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Multiplex PCR法 による肺炎球菌血清型別の有用性

(IASR Vol. 39 p111-112: 2018年7月号)

はじめに

新潟県では2013年から厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業 「成人の重症肺炎サーベイランス構築に関する研究」, 2016年からは「成人の侵襲性細菌感染症サーベイランスの構築に関する研究」に参加しており, 県内の保健所(新潟市除く)に届出のあった15歳以上の侵襲性肺炎球菌感染症患者から分離された肺炎球菌について血清型別を実施している。

肺炎球菌の血清型別は従来から莢膜膨化法が用いられているが, 近年ではmultiplex PCR法(以下PCR法)による血清型別が開発され実施可能となっている。当所でも2013年からPCR法により血清型別を実施しており, 本稿はPCR法による血清型別の有用性と当県の3年間における血清型の動向について報告する。

調査方法

2015年4月~2018年3月に医療機関で95名から分離された肺炎球菌104株を対象とした。菌株のDNA抽出はHigh Pure PCR Product Purification Kit(Roche)を用いた。PCR反応液の組成, プライマー配列および反応条件は米国疾病管理予防センター(CDC)ホームページ1)を参照し, アガロースゲル電気泳動で増幅産物のサイズにより血清型を型別した。また, 莢膜膨化法(Statens Serum Institut製血清)による血清型別を国立感染症研究所細菌第一部で実施した。

結 果

104株すべてでPCR法による増幅産物が得られ, 増幅産物のサイズから血清型を型別することができた()。血清型はPCR法では18種類, 莢膜膨化法では19種類に型別された。主な血清型は, PCR法では血清型3と12F/12A/44/46がそれぞれ19株(18.3%), 次に10Aが9株(8.7%), 6C/6Dと35Bがそれぞれ8株(7.7%)となった。12F/12A/44/46と型別された株は莢膜膨化法ですべて12Fと型別され, 6C/6Dと型別された株はすべて6Cと型別された。また, 6A/6Bに型別された3株は, それぞれ6B(2株), 6A(1株)に型別された。その他, PCR法で単独の血清型に型別できなかった22F/22A, 15A/15F, 33F/33A/37, 11A/11D, 24A/24B/24Fはそれぞれ22F, 15A, 33F, 11A/Eおよび24Fに型別された。

考 察

2013年7月~2018年1月までの10道県で報告された成人IPD由来1,144検体の解析結果2)によると, 血清型3の分離率は最も高く13.7%であり, 当所の3年間の結果でも18.3%で12Fと並び最も高かった。また, 同解析結果で12Fは2016年に29.6%, 2017年は17.8%と高い分離率であった。血清型3と12Fは23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンに含まれる血清型のため, 高齢者の定期予防接種率向上により予防効果が期待される。

PCR法で型別できる血清型は40種類(68血清型)であり, そのうち6A/6Bのように単独の血清型に型別できない複数の血清型が17種類(46血清型)ある。今回, PCR法で型別できた18種類のうち単独の血清型に型別できた10種類の血清型は莢膜膨化法による血清型とすべて一致した。一方, 複数の血清型の8種類はすべて莢膜膨化法で型別された血清型が含まれ, 2法による型別結果に矛盾はなかった。

PCR法による血清型別はプロトコールに準拠し, 各反応液の調整を事前に準備しておくことで比較的容易に実施でき, スクリーニング法として有用であった。

謝辞:菌株の収集にご協力いただいた県内の保健所および医療機関の関係各位に感謝します。

 

参考文献
  1. The Centers for Disease Control and Prevention: PCR Deduction of Pneumococcal Serotypes
    http://www.cdc.gov/streplab/pcr.html(2018年5月9日閲覧)
  2. 大石和徳, 成人の侵襲性細菌感染症サーベイランスの構築に関する研究 平成29年度総括・分担研究報告書, 厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業

 

新潟県保健環境科学研究所
  木村有紀 猪又明日香 青木順子 昆 美也子 紫竹美和子
国立感染症研究所細菌第一部 常 彬

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