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保育園で発生した腸管出血性大腸菌O26とO157の集団感染事例―長野県

(IASR Vol. 39 p78-79: 2018年5月号)

2017(平成29)年8月に, 長野県内の保育園において腸管出血性大腸菌 (EHEC) O26:H11 (VT1産生) (以下O26) とO157:H7 (VT1&2産生) (以下O157) を原因とする集団感染事例が発生したので概要を報告する。

1.事例の概要

2017年8月2日に, 管内医療機関から当保健所にO26の患者発生届があった。患者は保育園年長児クラスの6歳女児(以下A)で, 7月29日から発熱・下痢等を呈し, 医療機関を受診しO26が検出された〔後に溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症〕。諏訪保健所は直ちにAの保護者の家族健診や家庭内の二次感染予防の助言をするとともに, 園内で有症状者の有無を調査し, 手洗い・消毒等の徹底を指示した。8月4日にAの便よりO157も検出された。同日同園2歳児クラスの女児(以下B)よりO157にて血便を呈しHUSを発症したとの届出があった。8日にAと同クラス女児(Bの姉妹)のO157の届出があった。園内の感染を疑い, 10日よりAとBの在籍するクラスの園児と職員全員の検便を実施した。O26 2名, O157 3名の感染が確認された。園内で簡易プール使用が観察されたことから, 過去の事例1)に鑑み中止要請を行った。しかし実際にはプールの中止期間は一時的であった()。25日, O157園児(他クラス)発症により, 全園児・職員の検便を実施した。O26 12名, O157 2名の感染が確認された。時間外保育でのクラス間の交流による感染拡大防止のため9月5日より5歳以上も含め感染者の登園を自粛するとともに, 園の対策を見直し, 当所より直接指導を行った。感染者の増加に対し9月21日に再度全園児・職員の検便の実施とともに5日間の休園を行った。O26 18名の感染が判明し, 感染者の登園自粛を行った。10月3日より国立感染症研究所(感染研)感染症疫学センターの助言を受け, 地域の医療機関(12医療機関参加)によるモニタリング体制を構築するとともに, 管内医師会および全医療機関に協力を依頼した。10月25日に年中児クラス男児のO26発症の届出があった。同児クラスのふき取り調査を実施(すべて菌陰性)。29日に家族健診でO26保菌者1名を確認した。園内に有症者の増加が認められないためモニタリングを継続した。12月1日までに, 患者と無症状病原体保有者全員の検便陰性を確認し, また, 最後の菌陽性の確認から最大潜伏期間(14日)の2倍が経過したため終息とした()。

本事例の対象園児187名, 全職員(調理従事者を含む)37名, 保菌者の家族(在籍している園児を除く)124名, 計348名の検査の結果, EHECの検出者は園児42名, 職員6名(調理従事者0名), 園児・職員の家族15名, 計63名で, 血清群はO26が54名(有症状者25名), O157が10名(有症状者4名) から検出された(1名はO26とO157同時検出により重複)。重症者(HUS)は2名だった。

2.分離された菌株について

O26 47株およびO157 10株について感染研にて, 反復配列多型解析法(MLVA)が実施された。O26は, 8月2日~9月4日(診断日)は, MLVA型の異なる3種類であったがcomplexは17c232(11株)で一致していた。9月3日~10月29日は, MLVA型の異なる2種類であったがcomplexは17c225(36株)で一致していた。前者のMLVA型の大多数の型(17m2089)と後者の大多数の型(17m2182)はdouble locus variant(DLV)のため別のcomplexとされたが, 両者はプラスミド由来の遺伝子座が違うため類縁株と考えられた。また, O157についてはMLVA型の異なる3種類であったがcomplexは17c017で一致した。complexが一致しているため集団感染事例と考えられた。

3.モニタリングについて

地域の医療機関には, 当該保育園の園児および職員について, 有症状〔血便, 粘液便, 腹痛, 下痢, 軟便(3回以上)〕で受診された場合は, 細菌検査(O26およびO157を含む)実施の上診療し, 結果が出るまで登園の自粛を依頼した。5歳未満の児では2回以上連続で便検体陰性を確認され, 全身状態が良好であれば登園可能とされることも勘案した2)。また, 全園児・職員を対象にした検便検査や休園の対応がとられた。検便保菌者の登園自粛より29日目にO26の患者(園児)が発症したことから, 不顕性感染によるEHECの感染伝播の可能性を考慮し, 園内の環境調査とともにおむつ交換時防護具着脱指導や動線管理・ゾーニングを含む標準的予防策を徹底し, 園のモニタリングを継続した。その後園児の発症はなく, 最終患者の家族保菌者の確認から最大潜伏期間の2倍経過し, かつすべての菌陽性者の陰性化を確認した。管内の他の発生もないため終息とした。

 

参考文献
  1. 笠原ひとみら, IASR 34: 132-133, 2013
  2. 厚生労働省, 保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版), 2018年3月

 

長野県諏訪保健福祉事務所
 白井祐二 高橋直子 尾川裕子 井桁しげ子
長野県松本保健福祉事務所
 鳥海 宏(平成29年度所属による)
国立感染症研究所
 神谷 元 砂川富正

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan