国立感染症研究所

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三重県松阪・伊勢・津地域における麻疹アウトブレイクの概要と対応

(IASR Vol. 39 p52-53: 2018年4月号)

1.事例の概要

2017年2月3日, 松阪保健所管内在住の19歳女性からPCR検査により麻疹ウイルス遺伝子が検出され, 検査診断例として診断が確定した。調査の結果, 同患者の勤務する工場において麻疹を疑う症状を呈している従業員が複数存在することが判明した。同一工場内において有症状者が集中しており, 結果的に同工場従業員91名中7名が麻疹, 5名が修飾麻疹と診断された。その後, 患者と接触のあった系列工場から1名, 患者家族から1名追加で修飾麻疹と診断され, 同会社関係者として計14名が麻疹または修飾麻疹と診断された。発症時期より初発患者は1月7日にカタル症状で始まった同工場従業員と推定された。

疫学的リンクおよび発症時期によって二次感染症例であると推定される従業員が1月23日~27日の間, 薬疹疑いで管内A病院に入院した。また, 三次感染症例と推定される2例が2月2日に管内B病院外来を受診した。結果的にA病院病棟職員2名, A病院の見舞い客1名, B病院外来職員1名が発症した。全員修飾麻疹と診断された。最終的に二次感染例は1例, 三次感染例は13例, 四次感染例は3例と推測された()。

2月20日の最終接触以降4週間, 新たな麻疹患者が発生しなかったため, 3月20日に事例の終息を確認した。

2.事例への対応

2月3日に1例目が報告された時点で, 麻疹発生時対応ガイドライン1)に基づきアウトブレイクとして対応した。また, 三重県庁を通じて国立感染症研究所(感染研)に疫学調査および対応の支援を依頼した。2月6日以前は電話やメールによる支援, 7日以降は直接支援を受けながら対応にあたった。

対応は大まかに症例調査, 接触者調査, 感染拡大防止策の実施, 情報共有/発信の4つに分類できる。症例調査の結果, 本事例を通じて基本情報や行動歴に関する調査は99症例に実施し, また93症例の検体を採取した。接触者調査の対象は会社の従業員, 医療機関での接触者, 薬局での接触者, 同居家族など延べ約2,500人に上った。また, 各医療機関の職員や接触者の接触状況や麻疹抗体価に応じて, 計13例には曝露後72時間以内の緊急ワクチン接種が実施された。曝露後72時間以上経過していたが, 曝露を受けていない可能性も想定して計224例にワクチンが接種された。また, アウトブレイク判明後早期に関係医師会にて説明会を開催したうえで診療上必要な情報を共有し, 注意喚起を行った。保健所間の情報共有には県が整備する共有フォルダを用いてリアルタイムな情報共有を図った。県民への情報提供は県ホームページを通じて実施した2)

3.記述疫学

本事例では2017年1月5日以降, 松阪・伊勢・津保健所管内医療機関から麻疹として届出がなされ, PCR法で麻疹ウイルス遺伝子が検出, あるいは抗体検査により麻疹と診断された患者を症例と定義した。ただし, 本事例と明らかに関連性がない, またはワクチン株と判明した症例は除いた。

また, 本事例では患者病型の定義を感染症法に基づく届出基準に準じた。すなわち, 「麻疹:届出に必要な病原体診断を満たし, かつ, 届出に必要な臨床症状である麻疹に特徴的な発疹, 発熱, カタル症状の3つすべてを満たすもの」とした。同様に, 「修飾麻疹:届出に必要な病原体診断を満たし, かつ, 届出に必要な臨床症状の1つまたは2つを満たすもの」とした。ただし, 37℃以上の発熱をすべて「発熱」とした。

18名が症例定義に合致し, このうち男性は10名(56%)であった。年齢幅は19~53歳, 中央値は32歳であった。13名が松阪保健所管内, 4名が伊勢保健所管内, 1名が津保健所管内在住であった。麻疹(検査診断例)は7名(39%)であった。遺伝子型が同定された15名はすべてD8型, 3名は検出ウイルス量が少ない, または抗体検査のみ陽性のため型別不能であった。また, 18名中4名(22%)は記録による1回以上の予防接種歴が確認された()。

4.総括および考察

1月7日発症の症例を契機に, 1事業所を中心とした三重県内3保健所にまたがる麻疹アウトブレイク事例を経験した。確定例は18例であり, 四次感染例まで発生していたことが推定された。重篤な転帰をたどる症例もなく, 2017年3月20日に事例の終息を迎えた。また, 初発例は推定感染期間中に国外および同時期に国内において麻疹患者の報告があった府県への訪問はなかったため, 感染経路は不明であった。

2月3日に第1例目が診断された時点で既に三次感染例であったにもかかわらず, 四次感染例が3例にとどまったことは医療機関, 市町, 事業所, 医師会, 薬剤師会, 県庁, 地方衛生研究所をはじめとする各関係機関の献身的な協力の賜物であった。日頃より地域において協力的な体制を整備することの重要性を再認識した。また, 早期の段階で感染研に指導を仰いだことで, 最初期の混乱時や以降の方針においても一定の方向性を保つことができた。

アウトブレイク判明直後には一部接触者が予告なく医療機関を受診, または軽い症状を自覚したまま勤務したことで結果的に接触者が増大した。アウトブレイクの規模が判明していない発覚直後であっても, 接触者は有症時に必ず保健所の調整を経て受診すること, また症状の軽重にかかわらず, 必ず上司に報告し勤務を自粛することを徹底することが保健所として次回に生かすべき最大の反省点であった。

全国いついかなる時にアウトブレイクが発生するとも限らないため, 麻疹患者が1例発生した時点で速やかにアウトブレイクとして対応すること, そして日頃よりアウトブレイクに備えておくことが保健所として必要である。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所感染症疫学センター, 麻疹発生時対応ガイドライン〔第二版:暫定改訂版〕, 2016年6月
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/guideline/guideline02_20160603.pdf
  2. 三重県ホームページ, 麻しん(はしか)について
    http://www.pref.mie.lg.jp/YAKUMUS/HP/m0068000016.htm

 

三重県松阪保健所
(以下所属はすべて2017年2月時点)
 植嶋一宗 星野郁子 稲垣 香 丸山明美 岡田ひろみ 小市愼治 佐藤千裕 松田麻里
三重県伊勢保健所
 鈴木まき 豊永重詞 三浪綾子 河合のぞみ
三重県津保健所
 中山 治 加藤みゆき 山﨑由紀子 原 有紀
三重県健康福祉部薬務感染症対策課
 松本真愛 平岡 稔 西岡美晴 原 康之
三重県保健環境研究所微生物研究課
 赤地重宏 楠原 一
国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース 錦 信吾 新橋玲子
同感染症疫学センター 福住宗久 森野紗衣子 神谷 元 多屋馨子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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