国立感染症研究所

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海外の麻疹の状況

(IASR Vol. 39 p62-64: 2018年4月号)

世界保健機関(WHO)は, 2020年までにWHOが分類する6地域のうち, 少なくとも5地域において麻疹・風疹の排除達成を目標に掲げている。本稿では, 2017年の各6地域における流行状況について報告する。

アメリカ地域(AMR):米国, カナダ, アルゼンチン, ベネズエラの4カ国から272例の報告1)があった(前年:92例)。米国の症例報告数は15州から120例で, 検出されたウイルス遺伝子型は, B3型, D8型であった。特にミネソタ州からは, 4~5月にかけて遺伝子型B3型の65例が報告され, 最初の発症者は, 海外渡航歴の無い, 麻疹曝露歴不明のワクチン未接種乳幼児であった。カナダでは2~5月にかけて, オンタリオ州や大西洋沿岸のノバスコシア州から45例の報告があり, 検出された遺伝子型は, B3型, D8型であった。アルゼンチンからは, ウイルス遺伝子型 D8型の3例が報告されている。ベネズエラでは8月末~9月初頭よりボリバル州を中心として麻疹の流行(ウイルス遺伝子型D8型)が発生し, 104例の症例報告があった。この流行は, 2018年に入ってからも続いており, 感染者の60%は, 5歳以下の小児, 30%は6歳~15歳の若年層で, 報告症例数は1,000例に迫っている。

ヨーロッパ地域(EUR):症例報告数2)は16,006例で, 前年(5,275例)に比べほぼ3倍に増加していた。国別では, ルーマニア(5,562例)が最も多く, 以下, イタリア(5,006例), ウクライナ(4,767例), ギリシャ(967例), ドイツ(927例)と続いた。流行しているウイルスの遺伝子型のほとんどはB3型, D8型で, 少数例でD9型, H1型が報告されている。感染者の年齢構成をEU/EEU加盟30カ国(14,451例)に限りみると3), 37%(5,299例)が6歳未満, 45%(6,440例)が15歳以上で, 特に高い年間罹患率を示したのは, 1歳未満(人口100万対367.2)と1~4歳(人口100万対161.7)の乳幼児であった。感染者のワクチン接種歴は, 87%がワクチン未接種者, 8%が1回接種者, 3%が2回接種者, 2%が接種不明者であった。

西太平洋地域(WPR):症例報告数は9,329例で, 前年(57,654例)の約1/6まで減少した2)。特に2015年(20,374例) と2016年(28,823例), 首都ウランバートルを中心に大規模な流行が発生したモンゴルでは, 感受性者(年齢層18~30歳) を対象としたワクチンキャンペーンにより, 9例まで症例報告数が減少した4)。2014年に5万例以上の報告があった中国では, 2016年に24,839例, 2017年は5,755例にまで減少した。その他, 症例報告数の多い国は, マレーシア (1,510例), フィリピン(781例), ベトナム(667例) で, 本邦からは, 187例が報告されている。流行しているウイルスの遺伝子型をみると, 中国ではH1型が主流を占め, ごく少数のB3型, D8型が検出されている。マレーシアからはB3型, D8型, D9型, フィリピンからはB3型, ベトナムからはD8型が報告されている。本邦ではD8型の検出が多く, 次いでB3型や少数のH1型が報告されている。

南東アジア地域(SEAR):2017年にブータン, モルディブ5)が麻疹排除を達成した一方で, 同地域全体では未だ大きな流行が発生している。当地域からの症例報告数は69,719例(前年:80,672例)で, インドからの報告数が全体の約80%を占めている(55,226例)。インドにおいて流行しているウイルス遺伝子型はD8型が主流で, 一部D4型が検出されている。次いで報告の多い国は, インドネシア(6,583例), バングラデシュ(4,176例), タイ(2,068例), ミャンマー(1,317例)で, これらの国々より報告されているウイルスの遺伝子型は, インドネシアではD8型, タイでは報告数の20%がB3型, 80%がD8型となっている。SEARでは, 麻疹・風疹排除対策を加速させるため, 今後2年間に5億人の小児に対して定期接種・補助的ワクチン接種キャンペーンを計画している5)

東地中海地域(EMR):症例報告数は, 9,042例であった(前年:6,372例)。特に流行の多い国はパキスタンで, 症例報告数の71%(6,437例)を占めており(前年: 2,806例), 次いで, イエメン(1,634例, 前年:143例), アフガニスタン(1,355例, 前年:641例)と続いた。これら3カ国の麻疹含有ワクチンの接種率は, 第一期で70%以下, 第二期では, 50%を下回っていた。一方で, 第一期, 二期の接種率が90%以上を維持しているアラビア半島, 北アフリカの諸国では, 年間罹患率が人口100万対1未満を達成していた。流行しているウイルスの遺伝子型はB3型, D8型であった。

アフリカ地域(AFR):23,610例の症例報告数があった(前年:36,558例)。ナイジェリアでは, 2016年から大きな流行(17,581例)が発生し, 2017年でも全体の45%を占める10,795例の症例報告数があった。この状況に対応するため, ナイジェリア政府は, 2017/2018年に生後9~59か月の小児を対象としたワクチン接種キャンペーンを実施している6)。比較的大きな流行は, コンゴ共和国(3,772例), エチオピア(1,929例), ガボン(1,084例)でも発生しており, ナイジェリアを含めたこれら諸国では, 麻疹含有ワクチンの2回接種は実施されておらず, 第1期接種率も80%を下回っている。報告されているウイルスの主な遺伝子型は, 南アフリカ共和国からD8型, その他諸国ではB3型であった。

 

参考文献
  1. Measles/Rubella Weekly Bulletin Vol.23, No.52
  2. Measles and Rubella Surveillance Data
    http://www.who.int/immunization/monitoring_surveillance/burden/vpd/surveillance_type/active/measles_monthlydata/en/
  3. Monthly measles and rubella monitoring report February 2018, European center for disease preven-tion and control, Stockholm, 2018
  4. Measles-Rubella Bulletin Vol.11, 2017
  5. WHO South-East Asia, Recent press release and media statement
    http://www.searo.who.int/mediacentre/releases/2018/1679/en/
  6. WHO Region of Africa
    http://www.afro.who.int/news/nigerian-government-flags-20172018-measles-vaccination-campaign-kaduna-state-governors
 
国立感染症研究所ウイルス第三部 染谷健二 竹田 誠

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