国立感染症研究所

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山形県における麻しんの発生―修飾麻しん患者と典型麻しん患者の伝播の違い―

(IASR Vol. 39 p59-60: 2018年4月号)

はじめに

日本で届出されている麻しん患者のうち, 症状が軽度な修飾麻しん患者の割合は2016年で32%と報告されており増加傾向にある1)。しかしながら修飾麻しん患者に主眼をおいた集団発生の研究は日本でも世界的にも少ないのが現状である。2017年3月に山形県で発生した麻しん集団発生事例は修飾麻しん患者の割合が多く, その特徴について研究する機会となった。本研究ではウイルス遺伝子検査および疫学調査の結果から, 感染拡大の要因について明らかにすることを目的とした。

方 法

患者よりEDTA添加全血血液, 咽頭ぬぐい液, 尿, 血清の4検体を得た。検査は国立感染症研究所病原体検出マニュアル, 麻疹(第3版)に従い, 検体の前処理, 半定量的real-time RT-PCR(rRT-PCR)およびconventional PCRを行った。保健所スタッフによる疫学的調査により, 患者の症状, ワクチン接種歴および行動履歴についての情報を得た。

結 果

ウイルス遺伝子検査ならびに疫学調査の結果, 県内外合わせて60人の麻しん患者が確認された。病型は典型麻しん, 修飾麻しんそれぞれ22人(36.7%), 38人(63.3%)であった。典型麻しん患者のうち8人は, 検体採取時はまだ前駆期であったため修飾麻しんと判断されていたが, その後のフォローアップ調査で典型麻しんとしての症状が確認された。全麻しん患者のうち39人(65.0%)は20~39歳であった。患者のワクチン接種歴はそれぞれ, 接種歴なし12人(20.0%), 1回27人(45.0%), 2回9人(15.0%), 不明12人(20.0%)であった。初発患者を起点とした感染経路をに示した。二次, 三次および四次感染者はそれぞれ25, 27および2人であり, 感染経路が不明の患者が5人であった。二次感染以降の感染源となった患者はA-Gの7人(以下Pt. A-Gと表記)であり, Pt. A-Fはワクチン接種歴なしまたは不明の典型麻しん患者, Pt. Gはワクチン接種歴1回の修飾麻しん患者であった。Pt. A-Cはワクチン接種歴がなく, 多数に伝播していたため, その3人の行動について以下に記す。Pt. A(初発患者)は, 発症から受診するまでの6日間活動を続け, 自動車教習所, 宿泊施設および病院で25人に麻しんを伝播した。Pt. Bは発症から診断までの8日間活動を続け, 職場とその関連箇所, 医療機関および家庭で9人に麻しんを伝播した。Pt. Cは検体採取時には修飾麻しんと診断されていたが典型麻しんに進展し, 活動日数は不明であるが, 発症後に事業所内で16人に麻しんを伝播した。

考 察

今回の集団発生では修飾麻しん患者の割合が非常に多く, 麻疹ウイルスに対する免疫が十分ではない者が日本に少なからず存在する可能性が考えられた。一般的にワクチン不全(vaccine failure)により修飾麻しんが生じると言われており, ワクチン接種の記録があったにもかかわらず感染した者についてより詳しい抗体検査が必要と考えられた2)

修飾麻しん患者の症状を監視し, 典型麻しんへの進展を早期に察知すべきと考えられた。麻しん患者との接触者に対する症状出現時の早期受診勧奨が精力的に行われたため, 発症後の検体採取が早期に行われたケースがあった。修飾麻しん患者は伝播リスクは低いものの感染源となり得ると言われているが, 本事例においても示されたように症状が重く伝播リスクの高い典型麻しん患者の接触者を重点的に追跡していくべきであると考える3,4)。発症後の早期に麻しん患者の伝播リスクを評価することができれば, 接触者健診において保健所の限られた人的資源を効率的に分配するための参考となるかもしれない。なお現在, 本事例におけるrRT-PCR結果(ウイルスコピー数)と麻しん患者の感染力との関連性について分析中である。

麻しんワクチンの2回接種は麻疹ウイルスの拡大防止に必要である。日本の2008~2015年における麻しん患者の分析では20~39歳の患者が多く, この世代に対するワクチンの追加接種が必要と報告されており, 本事例においてもこの世代の患者が多かった2)。確実な接種歴のない患者によって多数の伝播が起こった一方, 接種歴がある患者からの伝播が1例のみであったことからもワクチン接種の重要性が強調できる。

麻疹ウイルスに対する免疫が不十分な者が少なからず日本にいる可能性があり, そのような方々が麻しんの輸入あるいは国内での拡散を助長する恐れがある。そうならないためにも国内における麻しんワクチンの2回接種をより一層勧奨していくべきであろう。

 

参考文献
  1. IASR 38(3): 45-47, 2017
  2. Inaida S, et al., Epidemiol Infect 145: 2374-2381, 2017
  3. Rota JS, et al., J Infect Dis 204(suppl_1): S559-563, 2011
  4. Gershon AA, et al., Krugman’s Infectious Diseases of Children, 11e. Denvers: Mosby; 2004, p.353-371

 

山形県衛生研究所微生物部
 駒林賢一 瀬戸順次 田中静佳 鈴木 裕 池田辰也 水田克巳
山形県健康福祉部健康福祉企画課 大貫典子
山形県置賜保健所 山田敬子
山形県村山保健所 阿彦忠之
山形県庄内保健所 石川 仁

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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