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広島県東広島市内での麻疹集団発生事案について

(IASR Vol. 39 p53-54: 2018年4月号)

はじめに

2017年2月8日, 広島県東広島市内の医療機関から広島県西部東保健所に, インドネシアからの帰国者が麻疹を発症している旨, 届出があり, その後, 東広島市内の保育園園児およびその家族を中心に感染が拡大し, 11名の患者が発生した。本事案の概要および対応等について報告する。

初発患者の発生

2017年2月8日, 東広島市内の医療機関から西部東保健所に「1月30日に発熱, 咳, 発疹等を訴えて受診した患者が2月3日に再受診し検査したところ, 麻疹ウイルス遺伝子陽性と判明した。」旨の届出があった。この届出に基づき, 当該保健所で患者の行動歴調査を実施したところ, 当該患者は1月28日までインドネシアに滞在し, 帰国の際, ジャカルタ発羽田着および羽田発広島着の飛行機を利用していた。

当該患者が利用した飛行機, 空港ロビー等での当該患者との接触者は麻疹ウイルスに感染した可能性があることから, 県は, 航空会社に報道発表資料への当該患者利用便掲載の承諾を得て, 広く情報提供を行った(http://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/233887.pdf)。

患者の概要

患者11名の概要をに示す。

・初発患者に続いて発生した10名は, すべて保育園関係者(0歳児1名, 1歳児5名, 保護者4名)で, 同じ遺伝子型(D8型)であった。

・予防接種歴については, 患者11名のうち, 未接種者2名, 1回接種者9名であった。ただし, 1回接種者のうち6名は事案発生後の接種で, 事案発生時には, 定期接種対象年齢に達していた9名中6名が未接種であった。また, 接種歴のあった成人患者3名のうち2名は記録による接種時期の確認ができなかった。

・「発熱等症状を呈した接触者全員への検査。結果判明まで自宅待機」の体制を整えた2月22日以降の発症者(No.4以降)については, 感染性を有する期間の外出日数が大幅に減少した。

関係機関の対応

患者の早期発見対策:地区医師会等を通じた医療機関への情報提供(患者発生施設名を含む)および協力依頼, 患者利用施設(不特定多数利用者施設に限る)の公表および施設内掲示(10施設), 接触者への健康調査(約1,000名), 発熱等症状を呈した接触者への検査実施(113件)等を行った。

感染拡大防止対策:患者家族等への緊急ワクチン接種(42名), 患者利用施設への指導(有症状者の登園中止, 行事の延期, 妊婦の来園自粛等), 麻疹含有ワクチンの定期接種対象年齢者および未接種者等への接種の呼びかけ等を行った。

関係機関の連携:2月21日, 東広島地区医師会, 保育園, 東広島市, 西部東保健所および感染症・疾病管理センターによる保育園麻しん対応会議を開催, また, 2月24日には, 国立感染症研究所(感染研)の専門家の出席のもと, 麻疹対策会議を開催した。

終 息

3月26日に最後の患者の感染性を有する期間が終了して以降, 4週間にわたり新たな患者が発生しなかったことから, 感染研感染症疫学センターが示す基準1)に基づき, 4月24日, 本事案は終息したと判断した。

振り返りの会議

本事案を今後の麻疹対策に活かすため, 5月29日, 振り返りの会議を開催したところ,

・県は, 報道関係者, 医療関係者, 保護者および関係自治体等, 相手に応じた情報提供のあり方を考慮する。

・平常時から, 「保育所における感染症対策ガイドライン」の遵守等, 保育園に対する市としての方針を示す。

・保育園は, 職員, 園児について, 入園時および定期的に, ワクチン接種歴, 罹患歴等の情報を収集・整理する。

・医療機関は, 平常時から, 医師, 職員のワクチン接種歴, 抗体価, 罹患歴等を確認しておく。

などの課題が抽出された。

まとめ

本事案では, 関係機関等の対応について様々な課題が浮き彫りとなった。しかし, 2例目以降, 保育園関係者以外から患者を発生させなかったこと, 小規模な集団発生で終息させたことは, 発生の早い段階から, 行政, 医療機関および関係施設等が連携し, 迅速な公表, 検査体制・緊急接種体制の整備等, 適切な対応を行った結果と考えられた。

謝辞:本事案に関して, 御協力いただいた関係機関の皆様に心より深謝いたします。

 

参考文献
  1. 麻疹発生時対応ガイドライン〔第二版:暫定改訂版〕(国立感染症研究所感染症疫学センター2016年6月)

 

広島県感染症・疾病管理センター
 谷本陽子 尾嵜 誠 河端邦夫 桑原正雄
広島県西部東厚生環境事務所・西部東保健所
 藤本準子 坂本慰子 岸本益実
広島県北部厚生環境事務所・北部保健所(前広島県感染症・疾病管理センター)
 田渕文子
広島県立総合技術研究所保健環境センター
 池田周平 谷澤由枝 島津幸枝 重本直樹

 

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