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北海道釧路保健所管内で発生したエコーウイルス30型による無菌性髄膜炎の多発事例について

(IASR Vol. 39 p91-93: 2018年6月号)

2017年8~12月にかけて, 北海道釧路保健所管内の定点医療機関から無菌性髄膜炎患者の報告が相次いだ。管内の小児科医から情報提供を受けた同保健所が主な医療機関の協力を得て調査した結果, 95人の無菌性髄膜炎による入院患者を把握した。患者の性別は男性53人, 女性42人であり, 年齢中央値は16歳(範囲:0~61歳)で, 世代の内訳は乳幼児が18人, 小学生が25人, 中学生・高校生が5人, 19~29歳が15人, 30~39歳が29人, 40歳以上が3人であった(図1)。症状は発熱が63人, 頭痛が56人, 嘔吐・嘔気が43人, 項部硬直などの髄膜刺激徴候が41人にみられた。小児の症例は予後良好で, 平均3日で退院可能となり後遺症も認められていないが, 成人症例の平均入院期間は約6日で, 中には歩行困難となり退院までに2週間近く要した症例も含まれていた。また, 同一保育所に通う園児とその家族とみられる患者が21人(園児5人, 家族16人)確認された。この保育所では8~9月にかけて発熱等の症状により52人の園児が欠席し(図1), このうち5人が無菌性髄膜炎と診断され入院していた。

当所には9~12月にかけて3医療機関から患者24人分の検体が搬入された。検体種別は髄液24検体(24人分), 血清22検体(17人分), 咽頭ぬぐい液1検体(1人分)であった。発症から検体採取までの日数は平均2日で, 最長で8日であった。検体を採取された患者の性別は男性13人, 女性11人であり, 年齢中央値は11歳(範囲:1~39歳)であった。

エンテロウイルスの検査は, RT-PCR法によるウイルス遺伝子検出および培養細胞を用いたウイルス分離を実施した1)。最初にすべての検体に対してVP1領域を増幅するCODEHOP semi-nested RT-PCR法およびVP4-VP2領域を増幅するnested RT-PCR法を行い, エンテロウイルスの遺伝子検出を試みた。この結果, 髄液21検体(21人分)および血清8検体(8人分)から当該ウイルスの遺伝子が検出された。VP1領域の遺伝子が検出された髄液21検体および血清6検体について, 検出された遺伝子の塩基配列(325bp)を決定してウイルスの型別を行ったところ, すべてエコーウイルス30型(E-30)と同定された。また, 25検体から検出されたウイルス遺伝子の塩基配列は完全に一致し, 残り2検体から検出されたウイルス遺伝子についても99%以上の相同性が確認された。さらに, 遺伝子が検出された髄液21検体についてRD-18S細胞およびCaco-2細胞を用いてウイルス分離を試みたところ, 15検体からウイルスが分離された。すべての分離株がエコーウイルス同定用プール血清(EP-95)による中和試験によってE-30と同定された。

E-30による無菌性髄膜炎は1980~1990年代に3度全国的に流行しているが2), その後は地域的な流行が散発的に報告されている3-5)。今回検出されたE-30のVP1領域325bpを近隣結合法により系統解析した結果, 本事例の患者からの検出遺伝子が同じクラスターを形成する一方, 2010~2014年に検出された国内分離株の塩基配列とは異なるクラスターを形成することが示された(図2)。

北海道感染症発生動向調査における無菌性髄膜炎患者の報告数は, 1週間当たり通常0~3人(0~0.13人/定点)で推移しているが, 2017年第35週(8月28日~9月3日)は10人(0.43人/定点), 第36週(9月4日~10日)に11人(0.48人/定点), 第38週(9月18日~24日)に8人(0.35人/定点)報告されている。しかし, これらの報告のほとんどは釧路保健所管内の定点医療機関からのものであり, 他の地域における無菌性髄膜炎の流行は認められなかった。

エンテロウイルスによる無菌性髄膜炎は一般的に小児の感染症とされているが1), 今回の事例は親世代にあたる成人の症例が全入院者数の約半数を占めた。また, 成人の入院患者の約半数には, 家族内にも発熱等の症状を示す者が認められた。そのため本事例は, 保育所内や家族間など人の接触する機会が多い中でウイルスが伝播した可能性が示唆された。患者は回復後も2~4週間ウイルスを排泄するため, 年齢に関わりなく適切な感染予防策をとることが感染拡大の防止に重要と考えられる。

 

参考文献

 

北海道立衛生研究所
 後藤明子 三好正浩 駒込理佳 山口宏樹 石田勢津子 長野秀樹 岡野素彦
北海道釧路総合振興局保健環境部保健行政室
 杉澤孝久 宍戸明美 小野富美 
市立釧路総合病院小児科 山本 大
釧路赤十字病院小児科 仲西正憲
釧路労災病院神経内科 津坂和文
釧路孝仁会記念病院脳神経外科 入江伸介
北海道保健福祉部健康安全局地域保健課 島田光平

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