IASR-logo

保育施設における腸管出血性大腸菌O26:H11による集団感染事例―神奈川県

(IASR Vol. 39 p79-81: 2018年5月号)

2017(平成29)年6月に保育施設において腸管出血性大腸菌(EHEC)O26:H11を原因とする集団感染事例が発生したのでその概要を報告する。

事例の探知および経過

2017年6月20日に伊勢原市内の病院より秦野市内の保育施設に通う園児のEHEC感染症発生届〔患者(確定例)EHEC O26 VT1〕が管轄である平塚保健福祉事務所秦野センター(以下秦野センター)に提出された。症状は腹痛と血便であった。直ちに積極的疫学調査として主治医, 感染症認定看護師, 保護者に聞き取り調査を行い, 神奈川県衛生研究所に家族の便培養を依頼した。また, 保育施設(園児103名, 施設従事者24名)の立ち入り調査を実施し, 園児・施設従事者の健康状況, 欠席状況, 行事の確認, 保育施設の環境調査, 衛生指導, 給食の確認を行ったところ, 園児1名が下痢で通院中であること, 保育施設がプール開きを予定していることが判明した。

6月24日に同じ保育施設に通う家族の6月21日の便検体からEHEC O26 VT1が検出され, 無症状病原体保有者と診断した。

6月27日に秦野市内の病院から, 下痢で通院中の園児の6月20日の便検体からEHEC O26 VT1が検出されたと連絡があり, 発生届〔患者(確定例)〕が提出された。

6月28日に患者(確定例)と接触のある保育施設の園児37名および施設従事者24名の健康診断を行い, 翌日より61名の便培養を神奈川県衛生研究所に依頼した。

結 果

7月2日に園児5名の便検体からEHEC O26 VT1が検出され, 無症状病原体保有者と診断した。

7月5日に秦野市内の診療所から, 水様便で受診した園児1名の6月29日の便検体から, EHEC O26 VT1が検出されたと連絡があり, 発生届〔患者(確定例)〕が提出された。また, 健康診断を6月28日に行った園児4名の便検体からEHEC O26 VT1が検出され, 無症状病原体保有者と診断した。この時点で保育施設の園児13名〔患者(確定例)3名, 無症状病原体保有者10名〕にEHEC O26 VT1の感染が確認されたが, 施設従事者24名の便検体からはEHEC O26 VT1は検出されなかった。同日, 保育施設におけるEHEC O26の集団感染について, 感染があった園児は1歳児1名, 3歳児2名, 4歳児7名, 5歳児3名の13名であると公表した。

7月6日に園児1名(無症状病原体保有者)に血便を認めたため, 感染症発生動向調査(NESID)の登録情報を患者(確定例)に修正した。

7月13日に家族の便検体からEHEC O26 VT1が検出され, 患者(確定例)と診断した。症状は腹痛と発熱と軟便であった。その後は園児, 施設従事者, 家族を含め, 新たな発生届はなかった。

感染者23名〔保育施設の園児13名, 家族(園児を除く)10名〕 の菌株は, 相同性が高いパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンを示した。

保育施設で感染が確認された園児13名中の4名(30.8%)が患者(確定例)であったが, 溶血性尿毒症症候群(HUS)などの重篤事例はなく, 9名(69.2%)が無症状病原体保有者であった()。

9月4日にすべての感染者(便培養の陽性が1カ月以上続いた園児を含む)の便培養の陰性を確認し, 事例は終息した。

考 察

地域医療機関の医師, 感染症認定看護師により迅速に秦野センターに連絡が入るとともに発生届が提出された。秦野センター保健予防課が直ちに聞き取り調査を行い, 無症状病原体保有者を含めた便培養の陽性者と接触のある家族の便培養を実施した。

また, 保育施設の立ち入り調査は秦野センター保健予防課と食品衛生課が実施した。初夏の事例であったことから, 秦野センター環境衛生課が当該保育施設でのプール利用について助言を行うなど, 生活環境に関する指導も速やかに行った。本事例ではプール開きの前に立ち入り検査が行われたため, プールでの感染拡大はなかったが, 過去の報告では, 低年齢児がよく使用する簡易プールが塩素消毒されていなかったために, そのプール遊びが原因となって保育所内で集団発生がみられたことがたびたび報告されており, 塩素消毒基準の厳守と患者発生時には速やかに保健所に届け, 保健所の指示に従い消毒を徹底することが求められている1)

保育施設および保護者の協力により行われた接触者の健康診断での便培養後に複数の感染者が診断されたが, 2016年10月に神奈川県を含め広域で発生した冷凍メンチカツによるEHEC O157 VT2食中毒事例2)の際に, 地域での連携がより強化されており, 地域医療機関の紹介受診の受け入れは円滑かつ良好であった。

事例の公表に関しては個人情報に配慮しつつ感染拡大防止のため, 各関係機関に協力頂き, 適切に行われたと考えている。

園児13名中の9名(69.2%)が無症状病原体保有者であったが, 5歳未満の無症状病原体保有者では2回以上連続で便培養が陰性になれば登園が可能1)とされている。今回1カ月以上排菌が続いた園児もいたが, 5歳未満が無症状病原体保有者と診断された場合に, 便培養の陰性の確認まで保護者の勤務調整や病児保育施設への調整が必要になる場合もあった。EHECに対する治療成績の集積により, 重症化を防ぐとともに排菌期間を短縮する治療法の検討が期待される。

本事例では, 感染経路として保育施設, 家庭内でのヒトからヒトへの接触感染が推測された。明らかな感染源・感染経路は特定されなかったが, 秦野センターの保健予防課, 食品衛生課および環境衛生課の連携により保育施設への支援を実施することができた。原因となる感染源・感染経路が特定されるよう, 今後も各関係機関と連携した公衆衛生学的な疫学調査が必要である。

謝辞:調査に協力頂いた園児, 保護者, 保育施設, 一般社団法人秦野伊勢原医師会, 伊勢原協同病院, 秦野赤十字病院の皆様, 公表に際し協力頂いた市役所, 神奈川県庁, 県政・秦野記者クラブの皆様に感謝します。

 

参考文献
  1. 2012年改訂版 保育所における感染症対策ガイドライン
  2. 片山 丘ら, IASR 38: 91-92, 2017

 

神奈川県平塚保健福祉事務所秦野センター
 三橋康之 橋本 崇 石橋幸奈 中井 綾 彦根倫子 田坂清明 須藤 肇 奥山裕子
 丸山 浩 牧野ゆり子
神奈川県衛生研究所
 片山 丘 白土弘美 山崎直美 政岡智佳 古川一郎 黒木俊郎 田坂雅子 寺西 大
 中村廣志 髙崎智彦

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan