国立感染症研究所

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山形県における麻しんのアウトブレイクについて

(IASR Vol. 39 p54-55: 2018年4月号)

概 要

2017年3月9日に山形県では2011年以来となる麻しん患者が確認され, これを発端として近年にない規模のアウトブレイクとなった。

初発患者は, 関東在住の20代男性で, 2月26日にインドネシアから帰国し, 運転免許取得の目的で3月2日に来県しホテルに滞在していた。翌3日に発熱の症状が出たが, その後も自動車教習所に通い続け, 8日に置賜地域の医療機関を受診した。受診時には咳, 咽頭痛, 発疹, 下痢などの症状を呈しており, 麻しん患者として医療機関から置賜保健所に届出がなされ, 翌9日, 県衛生研究所の遺伝子検査によって麻しんと確定した。

最終的には県外の5都県7人を含む60人(初発例含む)[男性44人(73%), 年齢中央値30歳(範囲0-60代)]が麻しんと診断された()。そのうち, 典型的な症状(発熱, 発疹, カタル症状)を十分満たさず, 症状が一部のみの修飾麻しん患者が38人(63%), 麻疹ウイルスの遺伝子型はインドネシアにおいても報告されているD8であった1)

患者の最終発生から4週間が経過した5月17日に終息と判断した。

対 応

保健所では, 患者やその接触者に対し, 健康調査や行動調査を行うとともに, 健康観察を依頼した。自動車教習所の生徒やホテルの宿泊者は県外出身者が多数を占め, 既に移動していた対象者について, 住所地の自治体へ情報提供を行ったが, 春休みの期間であり, 帰省や旅行などで対象者がさらに移動している場合が多く, 連絡に相当な時間を要した(対象者:445人, 連絡自治体延べ数:201)。

県内で発生した患者は53人であったが, 家庭内, 職場, 立ち寄り先など調査範囲が広範囲にわたり, 調査対象者は約3,700人となった。また, 施設や事業所約70カ所に, 調査および麻しんに係る啓発等の対応を行った。

患者接触から72時間以内にワクチンを接種することで, 発症を予防できる可能性があることから, 接種歴・罹患歴がない方を中心に, 144人に対し緊急のワクチン接種を行った。

しかし, 麻しん含有ワクチンの流通量が潤沢とはいえない状況であったことから, 山形県において県医薬品卸業協会に協力を依頼し, 緊急ワクチンを確保した。

関係機関との情報共有として, 本庁において, 医師会や関係各課を参集しての連絡会議を2回, 各保健所において, 地区医師会や市町村, 消防等を集めて会議や研修等を実施した。

また, 国立感染症研究所から, 2回来県のうえで原因究明および感染拡大防止策にかかる助言や研修会への協力等の支援を受けた。

考察とまとめ

〇初発患者の届出を受けた際, すでに多くの人が当該患者と接触しており, 二次感染が起きていた。三次感染以降は, 職場など身近な接触による感染が多かったが, 地域での何らかの接触が推測されるものの感染源が明確に特定できない事例があり, 麻しんの感染力の強さを改めて認識した。

〇本事案は, インドネシアから持ち込まれた遺伝子型D8の麻しんウイルスが原因と考えられ, 初発患者を含め, 他者への感染が確認された患者(7例)はワクチンの2回接種を行っていなかったことおよび2回接種していた患者から他者への感染は認められなかったことから, 麻しんの排除状態を維持するためには, ワクチンの2回接種が重要であり, このことの周知と海外へ渡航する際の予防接種や定期接種の徹底が必要と考える。

謝 辞

今回のアウトブレイクにおいて, 対策について詳細な御助言をいただくとともに, 関係者への啓発に対しても御支援をいただいた国立感染症研究所感染症疫学センター・多屋馨子先生, 島田智恵先生, 奥野英雄先生ならびに実地疫学専門家養成コース・小林祐介先生に厚くお礼申し上げます。

 

参考文献
  1. Hartoyo E, et al., Int J Infect Dis 54: 1-3, 2017

 

山形県健康福祉部 大貫典子 髙橋博人 阿彦忠之(村山保健所兼務)
山形県衛生研究所 水田克巳
山形県置賜保健所 山田敬子
山形県庄内保健所 石川 仁

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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