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小学校入学式に参列した保護者を発端とした麻疹アウトブレイクから見えた対策の課題―金沢市

(IASR Vol. 39 p55-57: 2018年4月号)

概 要

2017年4月に金沢市保健所管内で8年ぶりに麻疹患者が発生した。初発患者はインドから帰国後, 麻疹と診断される前に子どもの小学校入学式に参列していた。管外から患者発生もあり, 広域にわたる対応が必要であった。三次感染者の発生はなく4例で終息したが, 麻疹対策における課題が浮き彫りとなったので今後強化すべき点について報告する。

症例1

30代男性, 会社員。接種歴不明。3月23日からインドに滞在。4月2日悪寒が出現。6日空路と鉄路で金沢に戻った。帰宅後, 発熱を自覚してA病院救急外来を受診したが, 麻疹とは診断されず帰宅した。7日子どものX小学校入学式に短時間参列した後, 写真店を利用した。その後発疹が出現し, 高熱となり近医を受診した。翌8日も症状が改善せず同医を再診し, B病院に紹介入院した。10日PCR検査陽性となり, 麻疹と確定診断された。

症例2

40代女性, X小学校教員。入学式に出席。接種歴1回。4月18日体調不良, 19日発熱あり。22日近医を受診し, 麻疹が疑われ, 同日当保健所にて検体採取目的で受診調整した。PCR検査陽性となり, 麻疹と確定診断された。

症例3

30代男性, X小学校教員。入学式に出席。接種歴不明。4月20日咽頭痛と倦怠感があった。22日発熱あり, 近医を受診し風邪と診断された。翌23日発疹が出現し, 職場から麻疹の可能性について当保健所に連絡があった。居住地が市外であったため, 管轄保健所で受診調整した。PCR検査陽性となり, 麻疹と確定診断された。

症例4

10代女性, 症例1が利用した写真店店員。接種歴2回。4月23日発熱と鼻汁があり, 24日近医を受診した。その後家族が麻疹を疑い管轄保健所に連絡した。同保健所で受診調整した。PCR検査陽性となり, 麻疹と確定診断された。

保健所の対応

患者調査および接触者調査を行い, 当該小学校の児童・職員の健康観察, 有症状時の受診方法の指導, 接種歴の確認, 未接種者・1回接種者への接種勧奨を行った。症例1が利用した写真店の店員と利用者にも同様に対応した。症例1, 2が受診した医療機関に対して, 医療従事者の接種歴や抗体保有状況の把握, 抗体価が低い者に対する予防接種の実施を依頼した。当保健所で調査を行った症例1, 2の接触者数は1,138人に及んだ。

市民に対しては, 患者発生のつどプレスリリースにより情報提供を行った。症例3の発生後に小学校名を公表し, 改めて接種歴の確認や有症状で受診する際の注意喚起を行った。電話相談窓口の設置, 疑い患者の受診調整, 地方衛生研究所(県保健環境センター)への検体搬送, 国立感染症研究所へ実地疫学専門家養成コース(Field Epidemiology Training Program: FETP)の派遣要請, 関係機関(県・医師会)との情報共有, 医療機関等への緊急研修会を行った。

症例3, 4は居住地が市外であったため, 調査対応は各管轄保健所で行った。各保健所の調査状況について, 症例3, 4の発生後に行った関係機関の担当者会議で一元的な情報を共有した。

症例3は管轄保健所の調査で, 3人の接触者が妊娠中で接種歴不明であることが判明し, 本人の了解の下ガンマグロブリン製剤の筋注を行った。

PCR検査実施状況

4/10~5/15の期間に, 石川県全体で麻疹PCR検査を47件(金沢市31件)実施した。陽性検体数は4件(9%)で, 遺伝子型はすべてD8型であった。

結 果

4月24日に4例目の麻疹患者発生後, 最終の接触者発生から4週間, 新たな患者の発生はなく, 5月22日に終息宣言を行った。

麻疹予防接種の状況

平成28(2016)年度の金沢市の麻疹予防接種率は第1期95.7%(全国97.2%), 第2期93.9%(全国93.1%)で, 全国平均と同程度であった1)。当該小学校の予防接種状況は, 児童は2回接種95.9%, 1回接種も併せると99.4%であった。教員は2回接種20.9%, 1回接種も併せると41.9%, 罹患歴あり41.9%, 不明16.2%であった。

考 察

本事例が4例で終息した要因は3つ挙げられる。1つ目は症例1と接触した小学校児童の定期接種率が高かったこと, 2つ目は患者が受診した医療機関で二次感染者が出なかったこと, 3つ目は二次感染の3例は修飾麻疹の可能性が高かったこと () と考えられる。

一方, 課題も見えた。4例とも成人であり, 症例1は未接種のまま海外渡航していた。定期接種率が高くなった現在, 麻疹抗体価が低いまま海外渡航した成人を発端としたアウトブレイクが, 麻疹対策の課題となっている2,3)。当保健所は今回のアウトブレイクを受けて, 医療機関, 市民, 企業, 旅行会社に海外渡航前の予防接種の啓発ポスターやチラシを配布した。定期接種の徹底に加え, 麻疹が大人の感染症でもあることを念頭に, 医療関係者, 学校等の職員, 海外渡航者など, 成人の予防接種対策を強化していきたい。

昨今麻疹症例が減り診断が困難となる中で, 4例のうち3例は最初に受診した医療機関では麻疹が疑われなかった。発生動向の周知や研修会等により, 地域で麻疹に対する感度を上げていく必要がある。

小学校名の公表について, 情報提供と個人情報保護の兼合いから対応に苦慮した。感染拡大防止を目的とした情報提供について, 平時から方針を決めておくべきである。

患者や接触者が複数の保健所や自治体にまたがり, 迅速な情報共有が困難であった。1例発生時に県・市・保健所・医療機関等の各関係機関が一堂に会し, 情報共有し, 対応方針を決定すべきである。合同対策会議の開催をマニュアルに明記するなど, 情報共有体制を明確化しておきたい。

謝辞:今回の事例において, 対応に御協力を頂いた皆様をはじめ, 対策に対して詳細な御助言を頂いた, 国立感染症研究所感染症疫学センター・多屋馨子先生, 神谷 元先生, 森野紗衣子先生, FETP・小林祐介先生に厚くお礼申し上げます。

 

参考文献
  1. 厚生労働省健康局健康課, 国立感染症研究所感染症疫学センター, 麻しん風しん予防接種の実施状況,平成28年度
  2. Maclntyre CR, et al., Vaccine 34(37): 4386-4391, 2016
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X16306065
  3. 堀 忍ら, IASR 35: 105-106, 2014

 

金沢市保健所
 折坂聡美 大松由紀子 北岡政美 加藤一恵 木曽啓介

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