻疹に加えて風疹の実験室診断も行うこと, などである。

II.風疹対策から風疹排除へ

これまで風疹含有ワクチンを定期予防接種事業において使用していなかった国が2007年から2015年にかけて, 麻疹単独ワクチンの使用を中止し, 代わりに風疹含有ワクチン(MRまたはMMR)を使用するようになった。その際, 中国以外は, 麻疹風疹混合ワクチンを用いた, 複数の出生コホートを対象とする大規模なワクチン全国一斉接種を実施し, 15歳程度までのすべての出生コホートに対して風疹に対する集団免疫を確立した(表1)。麻疹排除事業の進展とともにWPRのすべてのWHO加盟国が麻疹単独ワクチンをMRまたはMMRへ置換したことにより, WPRにおける風疹の報告数は, 2011年を除き, 2008年以降2016年まで, 毎年, 順調に減少してきた(図1)。この進展と成果を考慮し, WHO西太平洋地域事務局(WPRO)は, 風疹の地域排除を8つの地域予防接種目標の一つとする「Global Vaccine Action Plan4)実施のための地域フレームワーク」5)を作成し, 2014年, WPRCがこれを承認した。

MRないしMMRを用いて麻疹排除のための予防接種を強化・継続し, 麻疹と風疹を合わせた全症例対象のサーベイランスを実施することで, 風疹排除事業も進展することができる。また, CRSの新規発生を予防するためにMRないしMMRを用いて成人の間での風疹の流行を予防する努力によって, 成人における麻疹に対する集団免疫をも上昇させ得ること, などから, WPRにおける麻疹排除事業と風疹排除事業を連動し, それぞれの事業の実施を同期・加速させるため, WPROは, 「WHO西太平洋地域における麻疹排除・風疹排除のための地域戦略と行動計画」6)を作成し, 2017年, WPRCがこれを承認した7)

各国が, MRないしMMRを用いて, 現在のワクチン接種率を維持しながらこの 「地域戦略と行動計画」 を確実に実施すれば, 2025年には, WPRにおける20歳以下の出生コホートの85%以上の人々が, 風疹含有ワクチン接種を受けることができると見込まれている。

III. 課題と現在の取り組み

小児に対する徹底した風疹含有ワクチン接種により, 近年, WPRでは風疹の発生, 特に小児の間での風疹の発生は顕著に減少しているが, 一方で, 中国, フィリピン, ベトナムなどでは, 報告された風疹の症例中, 15~39歳までの青少年~成人における風疹の割合が急増している(図2)。2015年には, ベトナム南部の千人以上の雇用者を有する別々の工場で, 百人以上の患者発生が確認された風疹の流行が2事例報告されたが, 患者の60%以上は18~25歳であった。

WPRではCRSの報告制度を有する国は限られている。例年, WPRにおける全風疹症例の9割前後を報告している, 合計でWPRの全人口の約82%の居住する国々(中国, フィリピン, マレーシア, ラオス, モンゴル, ブルネイ・ダルサラーム)は, CRSの報告制度を有しない(表2)。2010年のWPRにおけるCRSの報告数は0であるが, Vynnyckyらは, 同年におけるWPRでのCRSの新規発生数を8,889人(範囲4,010~21,118人)と推定している8)

WPRにおける風疹排除をさらに進めていくために, (1)各国が麻疹風疹混合ワクチンを用いた麻疹排除・風疹排除戦略を策定し, その実施を加速すること, (2)麻疹風疹混合ワクチンを用いて成人における風疹の流行を最小限に抑えること, (3)すべての国においてCRSの発生動向のモニタリングを可能にすること, がWPRにおける風疹排除の緊急の課題である。

 

参考文献
 
 
世界保健機関西太平洋地域事務局 髙島義裕(たかしまよしひろ)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan